表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
失業した軍師、産廃ジョブで世界の余白を攻略する 〜古代変形機装は、使い手の頭がおかしいほど強くなる〜  作者: 三元豚


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/120

領主ノイズの査定


 夜のグレイム領は、昼よりも静かだった。


 静か、というのは正確ではない。工房の音はまだある。炉の唸りも、歯車の軋みも、蒸気の抜ける音も消えていない。だが、昼間のそれが街全体の呼吸だとすれば、夜の音はもっと低く、閉じていた。


 誰かに聞かれないように、鉄と木と火が内側で囁いている。


 俺は黒鉄の重装騎士姿で、搬入門へ向かっていた。


 左肩には、きなこもちが作った《灰鉄の偽装外殻片》を仮装着している。完成防具ではない。あくまで試作品だ。それでも、見た目装備だけだった昨日までとは違う。肩の動きが少し楽になり、黒鉄の外観と実際の可動が、わずかに噛み合った。


 重装騎士に見える。


 だが、肩は死なない。


 偽装としては上々だ。


 もっとも、今夜の目的は戦闘ではない。


 記録だ。


 リーフェ村を縛る税の檻。その入口にあるのが、グレイム領の搬入門である。素材はここを通らなければ正式素材として扱われない。ここで分類され、ここで等級をつけられ、ここで領主館指定価格と紐づけられる。


 なら、そこに必ずログが残る。


 灰鉄鉱がいくらで評価され、根麻布がどの等級で扱われ、実際の搬入量と市場表示価格がどう変わっているのか。


 村の帳簿と試作品だけでは足りない。


 領主館側の数字が必要だ。


 そして、数字は嘘をつく。


 正確に言えば、人間が数字を使って嘘をつく。


 数字そのものは淡々としている。だからこそ、配置をずらされると厄介だ。平均ではなく最大値を基準にする。買い取り評価と税額評価を分ける。表示価格をじわじわ吊り上げる。そんな小細工を挟めば、数字は途端に都合のいい棒になる。


 その棒で作った檻を、今から見に行く。


 単独で。


 ルナはリーフェ村に残した。


 理由は二つある。


 ひとつは、村の護衛。


 もうひとつは、情報屋の目を分散させるためだ。


 黒鉄の重装騎士と灰衣の旅剣士。その二人が一緒に動き続ければ、特徴が固まる。なら、分けた方がいい。俺はグレイム領へ。ルナは村へ。どちらも少し怪しいが、二人組の印象は薄まる。


 薄まってくれ。


 頼むから。


 街道からグレイム領の外郭へ入ると、搬入門の灯りが見えた。


 昼間ほどではないが、門はまだ動いている。夜間搬入用の小窓が開き、数台の荷車が並んでいた。鉱石箱、木材、乾燥布、薬草束。素材の街らしい光景だ。


 ただ、その横には領主館の徴収端末がある。


 鉄槌と歯車の紋章。


 その中央に、銀貨を掴む手。


 何度見ても趣味が悪い。


 俺は列の端へ並んだ。


 荷物は持っていない。持っていないのに搬入門へ来る重装騎士。怪しい。だが、俺には別の名目がある。


 登録工房利用予定者向けの素材価格閲覧。


 領主館は、工房利用者に対して素材相場と等級基準の閲覧端末を開放している。表向きは透明性のため。実際には、自分たちの指定価格を「公開済み」と言い張るための仕組みだろう。


 制度というものは、綺麗な看板を掲げるほど裏が濁っていることがある。もちろん、本当に綺麗な場合もある。だが、ノイズに限ってそれはない。偏見ではない。状況証拠だ。


 順番が来る。


 夜間窓口のNPCが淡々と聞いてきた。


「利用目的を提示してください」


「工房利用前の素材価格閲覧」


「登録冒険者名」


「アイズド」


 名前を出す。


 ここは避けられない。


 だが、グレイム領の搬入門で価格閲覧をしたプレイヤーの名前など山ほどある。問題は、ここで何を見るかだ。


 端末が開く。


 《素材価格閲覧》


 《等級基準》


 《搬入量統計》


 《登録工房使用料》


 《領主税改定履歴》


 項目が並ぶ。


 欲しいものは、全部ある。


 ありすぎる。


 こういう時は、逆に警戒する。見せていい数字だけを並べている可能性が高い。だが、見せていい数字だけでも、並べ方を変えれば違和感は拾える。


 俺は灰鉄鉱を検索した。


 過去三ヶ月。


 リーフェ村。


 他村平均。


 領主館指定価格。


 買い取り評価。


 搬入量。


 表示されたグラフを見て、思わず笑いそうになった。


 露骨だ。


 露骨すぎて、逆に笑える。


 領主館指定価格は、過去三ヶ月でじわじわ上がっている。


 一方、リーフェ村の買い取り評価は下がっている。


 理由欄には、魔物増加による品質不安定、採掘量低下、選別不備とある。採掘量が落ちたのは事実だろう。だが、品質不安定という評価の根拠が薄い。サンプル査定回数が、他村より少ない。


