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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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虚無の観測所


極光の氷原の最深部。猛吹雪と分厚い氷壁を砕いて進んだ先に、『星幽の廃観測所』はひっそりとその口を開けていた。


内部は、かつて超高度な古代技術が栄えていたことを物語る、巨大な金属の歯車や用途不明のガラス管が散乱する広大な地下遺跡だった。だが、数千年の時はその栄華を無惨に風化させている。天井には巨大な氷柱が垂れ下がり、床には凍りついた青白い苔がびっしりと群生し、剥き出しのケーブルの残骸が奇妙な蔦のように這い回っていた。


「ルナ! 右から二体来るぞ!」

「はいッ! !」


薄暗い通路を突き進む俺たちを歓迎したのは、遺跡の防衛機構である古代の自律兵器や、冷気に適応した異形の魔獣たちだった。

レベル60から68に迫る凶悪なアクティブエネミーの群れ。通常であれば、決死の覚悟で挑むべき道中である。だが、今の俺たちには規格外の『円卓の騎士』によるパワーレベリングのおかげで61レベルに到達しており、苦戦することはなかった。


「モードレッド卿、深追いしすぎです! 左翼のカバーが遅れている!」

「いちいち五月蝿いぞアグラヴェイン! 敵のコアさえ先に潰せば同じことだ!」

「だからそれが非効率だと言っているのです!」


鉄灰色の剣閃が魔獣の関節を的確に切断し、真紅の雷光が古代兵器の装甲を紙切れのように粉砕する。

アグラヴェインとモードレッドは、口喧嘩をしながらも阿吽の呼吸で敵陣を蹂躙していく。その後衛で俺が《機装変形:軍旗》を展開して全体にバフを撒き、ルナが漏れた敵を的確に処理して練気ゲージを溜め続ける。

一切の隙がない、圧倒的な突破力。アーサー王が残した血痕と足跡のトラッキングを追いながら、俺たちは過酷な探索を驚異的なスピードで踏破していった。


(……もう少しだ。この奥に、アーサー王と、目覚めを待つ『七つの竜種』が潜んでいる)


軍師としての俺の思考は、間もなく訪れるであろう神話級のレイドボスとの死闘に向け、極限まで研ぎ澄まされていた。これまでの道行きの過酷さが、最深部への期待と緊張感を最高潮に高めていく。


「この分厚い隔壁の先が、観測所の中心施設……最深部です」


アグラヴェインが、巨大な金属製の扉に手を当てて言った。


「行くぞ。狂王の首を撥ね、すべての悲劇を終わらせる!」


モードレッドが真紅の闘気を爆発させ、巨大な隔壁を力任せに蹴り開けた。

重々しい轟音と共に、扉が左右に開け放たれる。

俺は機装を大盾に変形させ、いかなる奇襲が来てもルナを庇えるように身構えた。


だが。

扉の奥に広がっていた光景は、俺たちの極限まで高まった緊張感を、真っ向からへし折るようなものだった。


「……は?」


俺の口から、間抜けな声が漏れた。


そこは、巨大な天球儀の残骸が中央に鎮座する、ドーム状の広大な空間だった。

だが、アーサー王の姿はない。それどころか、封印されているはずの『竜』の気配も、魔獣の一匹すら存在しなかった。

ただ、天井に空いた巨大な大穴から深々と雪が降り積もり、錆びついた金属のガラクタと、凍りついた苔の絨毯が広がっているだけ。


完全な『もぬけの殻』だった。


「どういうことだ……? 血痕のトラッキングは、間違いなくこの最深部で途切れているのに……!」


俺はシステムマップのナビゲーションを何度も確認したが、光る軌跡はこの広間の中心で消滅していた。

モードレッドも信じられないといった様子で、ガラクタの山を蹴り飛ばして周囲を走り回っている。


「父上! どこに隠れている! 出てこい!!」


悲痛な叫び声が、虚しくドーム内に反響するだけだ。

緊迫した死闘を覚悟していた俺たちの心に、冷たい雪が入り込んだような、絶望的な虚脱感が広がっていく。


「アイズドさん……アーサー王は、ここにはいないんでしょうか?」


ルナが不安そうに俺の袖を掴む。


「分からない……だが、少なくとも『竜』が目覚めたような痕跡もない。ただの廃墟だ」


その時だった。

凍りついた遺跡の静寂を切り裂いて、足元の岩盤を直接揺さぶるような、大地を揺るがす『凄まじい轟音』が鳴り響いた。


ズゴォォォォォォォォォンッ!!!!


