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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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三流暴君の玉座


 地下牢獄の分厚い天井を《要塞大盾》のシールドバッシュで強引に叩き割り、俺とルナはグレイム領の領主の館、その本館1階へと物理的に脱出を果たした。

 瓦礫と粉塵を撒き散らしながら豪華な回廊へと降り立つと、近くにいた使用人のNPCたちが悲鳴を上げて逃げ惑う。俺たちは彼らには目もくれず、館の最上階にあるであろう玉座の間を目指して、大理石の床をズンズンと闊歩していった。


「止まれ、侵入者ッ! それ以上進むなら――」

「邪魔です。どいてください!」


 道中、各階の踊り場で完全武装した高レベルの衛兵NPCたちが立ちはだかってきたが、俺が《戦陣軍師》の魔導書を開く暇すらなかった。

 ルナが白銀の片手剣を抜き放ち、神速のステップで衛兵の死角へと潜り込む。無駄な殺生は避けるため、急所ではなく武器を持つ腕や膝の関節を的確に斬り裂き、次々と無力化していく。

 流麗にして苛烈。後ろを歩いている俺の仕事は、倒れて呻く衛兵たちを跨いで進むことだけだった。


「……いやぁ、それにしても見事な無双っぷりだな。すっかり俺は暇になっちまったよ」


 俺は魔導書を小脇に抱えながら、前を歩くルナの背中――彼女が纏う、妖妃モルガンから託された『魔法剣士の装束』を見つめた。


「さっきの地下での戦いも見事だったが、あの装束に付与されてる魔法、やっぱりとんでもねぇ性能だな。特にあの無詠唱の速攻魔法。あれって、魔法のクールタイムはどうなってるんだ?」


 軍師として、味方のスキルの仕様を完全に把握しておくのは基本中の基本だ。

 だが、俺の問いかけを聞いたルナは、ピタッと足を止め、気まずそうに肩をビクッと震わせた。


「……あの、アイズドさん」


 ルナはゆっくりと振り返り、指と指を合わせながら、酷くばつが悪そうな顔で目を伏せた。


「実はこれ、クールタイムっていうか……一日に使える回数が、決まっているみたいでして……」


「回数制限? まあ、あれだけのチート性能だ、無制限ってことはないだろうが。で、何回なんだ?」

「ええと……速攻魔法は一日に5回まで。補助魔法と属性付与魔法は、一日に3回まで、だそうです」

「ふむふむ。で、今の残弾は?」

「さっき地下の傭兵さんたちとの戦いで、魔法弾を5発連続で撃ち切っちゃったので……速攻魔法は、もうゼロです。補助と付与は1回使ったから、あと2回残ってます……」


 ルナは「怒られる」とでも思ったのか、チラチラと上目遣いで俺の顔色を窺ってきた。


「なるほどな」


 俺は小さく息を吐き、ポンと彼女の頭に手を置いた。


「謝ることはねぇよ。むしろ、あの性能を無限に撃てる方がゲームバランス的にイカれてる。……だが、今後はその残り2回のバフは『とっておきの場面』まで温存しておけ」


「とっておき、ですか?」

「ああ。無詠唱の魔法展開なんていう規格外のスキル、もし外の特定班や企業勢のハイエナどもに見られでもしたら、『あいつらが隠しアイテムを持ってる!』って一発でバレるからな。目をつけられて身ぐるみ剥がされるのは間違いない。安易に見せびらかす手札じゃないってことだ」

