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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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深淵への推論


 レベル99。

 EHOというゲームのシステムにおいて、その数値は「絶対に不可侵である」という神の宣告に等しい。

 ルナの放った渾身の絶技は弾かれ、俺のデバフはすべて無効化され、アグラヴェインの魔術すらも届かない。前線で孤軍奮闘するモードレッドの真紅の甲冑が、アーサー王の振るう魔剣によって徐々に削り取られ、悲鳴を上げている。


「ぐ、あああっ……!」


 絶対的な暴力の前に、ついにモードレッドの真紅の甲冑が砕け、彼女が床に膝を突いた。

 狂王アーサーの魔剣が、無慈悲にその首を刎ねようと振り下ろされる。

 ルナが悲鳴を上げ、俺が絶望に歯を食いしばった、その刹那だった。

 ガガガガガァァァァンッ!!

 吹き荒れる衝撃波と共に、アーサーの魔剣を横から弾き飛ばした巨大な黒い影があった。


「モードレッド! 立て! まだ終わりではないぞッ!」


 現れたのは、ひしゃげた漆黒の甲冑を軋ませながら、身の丈を超える大剣を構えたガウェイン卿だった。

 さらにその後方、崩れ落ちた玉座の陰から、銀糸の髪を振り乱したモルガンが立ち上がり、両手から無数の氷の槍を放ってアーサーの追撃を牽制する。


「母上! ガウェイン!」


 モードレッドが驚愕の声を上げる。

 俺の視界の端で、システムUIが小さく明滅した。


『Morganからパーティ招待が届いています』


 俺は即座に「承認」のコマンドを叩き込んだ。

 パーティリストに追加された二人のステータスを見て、俺は息を呑む。


『Gawain [Lv.90]』

『Morgan [Lv.95]』


 レベル91のモードレッドと合わせれば、まさに神話級の英雄パーティの完成だ。数字だけ見れば、レベル99のアーサー王に対しても十分に抗い、勝機を見出せる陣容に思える。

 だが、現実はそう甘くはなかった。


「フフッ……愚かな。何度立ち上がろうと、無駄なことだ」


 アーサーはガウェインの重撃を片手で軽々と払い除け、モルガンの魔法を身体に纏う赤黒いオーラだけで完全に無効化した。

 狂王のHPバーは、ガウェインとモードレッドの必死の連撃を受けても、ミリ単位でしか減っていない。いや、それどころか、減った端から異常な速度で自動回復リジェネし、常に最大値を維持し続けていた。


(……チィッ、やっぱりか!)


 俺は《軍旗》のバフを撒きながら、内心で舌打ちをした。

 アーサー王は単なるレベル99のNPCではない。システム上において、数十人のカンストプレイヤーが挑むことを前提とした『レイドボス』の枠に設定されているのだ。


 その体力は、同レベル帯のプレイヤーの百倍はくだらない。そこにレベル90台の英雄が二名加わったところで、戦況が劇的にひっくり返るわけがない。ただ、全滅ワイプまでの時間がわずかに引き延ばされただけだ。


「私たちの攻撃が……全然、通じていません……」


 俺の隣で、ルナが白銀の片手剣を震える手で握りしめ、戦意喪失気味に呟いた。彼女のサファイアブルーの瞳から、希望の光が急速に失われていく。

 レベル差による完全無効化。そして味方の最高戦力ですら手も足も出ない絶望。

 だが。

 俺は、焦燥に駆られるルナを横目に、軍師としての冷徹な思考を極限まで加速させていた。


(俺のこれまでのゲーム人生で、こんな理不尽な強さを持ったボスには、必ず『解法ギミック』が存在した)

 どれほどステータスが狂っていようと、これはプログラムされたゲームだ。プレイヤーが絶対に勝てない「詰み」の戦闘など、クソAI『アルファ』の美学が許すはずがない。必ず、どこかに付け入る隙がある。


