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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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戦慄の多層支援


 ズガァァァァァァァァンッ!!!!


 背後で、城の堅牢な石壁が丸ごと吹き飛ぶような凄まじい爆発音が轟いた。

 玉座の間から地下へと続く暗い螺旋階段を駆け下りながら、ルナは思わず首をすくめた。その一撃がどれほどの破壊力を持っているか、そしてそれを正面から引き受けているモードレッドとアイズドがどれほどの重圧に晒されているか、想像するだけで息が詰まる。


「ルナ殿、足を止めてはいけません! 急ぎますよ!」


 先行して階段を駆け下りる鉄灰色の騎士、アグラヴェインの冷徹な声が、ルナの意識を前へと引き戻した。


「……はいッ!」


 ルナは白銀の片手剣を握り直し、冷たい石の階段を蹴った。

 薄暗い地下通路を走りながら、彼女の心の中には、泥のような後悔と自責の念が渦巻いていた。


(私、調子に乗ってた……)


 路地裏で助けられ、あれよあれよという間にレベル50という中堅の壁に到達した。どんな強敵の攻撃も、自身の才能であるフレーム回避で躱し、剣を突き立てれば勝てた。モードレッドとの手合わせでも褒められ、自分はもう『アイズドさんの隣に立てるくらい強い』のだと思い上がっていたのだ。

 だが、レベル99の狂王アーサーを前に、彼女の剣は文字通り紙切れのように弾かれた。


 ゲームの絶対法則。越えられない数値の壁。

 己の無力さを思い知らされた彼女は、今、後方で歯を食いしばって前線を支えているアイズドの姿を思い出し、ギリッと唇を噛み締めた。


(落ち込んでる暇なんてない。アイズドさんは、私にしかできないって言ってくれた。私に、盤面をひっくり返す大事な役目を託してくれたんだ!)


 今はただ、この状況を打破することだけを考える。心を入れ替え、最強の初心者としてではなく、一人の開拓者として、泥臭くあがくのだ。


「……ッ、止まりなさい、ルナ殿!」


 不意に、アグラヴェインが剣を抜き放ち、通路の角で急停止した。

 ルナも慌てて足を止め、彼越しに前方の通路を覗き込む。


「モンスター……!?」


 地下の奥、儀式の間の扉へと続く大通路に、数十の影が蠢いていた。

 だが、ルナはその『モンスター』の姿を視界に収めた瞬間、足の裏が床に縫い付けられたように動けなくなってしまった。


「あ……ああ……っ」


 完全没入型VRMMOの視覚と嗅覚の再現機能が、ルナの脳髄に容赦のない生理的嫌悪と絶望を叩き込む。胃の奥から、酸っぱいものが込み上げてくるような錯覚に襲われた。

 通路を塞いでいたのは、通常の魔獣などではない。

 つい先程まで、活気あるキャメロットの街で笑い合っていた、長耳族、獣人族、ドワーフといった多種族の『住民たち』の姿だったのだ。

 彼らの肉体は業火に焼かれて黒焦げになり、その内側から赤黒く脈打つ不気味な炎――アーサー王の狂気の魔力――を燃え上がらせていた。魂を吸い尽くされ、生けるリビングデッドと成り果てた彼らが、儀式の祭壇を護るための防衛機構として配置されていたのである。


「ルナ殿、直視してはいけません! 彼らはもう、救えない!」


 アグラヴェインが悲痛な声で叫び、襲いかかってきた亡者たちを鉄灰色の剣で斬り伏せる。

 だが、ルナの足は震えて一歩も前に出なかった。ついさっき、笑顔で手を振ってくれた小さな獣人族の子供とよく似た背丈の亡者が、炎を纏ってこちらに歩み寄ってくるのだ。剣を向けることなど、できるはずがない。


「……っ、でも、でも……!」


 ルナは涙で視界を滲ませながら、震える手で片手剣の柄を握りしめた。

 もしここで足踏みすれば、玉座の間で戦うアイズドたちは死ぬ。

 そして、この絶望の中で、もしかしたら……まだ生き残っている住民がいるかもしれない。魔力を吸い尽くされる前に祭壇を壊せば、助かる命があるかもしれないのだ。


「……ごめんなさい。でも、私は行きます!」


 ルナは顔を上げ、涙を振り払った。

 己の無力さを呪い、それでも託された役目を絶対に遂行するという決意。


「《残影の歩法》ッ!!」


 ルナの身体が墨絵のような黒い残像を伴い、亡者たちの群れの中へと弾丸のように飛び込んでいく。彼女は刃で彼らを傷つけることを極力避け、紙一重の回避で隙間を抜け、ただひたすらに最奥の祭壇を目指して突っ走った。

 一方、その頃。

 キャメロット城、半壊した玉座の間。


 ズガァァァァァァァァンッ!!!!


