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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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燃え落ちる白亜


 極光の氷原を切り裂くように、俺たちは猛吹雪の中を駆け抜けた。

 肺が凍りつきそうなほどの冷気を吸い込みながら、マウントの限界速度を引き出し、ただひたすらに東――白亜の都キャメロットを目指す。


 だが、俺たちがたどり着いた時、そこにはかつての幻想的な静謐さも、奇跡のような温もりも存在していなかった。

 都市を丸ごと包み込んでいたはずの巨大な氷の絶対防壁ドームは、内側から放たれた極大の魔力によって粉々に吹き飛ばされ、鋭利なガラス片のような氷塊となって周囲の雪原に突き刺さっていた。


「……嘘、だろ」


 崩れ落ちた巨大な城門の残骸を乗り越え、都市の内部へと足を踏み入れた俺は、目の前に広がる光景に息を呑んだ。


 つい数時間前まで、そこは間違いなく『楽園』だった。

 長耳族エルフが魔法で商品を並べ、獣人族ライカンの子供たちが笑い合いながら駆け回り、ドワーフの鍛冶屋が心地よい槌音を響かせていた、種族の壁を越えた平和な街。


 それが今や、見るも無惨な地獄絵図へと変貌していた。

 白亜の美しい石材で造られていた家々は無残にひび割れ、真っ赤な業火に包まれて激しく燃え盛っている。ドームの天井で人工太陽のように街を優しく照らしていた巨大な魔力球は無残に砕け散り、その残骸が流星群のように街のあちこちに突き刺さってクレーターを作っていた。


 そして何より、俺たちの鼻腔を容赦なく突くのは、建物の焼ける匂いに混じった、生々しい『肉の焦げる異臭』だった。


「あ、ああ……アアァァァァァッ……!」


 真紅の騎士モードレッドが、弾かれたように軍馬から飛び降り、燃え盛る瓦礫の山へと駆け寄った。

 彼女が震える両手で抱き上げたもの。

 それは、黒焦げになり、原型を留めないほどに焼き爛れた、小さな子供の遺体だった。

 数時間前、「モードレッド様! お疲れ様です!」と、無邪気な笑顔で彼女に手を振っていた、あの獣人族の子供のものだ。


『キャメロットに住む罪なき民たちを触媒とした、生贄の儀式』


 アーサー王は、竜の封印を解くための莫大な魔力を得るため、この街の住人たちの命と魂を、文字通りシステム上の『魔力リソース』として強制的に吸い上げたのだ。魔力を搾り取られ、空っぽになった肉体は、ただ業火に焼かれるだけの炭の塊と化していた。


「う、ううっ……!」


 モードレッドの喉から、声にならない嗚咽が漏れた。

 彼女は、焼き爛れた小さな遺体をその真紅の胸当てに抱き寄せ、顔を押し当てて涙を流した。金糸の髪が煤に汚れ、透き通るような白い頬に、黒い涙の跡が幾重にも引かれていく。

 この国を、この笑顔を護るためだけに、悪の汚名を被ってまで戦い続けてきた彼女の心境を思えば、その喪失感と絶望は計り知れない。


 隣では、鉄灰色の甲冑に身を包んだアグラヴェインが、静かに軍馬から降り、地面に片膝を突いていた。

 冷徹な事務官であるはずの彼のガントレットは、泥と血に塗れた地面を深く抉るほどに強く握りしめられ、ギリィッ……! と、歯が砕けそうなほどの力で奥歯を噛み締める音が漏れ聞こえていた。


「ひどい……こんなの、あんまりです……!」


 ルナもまた、その凄惨な光景に言葉を失い、白銀の片手剣の柄を握る手を小刻みに震わせていた。サファイアブルーの瞳からは、大粒の涙がとめどなく溢れ落ちている。


 救いようのない、どん底の絶望。

 クソAI『アルファ』が敷いた悪意あるシナリオは、登場人物(NPC)たちの命を単なるデータの数字として処理し、プレイヤーに最も重く、苦い感情を強制的に叩きつけてくる。


 だが。

 俺は、軍師としての冷徹な思考回路を無理やり起動させ、燃え盛る街の奥――白亜の城の心臓部へと視線を向けた。


 ズドォォォォォォンッ!!!