「足掻け、我が騎士たちよ! 貴様らの絶望が、あのお方への極上の供物となるのだから!」


 アーサーが狂笑と共に大剣を振り下ろす。


「このキャメロットから吸い上げた『無限の魔力』がある限り、我が肉体は不滅! そして、あのお方の降臨はすでに約束されているのだ!」


 ――無限の魔力が、ある限り。

 その言葉が、俺の脳内に強烈な違和感として引っかかった。

 無限の魔力? EHOのシステムにおいて、リソースが無限に湧き出るなどということはあり得ない。必ず「供給源」が存在するはずだ。


 俺は、前線へ回復魔法を飛ばしながら、視界の端でアーサー王の周囲に渦巻く赤黒い魔力の奔流を観察していた。

 街の各所から噴き上がり、城へと集束してくる民衆たちの魂。それが、アーサー王の魔力を底上げしているのは間違いない。だが、何もない空間から直接王の肉体に魔力が注がれているわけではないはずだ。


 これほど大規模な『生贄の儀式』を成立させるためには、必ずシステム的な基点――魔力を集積し、王へと供給するための巨大な『祭壇』や『魔法陣』といったオブジェクトが存在しなければならない。


 そして、それほど巨大で禍々しい儀式の準備を、誰の目にも触れずに城内で行える場所など、限られている。




『ある日を境に……王は変わってしまった。何かに取り憑かれたように、城の地下深くに籠るようになり、誰も見たことのない古代の魔術書を読み漁るようになったのだ』




 不意に、廃観測所へ向かう道中の野営で、モードレッドが苦しげに語った言葉が俺の脳裏に蘇った。


(……城の、地下深く)


 確信はない。ただの推測の域を出ない、危うい仮説だ。

 だが、俺の思考の中で、その推論は生々しい形を伴って組み上がっていく。

 光の届かない冷たく湿った地下室。そこに隠されるようにして描かれた、血と泥に塗れた巨大な魔法陣。生贄の魂を喰らい、蠢き、玉座の間にいる狂王へと魔力の供給を続ける不気味な心臓部。

 RPGのギミックとして考えるなら、無敵の力を持つボスには必ず、その力を担保する『ギミックの核』が存在する。もし、あの地下室に今もその儀式の祭壇があるのだとしたら――。


「アグラヴェイン!」


 俺は、隣で魔導書を展開し、血を吐くような思いでモードレッドにバリアを張り続けている鉄灰色の騎士に向かって叫んだ。


「アーサー王が籠っていたという、この城の地下室! あんたなら、そこがどこにあるか分かるか!?」

「え……ええ、間取りと場所ならば把握していますが。それが今、何か……!?」


 アグラヴェインは額に脂汗を浮かべながら、怪訝な視線を俺に向けた。


「あのバカげたレベルと、無尽蔵に湧き上がってくる魔力! あれはアーサー王自身の力じゃない、儀式によって民から吸い上げた力を供給されているだけだ!」


 俺は早口で、自らの導き出した推論をぶつけた。


「この玉座の間には、魔力を受け取るための大掛かりな陣は見当たらない。なら、王に力を送り込み続けている儀式の『大元』……祭壇や魔法陣が、その地下室に今も隠されている可能性が高い!」


「儀式の、大元……! 地下室に、ですか」

「そうだ。それを物理的に破壊すれば、アーサー王への魔力供給が絶たれる。レベル99という理不尽なステータスバフも、剥がれ落ちるかもしれない」


 俺は息を吸い込み、アグラヴェインの冷徹な、だが今は焦燥に揺れる双眸を真っ直ぐに見据えた。


「アグラヴェイン。あんたは今すぐルナを連れて、その地下室へ向かってくれ。そこにある儀式の祭壇を、何が何でも破壊するんだ」


 俺の指示を聞いたアグラヴェインの顔が、一瞬だけ硬直した。


「……正気ですか、アイズド殿! 確かにあなたの推測には一理ある。ですが、ここで私が戦線を離れれば、モルガン様やモードレッド卿を支援する者があなた一人になる! あなたの脆弱な防御力では、王の余波一つでロストしかねないのですよ!?」


