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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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漆黒の機装と、白銀の脅迫者


古代遺跡の広場の中央で、俺――アイズドは、右腕に装着された新たな『相棒』をまじまじと見つめていた。

初期装備のなまくらなショートソードは、既にインベントリの奥底へと放り込んでいる。

現在、俺の右腕から肘にかけてを覆っているのは、艶のない漆黒の金属で構成された、重厚な『ガントレット』だった。



「……これが、《古代変形機装エンシェント・アーセナル》のデフォルト形態か」



表面には、淡く明滅する青いラインと、解読不能な古代文字ルーンが刻まれている。指を動かしてみると、金属製とは思えないほど滑らかに駆動し、全く重量を感じさせない。まるで己の肉体の一部が拡張されたかのような、完璧なシンクロ率だ。

ステータスウィンドウを開き、現在の己の職業クラスを確認する。

EHOにおける職業システムは、極めて厳格なルールの上に成り立っている。

一人のプレイヤーが就くことができるのは、敵の攻撃を引き受ける『盾役タンク』、ダメージを稼ぐ『攻撃役アタッカー』、仲間を癒す『回復役ヒーラー』に大別される三十種類の戦闘職の中から【メイン職業一つ】。

そして、武器やアイテムを作り出す鍛冶師や錬金術師などの生産職の中から【サブ職業一つ】の、合計二つのみだ。

一度選択した職業を変更することも可能だが、その場合はまたレベル一から育て直さなければならない。

だが、俺のステータスのメイン職業欄には、燦然とこう記されていた。



【メイン職業:古代変形機装】



特定のロールに縛られない、規格外の隠しジョブ。

俺は小さく息を吐き、思考操作でガントレットに『変形』のコマンドを送ってみた。



「――《展開シフト》」



カシャッ、と小気味良い機械音が脳髄に響く。

次の瞬間、右腕のガントレットが眩い光の粒子に包まれたかと思うと、その光が瞬時に再構築され、俺の手の中に一本の鋭利な『片手剣ショートソード』が現出した。

まるで、見えないアイテムボックスから即座に武器を取り出したかのような、一切のタイムラグ(硬直)を感じさせない変形エフェクト。



「おお……」



俺は感嘆の声を漏らし、続けて思考を切り替える。

光が弾け、片手剣が身の丈ほどもある『大剣グレートソード』へ。さらに一瞬で無骨な『魔導銃マギカ・ガン』へ、そして神聖な光を帯びた『治癒のヒール・スタッフ』へと、瞬く間に形態を変化させていく。



「なるほど、三十種すべての武器形態が登録されているわけか。変形モーションの硬直フレームは……限りなく『ゼロ』に近い。いや、ゼロだ。これなら――」



俺のゲーマーとしての脳髄が、恐ろしいほどのスピードで『コンボ構築ローテーション』の計算を始める。



「グルルルルル……ッ」



その時、遺跡の影から低い唸り声が響いた。

パズルの解除フラグに反応してポップしたのだろう。赤茶けた岩肌と同化したような硬い皮膚を持つ、レベル五のモンスター『ロック・ハウンド』が三体、こちらに向かってよだれを垂らしながらゆっくりと歩み寄ってきた。



「ちょうどいい。試運転テストの的になってもらおうか」



俺は右腕を振るい、ガントレットを重厚な『戦斧バトルアックス』――タンク職である《ヴァンガード》の形態へと変形させた。



「ガアアァァッ!」



三体のロック・ハウンドが、一斉に地面を蹴って飛びかかってくる。

俺は一歩も引かず、戦斧を大上段から振り下ろした。



「《ヘビー・スマッシュ》!」



ヴァンガードの基本ウェポンスキルが発動し、システムアシストの赤い光を帯びた斧が、先頭の魔犬の頭部をカチ割る。

強烈な一撃だが、ステータスはまだレベル一。一撃で倒し切ることはできず、残る二体が俺の隙を突いて牙を剥く。

通常、ここでMMORPG特有のシステムである『グローバルクールダウン(GCD)』がプレイヤーの行動を制限する。

GCDとは、一つの主要なウェポンスキルを使用すると、他のすべてのウェポンスキルも連動して一定時間(EHOの場合は二・五秒)使用不可能になる、共通の待機時間のことだ。

