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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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完璧な盤面。圧縮される絶望


 戦いは、俺の予想を遥かに超えて、拍子抜けするほど順調に進んでいた。


「ガウェイン! 3秒後に右の触手から大振りの薙ぎ払いだ! 防御バフを合わせる、そのまま受け止めろ!」

「承知したッ! 真正面から受けて立つ!」

「モードレッド、ルナ! ボスの背後に回れ! 薙ぎ払いの硬直中に最大火力を叩き込め!」

「応ッ!」

「はいッ!」


 俺が《戦陣軍師》の魔導書から指示と支援魔法を飛ばすたび、前衛の三人は一切の躊躇なく、コンマ一秒の遅れもなくその通りに動く。

 ガウェインが漆黒の大剣を盾にして触手の連撃を完璧に受け止め、モードレッドの真紅の雷光と、ルナの白銀の剣閃が、無防備になったボスの装甲の隙間を的確に削り取っていく。


(……なんて、やりやすいんだ)


 俺は妖精の継続回復を維持しながら、内心で深く感嘆していた。

 理由は明白だ。彼らが俺という裏方(軍師)の指示を、心の底から『信用』してくれているからだ。


 プロゲーマー時代、俺がどれほど完璧なタイムラインを計算して指示を出しても、エースのレオンをはじめとする連中は「あと一撃入れられる」「見栄えが悪い」と勝手な判断で居座り、結果として被弾しては「回復が遅い!」と理不尽な文句を垂れてきたものだ。

 それに比べて、目の前のNPCである円卓の騎士たちのなんと従順で、洗練されていることか。

 彼らは己のプライドよりも、パーティ全体の勝利と、軍師である俺の戦術眼を最優先してくれている。思わず、現役時代のあのカスハラ(カスタマーハラスメント)野郎どもに、彼らの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいと本気で思うほどだった。


 そして、戦況が有利に傾いているもう一つの理由。

 それは、異形の肉塊と化したアーサー王の『攻撃パターン』にあった。


「ルナ、右にステップだ! 大振りの叩きつけが来るぞ!」

「見切りましたッ!」


 ルナが軽やかなステップで触手を躱し、カウンターの《穿空の絶華》を叩き込む。レベル91のモードレッドにすら一歩も引けを取らない、圧倒的な手数とダメージ量だ。


 地下の祭壇を破壊され、魔力の供給を絶たれたアーサー王は、もはや理不尽な広域殲滅魔法や即死ギミックを放つことができなくなっていた。

 暴走した竜の力は、彼を5メートル級の醜悪な肉塊へと変貌させたが、裏を返せば、今の彼には「己の巨大な肉体を使った物理攻撃」しか手段が残されていないのだ。

 大質量の物理攻撃は確かに脅威だが、魔法と違って筋肉の収縮や予備動作がハッキリと視認できる。ましてや、生物学的な反射神経のバケモノであるルナや、歴戦の円卓の騎士たちにとって、単調な物理ワンパターン攻撃など、避けるのも防ぐのも容易い。


 モルガンの漆黒の魔力レーザーが後方から絶え間なく炸裂し、アーサー王のHPバーがゴリゴリと削られていく。


 七割、六割……そして。


『ギィィィィィィヤァァァァァァァッ!!!』


 ボスのHPがちょうど「半分(50%)」を切った、その瞬間だった。


 アーサー王が、突如として天を仰ぎ、鼓膜を破るような絶叫を上げた。

 同時に、彼を形作っていた巨大な肉塊が、ドクン、ドクンと異常な脈動を始める。


「ストップ! 全員、攻撃を中止して距離を取れ! フェーズ移行(形態変化)が来るぞ!」


 俺の鋭い声に、ガウェインたちも即座に武器を引いて大きく後退した。

 俺たちは警戒を強め、息を呑んでその異変を見守った。

 通常、RPGのボスが体力を半分減らしてフェーズ移行する際、大抵は「さらなる巨大化」や「装甲の追加」が行われるのがセオリーだ。


 だが、目の前で起きている現象は、その逆だった。


 5メートル以上あった醜悪な肉塊が、ジュウジュウと焼け焦げるような音を立てながら、急速に内側へと『収縮』し始めたのだ。

 ドス黒い腐肉が溶け落ち、無数に生えていた触手がボロボロと崩れ去っていく。

 代わりに、その肉の奥底から姿を現したのは――。


「……な、なんだあれは」

 アグラヴェインが、魔導書を構えたまま呆然と呟いた。


 肉塊が完全に削ぎ落とされた後に立っていたのは、人間の成人男性よりも一回り大きい程度の、二足歩行の姿。

 だが、それは人間ではない。

 全身を覆う、鈍く光る赤黒い竜の鱗。頭部から天に向かって伸びる二本の鋭い角。背中には鋼鉄のような皮膜を持つ一対の竜翼が折り畳まれ、太く強靭な尻尾が床の大理石を砕きながら揺れている。


 それは、竜と人が融合したような悪魔的な姿――『竜人ドラゴニュート』そのものであった。


「父上……なのか……?」

 モードレッドが、信じられないものを見るように声を震わせる。


 先ほどまでの膨張した魔力の残滓も、醜悪な肉塊の面影もそこにはない。

 だが、極限まで『圧縮』されたその竜人の身体からは、先ほどとは比べ物にならないほどに研ぎ澄まされた、濃密で鋭利な殺気が放たれていた。


「……おいおい、冗談だろ」

 俺は額に浮かんだ冷や汗を拭い、油断なく魔導書を握り直した。

「デカい図体のサンドバッグから、一番タチの悪い『高機動型の近接ボス』にジョブチェンジしやがったぞ……」


 図体が小さくなったということは、それだけスピードと回避力が跳ね上がったということだ。

 俺たちを嘲笑うかのように、美しくも禍々しい竜人へと変貌を遂げた狂王。

 戸惑いを隠せない俺たちの前で、竜人がゆっくりと、その縦に割れた黄金の瞳を開いた。

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