「オラァッ! 倒れるなモードレッド!ガウェイン!まだやれるだろ!!」


 俺の喉が裂けるほどの怒号と同時に、前線で狂王アーサーの魔剣を受け止めていたモードレッドとガウェインの身体が、黄金の光に包まれた。

『Arthur [Lv.99]』に対する、圧倒的な数値の絶望。

 これまでの死闘で俺の内部レベルは『60』前後にまで上昇していたが、レベル60のステータス制約で放つ支援スキルなど、レベル99の攻撃力の前では本来、紙切れも同然である。


 バリアは一撃で消し飛び、回復量も全く追いつかないはずなのだ。

 だが、俺はそれを『システムを破壊するほどの手数』で強引に覆していた。


「――《機装変形:戦陣軍師》! 《鼓舞激励の策》!」


 魔導書を開き、アーサーの剣が振り下ろされるコンマ一秒前にバリアを張る。


「――《機装変形:機工賢者》! 《多面体機工防壁》!」


 直後に賢具を展開し、バリアを多層に重ねがけしてダメージを減衰。


「――《機装変形:神聖司祭》! 《神聖なる息吹》ッ!!」


 バリアが割れてモードレッドのHPが削られた瞬間に大杖を掲げ、失われたHPを即座に補填する。


「――《機装変形:軍楽神》! 《軍神の鼓舞》!」


 そして息継ぐ暇もなく軍旗を突き立て、彼女のステータス低下を力ずくで引き上げる。

 右腕の【古代変形機装】が、熱を帯びて赤く発光している。

 支援職全てのスキルと、タンクの一部が持つ防御スキル。全三十クラスの独立したクールダウンタイマーを脳内で同時並行でカウントし、一秒の隙もなく秒間タイマー(GCD)を回し続ける。

 レベル60という数値上の制約を、純粋な『手数の暴力』と『極限のタイムライン予測』だけで完全に補いきっているのだ。


「……なんという、男だ」


 俺の後方、瓦礫の陰で血塗れになって倒れていた妖妃モルガンが、荒い息を吐きながらその光景を見つめ、戦慄に目を見開いていた。

 彼女は稀代の魔女として、魔力の本質を誰よりも理解している。だからこそ、目の前で俺がやっていることの『異常性』が骨の髄まで理解できていた。

 異なる魔力回路ジョブをフレーム単位で切り替え、最適な術式を、最適なタイミングで重ねがけし続ける。それは人間の脳の構造上、絶対に不可能な情報処理だ。


(狂王の強大な力よりも……あの狂気的なまでの盤面支配力を持つこの男こそ、絶対に一番敵に回してはならない存在……!)


 強者であるモルガンにそう思わせるほどの、圧倒的な支援能力。戦場というチェス盤のすべてを、俺一人が無理やりコントロールしていた。

 だが、その代償は確実に俺の肉体と精神を蝕んでいた。



『警告:大脳皮質への過剰なフィードバックを検知。シナプスの焼損率が危険域に達しています』

『警告:システムの強制遮断セーフモードを推奨します』



 視界が明滅し、視界を覆うシステムメッセージが真っ赤なエラーに染まりバグり始めている。

 鼻血がボタボタと流れ落ち、口からは血の味が絶えない。仮想肉体の限界ではない。俺自身の現実リアルの脳みそが、文字通り悲鳴を上げ、焼き切れようとしているのだ。

 変形コマンドを入力する指先が震え、意識が泥の底へと沈みそうになる。


(クソッ……集中しろ……! あとコンマ一秒バリアが遅れれば、モードレッドは死ぬ……!)


 歯を食いしばり、薄れゆく意識の中で、俺は必死に右腕を動かし続けた。

 だが、限界はもう目の前まで迫っていた。レベル99の猛攻を、レベル60の俺一人の支援で支えきるという綱渡りは、永遠には続かない。


(ルナ……! アグラヴェイン……!)


 視界が赤く染まり、アーサーの魔剣が再びモードレッドへと振り下ろされる絶望的な光景の中で。

 俺は、地下の祭壇へと向かった二人の背中に向けて、祈るように、そして血を吐くような切迫した悲鳴を心の中で上げた。


(急いでくれ……ッ! 頼む、ルナ……俺の脳みそが焼き切れる前に……あの祭壇を、ぶっ壊してくれ……ッ!!)


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