この二・五秒の間に、強力だが個別の待機時間クールタイムを持つ『アビリティ』を挟み込むのが、一般的な戦闘のセオリーである。

つまり、斧を振り下ろした直後の今の俺は、二・五秒間、次のウェポンスキルを撃つことができない『無防備な状態』にある。



「――普通のジョブなら、な」



俺は獰猛な笑みを浮かべ、迫り来る魔犬の牙を前にして、思考を切り替えた。



「《展開シフト》――魔導銃!」



光の粒子が弾け、手元の重厚な戦斧が瞬時に銃身の長い銃へと変形する。

そして、その銃口を横から飛びかかってきた二体目の魔犬へと向けた。



「《クイック・ドロー》!」



タァンッ! と乾いた銃声が響き、魔法の弾丸が魔犬の眼球を撃ち抜く。

――そう、この《古代変形機装》の真の恐ろしさはここにある。

三十種類の武器形態は、それぞれが「完全に独立したクラス」としてシステムに認識されているのだ。

つまり、戦斧のGCDが回っていようが、瞬時に銃へと変形クラスチェンジさせれば、銃のスキルツリーは『まっさらな状態』であり、GCDを無視して即座にウェポンスキルを叩き込むことができる。



「まだまだ行くぞ。展開――双剣!」



銃から、流線型の二刀流の刃へと瞬時に変形。



「《シャドウ・ファング》」



三体目の魔犬の背後に回り込み、暗殺職である《シャドウウォーカー》のスキルで斬り刻む。

その直後、再び戦斧へと変形させる。ちょうど、最初の一撃で発生した二・五秒のGCDが明けたタイミングだ。



「《クリーヴ》!」



戦斧の範囲攻撃が、体勢を崩した三体の魔犬をまとめて薙ぎ払う。



「ハハハッ! 嘘だろ、マジで途切れないのかよこれ!」



俺は悪態にも似た歓喜の声を上げながら、遺跡の中で一人、狂ったような連撃の嵐を巻き起こしていた。

大剣で叩き切り、瞬時に杖に変形させて自らにリジェネ(継続回復)をかけ、すぐさま弓に変形させてバックステップで距離を取りながら矢を放ち、敵が怯んだ瞬間に格闘用のナックルに変形させてラッシュを叩き込む。

GCD(二・五秒の待機時間)の間に、別の武器に変形してスキルを撃ち、さらに別の武器に変形してアビリティを叩き込む。

独立した三十個のクールタイムタイマーを、俺のスーパーコンピューターが完全に並列処理し、一ミリ秒の無駄もなく最適な変形コマンドを弾き出し続ける。

端から見れば、それはもはやバグ(チート)にしか見えない光景だろう。

だが、これはシステムが許容した「仕様」だ。人間の脳では処理しきれないから「産廃」とされていただけで、処理さえできれば、これは永遠に俺のターン(ずっと俺の攻撃)を継続できる、究極の万能兵装なのだ。



