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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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権力の蹂躙と断罪

 

 豪奢な純木の扉が粉々に吹き飛んだ玉座の間。

 舞い散る粉塵の向こう側で、丸々と太った成金趣味の悪徳領主――プレイヤー『ノイズ』が、玉座の陰に隠れるようにして腰を抜かしていた。


「ひぃッ!? な、なんだお前らは! 赤ネームの犯罪者風情が!」


 ノイズは恐怖で裏返った声を上げながら、震える指で俺たちを指差した。


「や、やれ! 俺の近衛兵ども! そいつらを今すぐ殺せェェェッ!!」


 ノイズの叫びに呼応し、彼を護衛するように立ちはだかっていた五人の騎士NPCが一斉に武器を構えた。

 いずれも全身を煌びやかな重鎧で包み、殺気を放っている。

 俺は即座にアナライズをかけ、彼らの頭上に表示されたステータスを読み取った。


『Royal Guard [Lv.71]』


(レベル71の近衛兵が五人、か。領主の権限で金にモノを言わせて雇った、最高クラスの防衛システムってわけだ)

 だが、その程度の戦力で、今の俺たちを止められるとでも思っているのか。


「ルナ。奴らはただプログラムに従って動いてるだけのNPCだ。命まで奪う必要はねぇ、無力化だけしろ」

「はいッ、分かっています!」


 俺は右腕の機装に魔力を流し込み、ガシャンッ! と硬質な音を立てて《機装変形:重装騎士ファランクス》へと変形させた。

 巨大な大盾を構え、大きく息を吸い込む。


「こっちを見やがれ、ブリキの案山子ども! 《重装騎士の絶対挑発ナイト・ハウル》ッ!!」


 俺の咆哮と共に、強烈な赤いヘイトの光が広がり、五人の近衛兵全員のシステム的なターゲット(敵視)が俺一人に完全に固定された。

「逆賊め、死ねェッ!」

 五人が連携もクソもなく、ただ俺というヘイトの塊に向かって一直線に殺到してくる。


 だが、彼らが俺に武器を振り下ろそうと、その腕を大きく振りかぶった瞬間。

 完全にフリーとなっていたルナの姿が、陽炎のようにブレて掻き消えた。


「――シッ!!」


 鋭い呼気と共に、白銀の閃光が玉座の間を縦横無尽に駆け抜けた。

 ルナは、彼らの命を奪うような急所には一切目もくれなかった。彼女の研ぎ澄まされたサファイアブルーの瞳が捉えたのは、近衛兵たちが剣や槍を握る『腕の関節』のみ。


 ザシュッ! ズバァァンッ!!

「がぁぁっ!?」

「腕が……ッ!」


 EHOというゲームには、ダメージの特定の部位への蓄積による『部位破損(欠損)』のシステムが存在する。高位の回復職によるヒールを受けない限り、破損した部位は自然治癒せず、武器を握ることもできなくなるという極めてハードな仕様だ。

 ルナの放った神速の《流転の絶華》が、一切の無駄なく五人の近衛兵の武器を持つ腕の関節部分だけを正確に削り取った。

 ガチャン、ガランッ! と、彼らの手から次々と武器が滑り落ち、大理石の床に力なく転がる。

 五人の近衛兵は腕を押さえて苦悶の声を上げ、完全に戦闘不能(無力化)状態となってその場に崩れ落ちた。


「……よし。お前らはそこで大人しく寝てな」


 俺は大盾を構えたまま、呻き声を上げる五人の近衛兵たちを逃がさないように見張る立ち位置についた。


「な……ば、バカな!? 俺の最強の近衛兵たちが、たった数秒で……!?」


 玉座にすがりついていたノイズが、信じられないものを見るように目をひん剥いた。


 そのノイズの目の前に、ルナが静かな足取りで詰め寄っていく。

 白銀の片手剣の切っ先をだらりと下げ、彼女はゴミを見るような冷徹な視線で、この暴君を見下ろしていた。


「ひぃッ……! く、来るな! お前ら、自分が何をしてるか分かってんのか!?」


 ノイズは玉座からズリズリと後ずさりし、震える声で早口に捲し立て始めた。


「俺は領主だぞ! それにこの防具を見ろ! 攻略サイトで『結論装備』と呼ばれてる、このレベル帯で最強の防具一式だ! 武器だって、現実リアルの金に物を言わせて限界まで最大強化済みなんだぞ! 赤ネーム風情が、システムに守られた俺に敵うわけが――」


「……黙りなさい」


 ルナの低く、冷たく、そして絶対的な怒りを孕んだ一喝が、玉座の間に響き渡った。

 その声の底知れぬ凄みに、ノイズはビクッと肩を震わせて戯言を止めた。


「あなたは……システムに守られなければ、お金がなければ、自分の手で剣を振るうことすらできないんですか?」


 ルナは、心底見損なったというように目を細めた。


「家族を奪われ、地下の暗闇で有毒な鉱石を掘らされていた人たちは、あなたの装備にもお金にも、少しも興味はありません。……彼らの命を奪って得たもので威張るなら、あなたに一人のプレイヤーとしての『ケジメ』をつけてもらいます」


