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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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小動物のモフモフ魔術師


『僕の名前はマーリン。しがない宮廷魔術師さ』


 小動物の姿をした謎の獣がそう名乗った瞬間、雪原と灼熱が入り混じる異常な空間の空気が、ピシッと音を立てて凍りついた。


「マ、マーリンだと……!?」


 ガウェインが驚愕に目を見開き、アグラヴェインは魔導書を持つ手をワナワナと震わせた。


「あの、行方知れずとなっていた宮廷魔術師殿が、なぜそのような獣の姿で……」


「黙れッ! 騙されるな、お前たち!」


 だが、誰よりも激昂したのはモードレッドだった。彼女は真紅の剣の切っ先を、獣の鼻先にギリギリまで突きつけ、ドス黒い殺意をさらに膨れ上がらせた。


「我が父上を唆し、王位に就かせた張本人が、国が滅びるこの時までどこで何をしていた! まさか、父上が狂気に陥ったのも、貴様の差し金か! 答えろ、この得体の知れぬバケモノめッ!!」


 モードレッドの剣幕は、今にもその獣を真っ二つに両断せんばかりの勢いだった。

 俺もルナを庇うように立ち塞がり、いつでもバリアを張れるよう魔導書に魔力を込める。伝説の最高位魔術師が、どんな凶悪な魔法をノーモーションで放ってくるか分かったもんじゃない。


 全員からの極限の殺意と警戒の視線を一斉に浴びたその獣――マーリンは。


『ひぃっ!? ちょ、ちょっと待って! 待って待って、ストップ!!』


 突如として、その愛らしい短い両前足を頭の上でクロスさせ、雪原にペタンと尻餅をついて、情けない声で命乞いのポーズをとったのだ。


『誤解だ! 全面的に誤解だよモードレッド君! 僕にそんな物騒なことをするつもりは一切ない! というか、今の僕じゃそんな真似は逆立ちしたってできないから、どうかその物騒な剣をしまっておくれよぉ!』


「…………は?」


 モードレッドが、予想外すぎる情けないリアクションに思わず剣先を少し下げた。

 俺も、構えていた魔導書を思わず下ろしそうになった。なんだこいつ、神話に名を残す大魔術師の威厳とかそういうのは一切ないのか。


「……貴様、本当にあのマーリンなのか?」


 モードレッドが、胡乱な目で小動物を見下ろす。


「お前、そんなふざけた姿だったか? 私の記憶にあるマーリンは、胡散臭い笑みを浮かべた人間の男だったはずだが」


『そ、それはそうさ! 本来なら僕だって、ビシッとしたローブを着たかっこいい人型の分身を出したいところなんだよ!』


 マーリンは短い尻尾を振り乱しながら、必死に弁明を始めた。


『でもね、聞いておくれよ! 僕はね、あろうことかアーサーの奴に騙されて、世界の果ての果て、誰も知らないような土地の奥底にガチガチに封印されちゃってたんだよ!』

「封印、だと?」


 ガウェインが低く唸る。


『そうさ! 気がついたらアーサーがヤバい力(竜)に魅入られててね。僕がそれを止めようとしたら、逆に不意を突かれて封じられちゃったってわけ。……で、さっきアーサーの本体が死んだからか分からないけど、僕を縛っていた封印の力がフッと弱まったんだ』


 マーリンは前足で自分の顔を洗いながら、タジタジになって力説する。


『おかげでようやく少しだけ魔術が使えたから、急いでこの分身をキャメロットに派遣してみたんだけど……』


 マーリンはそこで言葉を切り、遠くで燃え盛るキャメロットの惨状と、天に向かって咆哮を上げる巨大な『憤怒の竜』を、短い前足で指差した。


『到着してみたらこれだよ!? 僕だって死ぬほど驚いてるんだ! 久しぶりに外の空気吸ったと思ったら、国は木っ端微塵に燃えカスになってるし、封印されてたはずのバカみたいにデカい竜は出てるし! むしろ僕の方が現状を説明してほしいくらいなんだけど!?』


「…………」


 必死に身振り手振り(短い手足だが)で現状のパニックを語るマーリンの姿に、俺たちは完全に毒気を抜かれていた。

 張り詰めていた緊迫した空気が、見事にプシューッと音を立てて萎んでいくのが分かった。


(……なんだこいつ。伝説の魔術師っていうから警戒してたのに、ただの『巻き込まれ系のおしゃべりペット』じゃねえか)