「きゃあっ!?」

「地震か!?」


あまりの震動に、ルナが俺の腕にしがみつく。俺もバランスを崩しかけ、大盾を床に突き立てて辛うじて踏みとどまった。

だが、その震動の質は、自然現象のそれとは明らかに異なっていた。遠く離れた場所で、途方もない規模の『魔力爆発』が起きたような、大気の震え。


「……まさか!」


アグラヴェインの顔色が一瞬にして蒼白になった。

常に冷静沈着で、感情を表に出すことのないあの鉄灰色の騎士が、見たこともないほど動揺して目を見開いている。


「アグラヴェイン! 今の音は……!」

「外です! 早く、地上へ!!」


アグラヴェインは踵を返し、今来た道を凄まじい速度で逆走し始めた。俺たちも慌ててその後を追い、崩れかけた螺旋階段を駆け上がって、廃観測所の外――極光の空の下へと飛び出した。


「ハァッ、ハァッ……あれを、見ろ……!」


外に出たアグラヴェインが、震える指で『東の方角』を指差した。

俺とルナ、そしてモードレッドの視線が、彼が指し示した方角へと吸い寄せられる。


極光の揺らめく夜空の下。吹雪が晴れかかった地平線の彼方。

俺たちが数時間前に出発した、白亜の幻城『キャメロット』がある方角。


幻想的で美しかったはずのその空を、どす黒く、禍々しい『黒煙』が真っ直ぐに突き破って立ち上っていた。

さらに、キャメロット全体を包み込んでいたモルガンの『絶対防壁ドーム』が、内側から放たれた極大の魔力光によって、ガラス細工のように無惨にひび割れ、崩壊し始めているのが遠目にもはっきりと分かった。


「……あ、あぁ……。そんな……」


ルナが両手で口を覆い、絶望に震える声を漏らした。

モードレッドは言葉すら発することができず、真紅の甲冑をガタガタと震わせている。


「……そういう、ことかよ」


俺の口から、乾いた、そして深い自己嫌悪に満ちた声がこぼれ落ちた。

軍師としての思考回路が、この絶望的な盤面の『真実』を瞬時に理解してしまったからだ。


「アーサー王は、最初からここに竜を探しに来たわけじゃなかったんだ。奴は、自分の血痕や足跡をワザとこの廃観測所に向けて残し……俺たちを、誘導した」


俺の言葉に、アグラヴェインがギリッと音を立てて奥歯を噛み締めた。


「陽動……! 私とモードレッドという、モルガン様を護るべき最大戦力を、この辺境の地に遠ざけるためだけに……自らの血を餌にして、我々を城から引き離したというのかッ!」


アグラヴェインの鉄灰色のガントレットが、怒りと悔恨で強く握りしめられ、血が滲むほどに軋んでいる。


最適化の罠。

俺は「ナビゲーション」というゲーム的な誘導を盲信し、アーサー王の足跡を疑うことすらしていなかった。クソAI『アルファ』は、プレイヤーが「血痕のトラッキングを辿ればボスに行き着く」というセオリーを信じ切っていることを見越し、この極悪な盤面を設計していたのだ。


「父上が……あの誇り高かった王が……戦力を削ぐために、そこまで卑劣な策を……!」


モードレッドが、絞り出すように呻く。


手薄になった白亜の城塞。そこには今、力を使い果たしたモルガンと、何も知らない無力な民衆たちだけが残されている。

そして、その城の中枢に、誰にも邪魔されることなく侵入した狂王アーサー。

その目的は、ただ一つ。


『キャメロットに住む罪なき民たちを触媒とした、生贄の儀式』。


「戻るぞ! 今すぐマウントを出せ!!」


俺は喉が裂けるほどの声で怒鳴り、虚空を叩いてストライダーを召喚した。


「まだ間に合うかもしれない! あの黒煙は、ガウェインのおっさんが必死に防衛線を張って抵抗してる証拠だ!」


絶望的な虚脱感は、一瞬にして焦燥と凍てつくような危機感へと反転した。

遠くキャメロットから立ち上る不吉な黒煙は、俺たちの甘い予測を嘲笑うかのように、美しかった極光の空を無惨に汚し続けている。


「母上……! 民たちよ、どうか無事でいてくれッ!」


真紅の騎士が血を吐くような悲痛な叫びを上げ、軍馬の手綱を強く引いた。

俺たちはすべてを投げ打ち、雪と氷を蹴り立てて、燃え上がる白亜の都へと向かって全速力で駆け出した。

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