 ルナは虚空を弾き、システムメニューを開いた。

 そして、ノイズに向かって一つの申請ポップアップを突きつけた。


『プレイヤー [Luna] から 1vs1(デュエル)の申請が届きました』


「……デュエル、だと?」


 ノイズが目を丸くする。

 周囲の干渉を一切受けない結界が展開され、一対一での戦闘が強制的に開始される公式な決闘システム。


「あなたのレベルは……65ですね。私の方がレベルが高いので、条件を合わせます」


 ルナはシステムの設定を操作し、さらに言葉を続けた。


「『レベルシンク(同期)』を設定しました。これで、お互いのレベルは65で完全に固定されます。レベル差によるダメージの無効化も、ステータスの有利不利もありません」


「……はっ! レベルを合わせただと!?」


 その言葉を聞いた瞬間、ノイズの顔に歪んだ下劣な笑みが戻ってきた。


「バカが、自分から有利な条件を捨てやがった! 同じレベルなら、最強の装備で身を固めてる俺が負けるわけねぇだろうが! 返り討ちにしてやるよッ!」


 ノイズは勢いよくデュエルの『受諾アクセプト』ボタンを叩き割り、玉座の裏から悪趣味な装飾が施された大剣を引き抜いた。


 ピロリン、という電子音と共に、二人の周囲に決闘用の透明な結界が展開される。


(……やれやれ、本当にバカな奴だ)


 俺は盾に寄りかかりながら、内心で深い溜め息をついた。

 同じ土俵に立った時、勝敗を分けるのは装備のレアリティなどではなく、実戦で磨き上げられた純粋な『プレイヤースキル』だということを、この三流は全く理解していない。


『DUEL START!!』


 システムのアナウンスが響いた瞬間。


「死ねェェェェッ、このクソアマァァァッ!!」


 ノイズが巨大な大剣を力任せに振り被り、ルナの頭上へと叩き下ろした。

 最大強化された武器から放たれる、強力な一撃。


 だが、ルナのサファイアブルーの瞳は、その鈍重な太刀筋を冷ややかに見切っていた。

 大剣が彼女に触れるコンマ一秒前、ルナは最小限のステップでその重撃を紙一重で躱す。

 大剣が空を切り、大理石の床に激突してノイズの体勢が大きく崩れた、その隙を見逃さなかった。


「――シッ!」


 ルナの白銀の剣が、鋭い弧を描いて閃いた。

 狙いはノイズの急所ではない。彼が大剣を握りしめている『両腕』だった。


 ズバァァァァンッ!!


「が、あァァァァッ!?」


 ルナの放った《穿空の絶華》が、最強の防具の関節の隙間を的確に貫き、ノイズの両腕を無慈悲に破壊した。

 システム上の『部位破損』判定。手首から先の操作権限を強制的に奪われ、ノイズの握っていた最大強化の大剣が、ガランッという音を立てて床に転がり落ちた。


「お、俺の腕が……!? 動か、ない……武器が持てねぇ!?」


 両腕をだらりと垂れ下げたまま、ノイズは戦意を完全に喪失し、その場に無様に這いつくばった。


「ひぃッ……! や、やめろ、来るな! 悪かった、税金は元に戻す! 解放したNPCも好きにしていい! だから、殺さないでくれッ!」


 無力化された暴君は、涙と鼻水を流しながら、泥に塗れて命乞いを始めた。


 だが、ルナは片手剣を構えたまま、一片の慈悲もない冷徹な眼差しで彼を見下ろしていた。


「……かつて、あなたが手にかけたNPCたちも、きっと同じ言葉を口にしていたはずです」


 ルナの声は、氷のように冷たく静かだった。


「家族を助けてくれと、殺さないでくれと、彼らもあなたに懇願したでしょう。でも、あなたはそれを『所詮はデータだ』と笑って切り捨てた」


「あ、ちがっ、俺はただシステムを利用しただけで……!」


「あなたが彼らの声に耳を貸さなかったように、私もあなたの言葉には耳を貸しません」


 言い訳を重ねようとするノイズの言葉を遮り、ルナは片手剣を高く振りかぶった。

 白銀の刃が、無慈悲な死刑宣告のように冷たい光を反射する。


「これは、奪われた人たちのためのケジメです」

「い、嫌だァァァァァァッ!!」


 一閃。


 ルナの《孤影の絶華》が、ノイズの首を正確に刎ね飛ばした。

 クリティカルヒットの破砕音が玉座の間に響き渡り、ノイズのHPバーは一瞬にして『ゼロ』へと吹き飛んだ。

 絶叫を上げていたノイズの身体は、光の粒子となって砕け散り、リスポーン地点へと強制送還されていく。


『DUEL END! Winner [Luna]』


 決闘の結末を告げるファンファーレが鳴り響き、周囲の結界が解除された。

 圧倒的な技量差による、完全無欠の断罪。

 ルナは剣についた光の粒子を振り払い、静かに、そして誇り高く鞘へと収めた。


「終わりましたね、アイズドさん」

 振り返った彼女の表情には、悲しい過去へのケリをつけたような、どこか晴れやかな色が浮かんでいた。


「ああ。見事な手際だったぞ」

 俺は機装を解除し、呻き声を上げる近衛兵たちを見下ろしながら、ルナの元へと歩み寄った。


 身勝手な権力を笠に着た暴君は消え去り、搾取されていた街に静寂が戻った。

 あとは、俺たちにつけられたこの『赤い犯罪者マーク』をどうにかして消す方法を探すだけだ――と、俺がそう息をついた、その時だった。


 ピィィィィン、と。

 突如として、俺とルナの視界のど真ん中に、見たこともない黄金のファンファーレと巨大なシステムメッセージが展開されたのだ。

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