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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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事務処理と闘技場に響く剣戟

 

「――避難民の第三グループは、東区画の空き住居へ誘導しろ。怪我人は神殿前の臨時救護所へ。毛布と食料の配給ルートは、この図面の通りに最適化してある。各班、指示通りに動け!」


 俺の飛ばす的確な指示と、空中に展開したシステムマップの共有により、フェネキア族のボランティアたちの動きが見違えるようにスムーズになっていった。

『空を抱く地下都市』の中央広場を埋め尽くしていた避難民の混乱は、俺が介入してわずか数十分で、劇的に沈静化の方向へと向かっていた。


「……信じられません。これほど複雑な人員配置と物資のロジスティクスを、いとも容易く、これほど短時間で組み上げてしまうとは」


 隣で山積みの羊皮紙と格闘していたアグラヴェインが、驚嘆の混じったため息を漏らした。

 彼の鉄灰色の顔に張り付いていた過労死寸前の土気色は、俺が事務処理の半分以上を巻き取ったことで、いくぶんかマシな色合いへと回復している。


「プロのチームで裏方の実務と資金繰りを一人で回すのに比べれば、この程度のタスク管理なんてどうってことないさ」


 俺は空中のウィンドウをスワイプして閉じながら、アグラヴェインの肩を軽く叩いた。


「一人で抱え込みすぎるなよ、アグラヴェインの旦那。あんただって、さっきまで狂王アーサーを相手に死闘を繰り広げてきたばかりなんだ。少しは休め」


「……お気遣い、感謝いたします、アイズド殿」


 アグラヴェインは少しだけ目元を緩め、鉄灰色の甲冑を鳴らして深く頭を下げた。


「あなたのその計算高くも温情のある采配……。かつて、我が国の裏方を支えていた者として、心より敬意を表します」


「よせよ、苦労人同士の傷の舐め合いだ」


 俺は苦笑しつつ、ふと周囲を見渡した。


「そういえば、ガウェインのおっさんとモードレッドの姿が見えないな。怪我の治療でもしてるのか?」


 俺の問いに、アグラヴェインは途端に顔をしかめ、こめかみを指で押さえた。


「……あの戦闘狂バカどもなら、『大闘技場』におりますよ」

「大闘技場?」

「ええ。フェネキア族の戦士たちが鍛錬を行っている場所を見つけ、手合わせを申し込まれたとかで……そのまま居座っているようです」


 その言葉を聞いて、俺は呆れ果てて天を仰いだ。


「……マジかよ。こっちはあんたが過労で倒れそうになってるっていうのに、あの二人は脳筋全開で遊んでるのか?」

「……嘆かわしいことですが、あれが彼らの本質なのです」


「やれやれ。残りの細かい指示書はそこに置いておく。ちょっと、あの脳筋どもの様子を見てくるわ」

「承知しました。残りの仕事は、私の方で処理しておきましょう」


 アグラヴェインに後の実務を任せ、俺は広場を抜け、地下都市の外れにある『大闘技場』へと足を向けた。


 ***


 大闘技場に近づくにつれ、地鳴りのような歓声と、激しい金属音が響いてきた。

 すり鉢状の巨大な闘技場の観客席には、数え切れないほどのフェネキア族の戦士たちや、避難してきたキャメロットの住人たちが詰めかけ、熱狂的な声を上げている。


「おいおい、なんだこのお祭り騒ぎは……」


 俺が近くで興奮しているフェネキア族の青年に声をかけると、彼は目を輝かせて闘技場の中央を指差した。


「おお、開拓者殿! 今、この都市の最強を決める突発の武術大会が開かれているのですよ! 我らフェネキアの戦士たちもこぞって参加したのですが、あそこにいる真紅の騎士と漆黒の巨漢に、束になっても敵わず全滅しましてな! 今、あの二人が決勝戦を行っているところなのです!」


「……大会形式で決勝戦って、あいつら……」


 俺は額を押さえながら、観客席の最前列へと進み、闘技場の底を見下ろした。


 そこでは、身の丈を超える大剣を振るうガウェインと、真紅の雷光を纏ったモードレッドが、文字通り火花を散らして激突していた。


「甘いぞ、モードレッドォォッ!! その太刀筋、力任せに過ぎるわ!」

「うるさいガウェイン! 貴様のその鈍重な剣に、私が遅れを取るものかァッ!」


 ガガガガガァァァァンッ!!

 漆黒の大剣と真紅の細身の剣が交差し、凄まじい衝撃波が闘技場の砂を吹き飛ばす。

 一見すれば殺し合いのような激しい剣戟。だが、彼らの表情を見た瞬間、俺の呆れはスゥッと霧散していった。


 モードレッドの顔に、そしてガウェインの無骨な素顔に。

 死闘の最中であるにも関わらず、どこか清々しく、晴れやかな『笑み』が浮かんでいたのだ。


 つい昨日まで、彼らは敬愛する王の狂気に絶望し、愛する母(主君)を失った悲しみで涙を流していた。

 その深い喪失感とトラウマは、そう簡単に癒えるものではないだろう。

 だが、彼らは決して下を向いたままではいなかった。己の悲しみを、憤りを、そして生き残った者としての責任を、すべて『剣を振るうこと』で前に進むためのエネルギーへと変換しているのだ。


(……こいつら、事務処理をアグラヴェインに丸投げしやがって……と文句を言おうと思ったが)


 俺は闘技場の熱気を感じながら、小さく、だが心の底からの安堵の笑みをこぼした。


(立ち直ってくれたのなら、本当に良かったぜ)


 あの理不尽で絶望的なシナリオの果てに、彼らが再び騎士としての誇りを取り戻し、純粋に剣を交えている。その姿を見られただけで、俺たちが彼らを助け出した意味は十分にあった。


 俺は彼らの熱戦に最後まで見入ることなく、静かに闘技場を後にした。

 円卓の騎士たちが前を向いたのなら、俺もまた、開拓者としての次なる一手を打たなければならない。


 ***


 闘技場の喧騒から遠く離れた、地下都市の最奥。

 巨大な世界樹の根元に位置する、荘厳な神殿。その静謐な空間には、外の熱気が嘘のように、冷たく澄んだ空気が流れていた。


 コツ、コツ、と俺の足音が大理石の床に響く。

 神殿の中心。世界樹の淡い光に照らされた祭壇の前に、黄金の九本の尻尾を持つ族長・セレンが静かに佇んでいた。


「……お待ちしておりました、アイズド殿」



 セレンがゆっくりと振り返り、黄金の瞳で俺を真っ直ぐに見据える。

 彼女の表情には、いつもの温和な微笑みはなく、これから語られるであろう事の重大さを予期しているかのような、深い緊張感が漂っていた。


 俺はセレンから数歩離れた位置で立ち止まり、周囲の静寂を確かめるように小さく息を吸い込んだ。




「セレン」



 俺の声が、静謐な神殿に低く響き渡る。


「……あんたに、どうしても聞いておきたい『質問』がある」



 世界に放たれた七つの竜種。

 そして、この地下都市に隠された真実。


 すべての謎を解き明かし、次なる深淵へと至るための扉を開くべく、俺は族長セレンに対し、最も核心に触れる問いを投げかけた。

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