 アグラヴェインの反論は、戦術的に極めて正しい。

 今でさえ、彼と俺の二人掛かりの支援で、辛うじてモードレッドのHPを維持している状態なのだ。彼が抜け、ルナという遊撃の手札まで失えば、前線は数分と持たずに崩壊するだろう。


「分かってる! だが、ここでこのまま支援バフを回し続けても、レベル99のバケモノ相手じゃいずれジリ貧になって押し潰されるだけだ!」

 俺は《機装変形:神聖十字架ホーリー・クロス》を強く握り締め、彼に向かって吠えた。


「確証はねぇ! 外れの可能性もある大博打だ! だが、プロの軍師として断言してやる。このまま座して死を待つくらいなら、盤面を覆すための『たった一つの可能性』に賭けるしかねえんだよッ!」


 俺の覚悟を帯びた眼差しを受け、アグラヴェインはギリッと奥歯を噛み締めた。

 冷徹な事務官であり、常に最悪の事態を想定して動く彼にとって、不確かな推測に戦局のすべてを賭けることは、到底受け入れがたい暴挙だったはずだ。

 だが、今の彼らが直面しているのは、計算や理屈が通用しない『絶対的な絶望』である。


「……ッ、分かりました。この愚かで狂気的な賭け、乗らせていただきます」


 アグラヴェインは魔導書をバタンと閉じ、腰の剣に手を掛けた。


「モルガン様とモードレッド卿の命……そして、このキャメロットの未来。あなたに一時、預けます!」


「ああ、任せとけ。俺はこれでも、裏方サポートじゃ誰にも負けねぇんだ」


 俺が不敵に口角を吊り上げると、アグラヴェインは大きく頷き、壁際で膝を突いていたルナへと向き直った。


「ルナ殿! 立てますか!」

「は、はい……ッ!」


 ルナは痛む身体に鞭打ち、白銀の片手剣を杖代わりにして立ち上がった。

 レベル差という理不尽なシステムに自らの剣技を否定され、完全に心を折られかけていた彼女だったが、その瞳の奥にはまだ、微かな炎が燻っていた。


「ルナ!」


 俺は、俺たちの希望の光である最強の初心者の名を呼んだ。


「あのバケモノにはお前の剣は通じないかもしれない。だが、地下にある儀式の祭壇……ただの無機物オブジェクトになら、お前の剣は届くはずだ」


 ルナがハッとして、俺を見つめ返す。


「この絶望的な盤面をひっくり返せるのは、お前のその白銀の剣だけだ! アグラヴェインの旦那に道案内を頼んで、そのクソったれな儀式の根元を、完膚なきまでに叩き斬ってこい!」


「アイズドさん……っ」


 俺の力強い鼓舞を受け、ルナのサファイアブルーの瞳から、絶望の涙がスッと消え去った。

 代わりに宿ったのは、自らに与えられた新たな『役割』を絶対にやり遂げるという、揺るぎない決意の光。


「はいッ! 任せてください、アイズドさん! 絶対に、絶対に壊してきます!!」


 ルナは力強く頷き、片手剣を構え直した。


「行きますよ、ルナ殿! 私の後に続けッ!」

「はいッ!」


 アグラヴェインが先陣を切り、ルナがそれに続いて玉座の間の瓦礫を蹴り立てて走り出す。

 二人の背中が崩れた扉の向こうへと消えていくのを見送った俺は、再び狂王アーサーと死闘を繰り広げている前線へと視線を戻した。


「さあて、頼んだぜ二人とも」


 俺は右腕の機装にすべての意識を注ぎ込み、限界を超えたオーバーロードの領域へと自らの脳を叩き落とした。


「あいつらが祭壇をぶっ壊すまで……この三十歳のおっさんが、意地でも戦線を支えきってやるよッ!」

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