「は、はいっ! 肝に銘じます!」


 ルナが力強く頷き、再び前を向いて歩き出した。


 そうこうして最上階の豪華な大回廊を進んでいると、正面にある巨大で豪奢な両開きの扉の向こう側から、ヒステリックな怒鳴り声が漏れ聞こえてきた。


『どういうことだ! なんでたかが二人の赤ネームごときに、俺が雇った傭兵部隊が全滅してんだよ!!』

『も、申し訳ありません、領主様! 侵入者はすでに地下を抜け、この本館へと侵入を――』

『言い訳はいい! 早く増援の衛兵を呼べ! 金ならいくらでも積んでやるから、さっさとあのクソ共を始末しろォッ!!』


 割れんばかりのヒステリックな叫び声。それは紛れもなく、このグレイム領を私物化し、NPCの命をゴールドに換算して搾取していた悪徳領主――プレイヤーの声だった。


「……随分と取り乱してるみたいだな、三流領主様は」


 俺は冷たい笑みを浮かべ、ルナと視線を交わした。

 ルナも無言で頷き、白銀の片手剣の柄を強く握りしめる。


「開けるぞ」


 俺は右腕の機装を《狂乱斧士》の巨大な戦斧へと変形させ、豪奢な扉に向かって力任せに振り抜いた。

 ズガァァァァァァァンッ!!!!

 鼓膜を破るような轟音と共に、分厚い純木の扉が蝶番ごとへし折られ、木っ端微塵に吹き飛んで室内に散らばった。


「ヒィッ!?」


 蹴破られた扉の衝撃と粉塵が舞う中。

 広大な執務室――いや、悪趣味な装飾品で埋め尽くされた『玉座の間』に、静寂が訪れた。

 室内に展開していた数十人の高レベル衛兵NPCたちが、突如として現れた俺たちに当惑し、一斉に槍や剣を構える。


 だが、俺の視線は衛兵たちではなく、部屋の最奥、黄金で造られた悪趣味な玉座に座る一人の男に釘付けになっていた。


「……なんだ、あの胸焼けのするアバターは」


 俺は思わず眉間を揉みほぐした。

 そこにいたのは、丸々と肥え太った豚のような肥満体の男だった。これ見よがしに光り輝く純金の王冠を被り、全身にはステータス度外視の、ただ「高価なだけ」の宝石が散りばめられた派手なマントを羽織っている。

 RMTで稼いだ金でアバターの外見権スキンを買い漁り、自らの権力欲を満たすために作り上げたのであろう、吐き気を催すほどの『成金趣味』。

 だが、その醜悪な顔に張り付いているのは、王としての威厳ではなく、扉をぶち破られて腰を抜かし、玉座の陰に隠れようとする滑稽な『臆病さ』だった。


「お、お前ら何者だッ! ここをグレイム領の領主、ノイズ様の城と知っての狼藉か!」


 玉座に隠れながら、ノイズが裏返った声で叫ぶ。


「赤ネームの犯罪者風情が! 俺はシステムに選ばれた領主だぞ! 権限を使って、お前らなんか一瞬でBANしてやるからなッ!」


 震える声で権力を振りかざし、虚勢を張る三流の悪党。

 俺は、その滑稽な姿を見て、腹の底から湧き上がる冷たい軽蔑を隠すことなく、フッと鼻で笑った。


「システムに選ばれた、ねぇ。与えられた権限で神様気取りかよ、底が浅すぎて虫酸が走るぜ」


 俺は戦斧を肩に担ぎ、衛兵たちの殺気を正面から浴びながらも、堂々と玉座の間へと足を踏み入れた。


「罪のない人たちを地下に閉じ込め、家族を奪って……そんな腐った玉座に座っているあなたを、私は絶対に許しません!」


 ルナが俺の隣に並び立ち、白銀の剣をノイズへと真っ直ぐに突きつけた。彼女のサファイアブルーの瞳には、一切の容赦のない、冷徹な怒りの炎が燃え上がっている。


「や、やれ! 衛兵ども、そいつらを今すぐ殺せェェェッ!!」

 ノイズがヒステリックに叫び、数十人の衛兵たちが一斉に俺たちへと殺到してくる。


「さあ、お掃除の時間だルナ」

「はいッ、アイズドさん!」


 権力に縋るだけの暴君をその玉座から引きずり下ろすため。

 赤き罪の烙印を背負った二人の開拓者は、圧倒的な数の暴力を前にしても一切怯むことなく、最悪の領主が支配する空間へと真っ向から飛び込んでいった。

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