「これで……終わりだッ!」



最後は、長柄の槍へと変形させ、竜騎士のスキル《ジャンプ》で空高く跳躍。

重力とシステムアシストの加速を乗せた一撃が、ロック・ハウンドの脳天を完全に貫き、巨大なポリゴンの塵へと変えた。



『戦闘終了(Battle End)。経験値を獲得しました。レベルが上がりました』



ファンファーレと共に、システムログが視界の端を流れていく。

俺は槍を空中でクルリと回し、デフォルトの漆黒のガントレットに戻すと、熱い息を吐き出した。



「はぁっ……はぁっ……最高だ。脳みそが沸騰しそうだぜ」



現実の肉体は動かしていないはずなのに、極限の演算処理によって脳が痺れるような疲労感と、それを上回る圧倒的なカタルシスを感じていた。

プロ時代の、ただマニュアル通りに動くだけの退屈な最適化とは違う。自らの手でシステムを限界まで回し切る、これこそが「ゲーム」だ。



「すげえ……俺の相棒おもちゃ、マジで最強じゃねえか」



俺がガントレットを愛おしそうに撫でていた、その時だった。



「パチパチパチパチパチ!」



遺跡の太い石柱の影から、突如として可愛らしい拍手の音が鳴り響いた。

俺はビクリと肩を揺らし、ゆっくりとそちらへ視線を向ける。

そこには、両手を顔の前で叩きながら、サファイアブルーの瞳をキラキラと輝かせている――白銀の髪の少女、ルナの姿があった。



「なっ……お前、まだついてきてたのか!?」

「はい! アイズドさんが凄い仕掛けを解いて、変な武器を手に入れるところからずっと見てました! なんですか今の、武器がいっぱい変わるやつ!? すごすぎます!!」



前のめりになって詰め寄ってくるルナの顔圧に、俺の背筋に冷たい汗が伝った。

ヤバい。

プロゲーマーとして最前線を生きてきた俺にはわかる。

このEHOという世界において、『未発見の隠しジョブ』や『極悪な仕様の穴』といった『情報』は、現実の通貨で数千万、いや億単位の価値を持つ。

それをこんな、昨日今日ゲームを始めたばかりの初心者に丸見えにされてしまった。

彼女のような初心者は悪気なく、感動のままにSNSのゲームコミュニティに「すごい人いました!」と書き込んでしまう。それが一番の脅威なのだ。



「お、おい、お前……! 今の戦いのことや、この武器のことは絶対に誰にも言うなよ! いいな!?」

「え? どうしてですか? すごくかっこよかったのに」

「いいから黙ってろ! 情報が漏れたら面倒なことになるんだよ! ……チッ、俺は行くからな。絶対についてくるなよ!」



これ以上関わればボロが出る。

俺はガントレットを瞬時に短剣に変形させ、暗殺職である《盗人》のスキルを起動した。



「《ハイド》!」



俺のアバターが風景に溶け込み、完全に透明化する。

レベル一の初期ステータスであっても、アクティブスキルを発動すれば、視覚情報だけは完全に誤魔化すことができる。足音さえ殺せば、初心者の彼女に追跡されることは絶対にない。



(ふぅ……危ないところだった。さっさと離脱して――)



「あーあ。残念です」




透明化したまま抜き足差し足でその場を離れようとした俺の耳に、ルナのやけに冷ややかな声が届いた。



「せっかく、この『プレイ動画』を消してあげようかと思ったのに」

「……は?」



俺の足が、ピタリと止まる。

恐る恐る振り返ると、ルナは空中に展開したホログラムウィンドウを指で弾きながら、小悪魔のような笑みを浮かべていた。

そこには、俺が戦斧から魔導銃へ、そして杖から双剣へと狂ったような速度で変形コンボを叩き込んでいる姿が、超高画質でバッチリと録画されていた。




「これ、初心者用の『EHO体験タグ』をつけて、動画サイトにアップロードしちゃおうかなー。きっとみんな驚きますよね?」

「おま……っ! ふざけんな!」




俺は慌てて《ハイド》を解除し、元の姿を現した。



「さっきの初心者狩りにビビってたウブな初心者カモの態度はどこいったんだよ!」

「騙されるのは嫌ですけど、転んでもただでは起きないタイプなんです!」



ルナは両手を腰に当て、ふんす、と胸を張った。



「だから言ったじゃないですか。私に、ゲームの基本を一から教えてくださいって。パーティを組んで一緒に冒険してくれるなら、この動画は消してあげます!」



その真っ直ぐで、どこまでも図太く負けず嫌いな視線。

それは、結果や数字だけを見て効率を求めるプロの世界には存在しなかった、あまりにも人間臭い「したたかさ」だった。



「…………チッ」



俺は天を仰ぎ、わざとらしく大きな舌打ちをした。

だが――前髪の奥の三白眼は、どうしようもなく面白そうに歪んでいた。



「……図太い奴だ。わかったよ、パーティを組んでやる。その代わり、情報の取り扱いについては徹底的に叩き込むからな」

「やった! よろしくお願いします、アイズドさん!」




ルナは花が咲いたような満面の笑みで、俺に向けてフレンド登録とパーティ結成の申請ウィンドウを飛ばしてきた。

こうして。

プロのしがらみから解放された狂人的ゲーマーと、無垢でしたたかな初心者の少女という、奇妙なパーティが正式に結成されたのだった。

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