 俺は心の中で盛大にツッコミを入れ、緊張でこわばっていた肩の力を抜いた。


「ふふっ……あははははっ!」


 俺の隣で、ルナが思わず吹き出した。

 彼女は緊張の糸が切れたのか、それとも目の前の小動物の必死な様子がツボに入ったのか、白銀の剣を鞘に収めると、トコトコとマーリンの前に歩み寄った。


「ルナ殿、気をつけて……!」


 アグラヴェインが制止しようとするが、ルナはしゃがみ込み、マーリンのフワフワの頭を遠慮なく撫で回し始めた。


『ひゃっ!? ちょ、お嬢さん、いきなり撫で回すのはレディとしてどうかと……あー、そこ、耳の裏、すごく気持ちいい。もっとやって』

「じゃあ、この可愛いモフモフさんが、あの有名な魔術師さんなんですね。アーサー王様に閉じ込められちゃってたなんて、可哀想に……」


 ルナに喉を撫でられ、ゴロゴロと喉を鳴らして完全に飼い慣らされている伝説の大魔術師。

 その光景を見て、モードレッドは額に青筋を浮かべ、ワナワナと震え出した。


「マ、マーリン貴様……! この深刻な状況で、何を外部の小娘に撫でられてくつろいでいるッ!!」

『い、痛い痛い痛い! 引っ張らないでモードレッド君! ほら、僕のこの姿、魔力不足のせいだから! 今の僕のMP、スライム以下だから!』


 モードレッドに首根っこを摘まれ、ジタバタと暴れるモフモフの獣。

 俺は呆れ果てて深くため息をつきながら、アグラヴェインと顔を見合わせた。鉄灰色の騎士もまた、酷く疲れた顔で首を横に振っていた。


「……おい、モフモフのマーリンの旦那」


 俺は一歩前に出て、ドタバタ劇を繰り広げているモードレッドとマーリンに声をかけた。


「漫才はそこまでにしてくれ。あんたがアーサー王に封印されてたってことは、あの王の狂行を止めようとしたのは事実なんだな?」


 俺の冷たく低い声に、マーリンはモードレッドの手から逃れ、ピシッと姿勢を正して俺を見上げた。

 そのビー玉のような丸い瞳の奥に、一瞬だけ、世界を俯瞰するような老獪な魔術師の光が宿った。


『……ああ、間違いないよ、狂気の軍師君。アーサーは『あのお方』――つまり、そこで暴れ回っている七つの竜種の一角に、魂を魅入られてしまっていた。僕がそれに気づいた時には、もう手遅れだったんだ』


 マーリンの証言により、俺の立てた推論が完全に裏付けられた。

 アーサー王は被害者であり、同時に加害者であった。すべては、あの巨大なバケモノの引力が引き起こした悲劇なのだ。


「で、封印が緩んで分身を飛ばしてきたってことは……あんた、何か打開策でも持ってここに来たのか?」


 俺が本題を切り出すと、マーリンは長い耳をペタンと垂らし、重々しく首を横に振った。


『残念ながら、今の僕の魔力じゃどうすることもできない。……それに、モルガンが自らの命を燃やして放った最高位魔術でようやくあの竜には傷をつけたのを見たろう?』


 マーリンの言葉に、モードレッドが再びギリッと唇を噛み締め、俯く。


『レベル121。システムの理すら超えた、暴力の概念そのもの。……今の君たちのレベルじゃ、百万回挑んでも絶対に勝てない。それが現実さ』


 マーリンは、悲しい事実を突きつけるように、静かにそう言った。


「……じゃあ、どうしろってんだ」


 俺は苛立ちを隠せずに問うた。


「俺たちは、あのバケモノを倒してレベルキャップを解放するためにここに来た。このまま尻尾を巻いて逃げるつもりはねぇぞ」


 俺の闘志に満ちた言葉を聞いて、マーリンはふふっ、と小さな口角を吊り上げた。


『だからこそ、僕は残された僅かな魔力を振り絞って、君たちの前に現れたんだよ』


 マーリンは、短い前足で俺とルナ、そして円卓の騎士たちを指し示した。


『勝てないなら、勝てるようになればいい。システムの壁を越えられないなら、壁の向こう側へ行けるだけの『資格』を手に入れればいいのさ』


「資格……?」

『そう。君たちが求めている、レベル上限解放の鍵。……僕なら、その本当の在りありかへ君たちを導くことができる』


 雪原の冷たい風が吹き抜ける中。

 モフモフの小動物の姿をした伝説の魔術師は、燃え盛るキャメロットと絶望的な竜を背にしながら、俺たちに向かって不敵な笑みを浮かべたのだった。

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