 ドゴォォォォォォォォォンッ!!!


 悲しみに沈む静寂を切り裂くように、城の奥から大地を揺るがすような激しい爆発音が連続して轟いた。

 赤黒い魔力の閃光が、城のステンドグラスを突き破って夜空に幾筋も迸る。


(……まだだ。システムは、まだ『完了』を告げていない)


 俺は泥濘と瓦礫を踏み越え、地面に突っ伏して泣き崩れているモードレッドの肩を、力強く、乱暴に掴んで引き上げた。


「……ッ!? なにを……!」

「泣いてる暇はねぇぞ、モードレッド!!」


 俺の怒号が、炎の爆ぜる音を掻き消して響き渡った。

 涙に濡れた蒼い瞳が、驚愕に見開かれて俺を見上げる。


「耳の穴かっぽじって、よく聞け! あの城の奥から聞こえてくる爆発音……あれは、お前の母上と、あのバカみたいにデカい大剣を担いだ黒騎士が、今もまだアーサー王と死闘を繰り広げている証拠だ!」

「母上と、ガウェインが……!?」


「そうだ! 儀式は発動しちまったかもしれないが、王の野望が完全に果たされたわけじゃない。あの二人が、命を削ってでも最悪の結末を食い止めようと足掻いてやがるんだ! だったら、俺たちがここで立ち止まって絶望している場合じゃねぇだろうがッ!!」


 俺は、モードレッドの真紅の胸当てをドンッと強く叩いた。


「お前が護りたかったものは、まだそこにあるはずだ! 涙を拭け! 剣を取れ! こんな理不尽なクソゲーのシナリオなんざ、俺たちの手で強引に捻じ曲げてやる!!」


 俺の言葉に、モードレッドの蒼い瞳が大きく揺らいだ。

 彼女は腕の中に抱いていた小さな遺体を、崩れた石壁の陰にそっと、慈しむように横たえた。そして、煤に汚れた顔を乱暴に腕で拭うと、その瞳に、底知れぬ悲しみを焼き尽くすほどの『強烈な殺意と決意の炎』を宿して立ち上がった。


「……ああ。お前の言う通りだ、アイズド」


 モードレッドは腰の細身の剣を抜き放ち、燃え盛る城の奥を鋭く睨み据えた。

「あの狂王に、これ以上の好き勝手はさせん。……母上! ガウェイン! 今行くぞッ!!」


「アグラヴェイン! あんたもいつまで膝を突いてる気だ! 始末書を書かせる相手の首を、直接撥ねに行くぞ!」


 俺が声をかけると、アグラヴェインはゆっくりと立ち上がり、無言のまま鉄灰色の剣を引き抜いた。その冷ややかな双眸には、氷のような静かな怒りが渦巻いている。


「アイズドさん! 私も、行きます!」


 ルナが涙を拭い、白銀の片手剣を構えて俺の隣に並んだ。その瞳には、もはや怯えはなく、理不尽な悪意を絶対に許さないという強い意志が輝いていた。


「よし。全員、一歩も立ち止まるな。あの城の最奥まで、一直線に駆け抜けるぞ!!」


 俺の合図と共に、四人のパーティは燃え盛るキャメロットのメインストリートを全速力で駆け出した。

 炎が行く手を阻み、崩れ落ちる瓦礫が頭上から降り注ぐ。だが、モードレッドの紅雷が瓦礫を粉砕し、アグラヴェインの剣閃が炎を切り裂き、俺とルナがその道を最速で突き進む。


 悲しみを抱えたまま、焦燥と怒りに駆られた四つの影。

 システムの敷いた絶望的な盤面をひっくり返すため、俺たちは業火に包まれた白亜の城塞の最奥――妖妃と狂王が激突する玉座の間へと、決死の突撃を敢行した。

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