 つまり、ろくに査定せず低く見積もっている。


 次に根麻布。


 こちらも同じ。


 黒斑病を理由に全体評価を下げているが、選別後の良品率データが欠けている。村の帳簿では、良品はまだ一定数残っていた。だが、領主館側の表示では、リーフェ村の根麻布全体が低品質扱いに寄せられている。


 税額算定では高く。


 買い取りでは低く。


 担保評価ではさらに低く。


 見事な三段活用だ。


 国語の授業で出したら怒られるタイプの活用である。


 俺は表示を保存しようとした。


 その瞬間、端末が警告を出す。


 《一部情報の外部保存には領主館許可が必要です》


 やはり来た。


 閲覧はできる。


 保存はできない。


 実に分かりやすい。


 見せるが、持ち帰らせない。これでは証拠として弱い。


 だが、完全に閉じてはいない。システムは閲覧ログを残す。保存できないなら、別の形で記録すればいい。


 俺は表示を閉じず、手元のメモ機能へ要点だけを写す。


 スクリーンショットではない。


 数値の手入力。


 古い。


 地味。


 だが、こういう地味な作業ほど検出されにくい。デジタル世界で一番強いのは、たまに手書きである。紙と鉛筆はシステムの外側にいる。もっとも、今はゲーム内メモだが。


 灰鉄鉱。


 指定価格上昇率。


 買い取り評価下降率。


 査定回数。


 搬入量。


 根麻布。


 黒斑病評価。


 良品率データ欠落。


 担保評価。


 必要な数字を写す。


 その時、背後から声がした。


「熱心だな」


 男の声。


 軽い。


 だが、油断のない声。


 俺は端末を閉じずに、ゆっくり振り返った。


 そこに立っていたのは、昼間リーフェ村に来た補助警備ではなかった。


 派手なコート。


 指輪だらけの手。


 整った顔立ち。


 そして、落ち着きのない目。


 領主ノイズ。


 思ったより早い。


 いや、向こうから来たのなら、これは偶然ではない。


「夜の搬入門に、黒鉄の重装騎士か」


 ノイズは笑った。


「しかも、リーフェ村の素材価格を熱心に見ている。偶然とは言いにくいな」


「登録工房を使う前に、素材相場を調べるのは普通だ」


「普通の冒険者は、査定回数まで見ない」


「俺は細かい重装騎士だ」


「その言い訳、面白いと思っているのか?」


「そこそこ」


 ノイズの笑みが薄くなる。


 周囲には、彼の補助警備が二人。


 レベル五十台。


 今の俺なら、やろうと思えば対処できる。


 ただし、ここは搬入門だ。


 周囲にはNPCもプレイヤーもいる。監視ログもある。ここで《古代変形機装》を変形させれば、それで終わりだ。重装騎士のふりは剥がれ、情報屋たちに餌を撒くことになる。


 戦闘は不可。


 会話で抜ける。


「お前が、リーフェ村の再査定請求に関わった黒鉄だな」


 ノイズが言った。


「補助者の一人ではある」


「余所者が領政に首を突っ込むな」


「領地管理システムに用意されている再査定請求を使っただけだ」


「あれは本来、登録商会向けの制度だ」


「規約上は供給村にも適用される」


「屁理屈だな」


「規則とは、だいたい屁理屈でできているらしい」


 きなこもちの受け売りだ。


 便利なので使わせてもらう。


 ノイズの眉が動く。


「モチモチきなこもちか。あの野良ドワーフめ。死に機能で遊んでいるだけなら見逃してやったものを」


「理外創成の試作品は、素材評価の証拠として有効だった」


「有効? 笑わせるな。登録工房も通していない、村の共同炉で作った試作品など、正式な流通品ではない」


「流通品ではない。だから販売規則には引っかからない。素材評価用の試作品だ」


「小賢しい」


「褒め言葉として受け取る」


「褒めていない」


 ノイズの声が少し荒くなる。


 怒りやすい。


 そして、プライドが高い。


 なら、扱い方はある。


「リーフェ村の素材評価は不自然だ」


 俺は言った。


「税額算定では高く、買い取りでは低く、担保評価ではさらに低い。査定回数も不足している。再査定請求は妥当だ」


「領主である私の査定に、ただの冒険者が口を出すのか」


「ただの冒険者でも、公開端末の数字は読める」


「数字が読めるから何だ」


「数字をどう使っているかも見える」


 ノイズの目が細くなった。


 補助警備のひとりが一歩前へ出る。


 俺は動かない。


 盾にも手をかけない。


 ここで戦う気がないと示すためだ。


 いや、戦う気はないが、逃げる準備はしている。重装騎士のふりをしていても、足の置き方は変えられる。外殻片のおかげで肩も少し楽だ。ありがたい。きなこもち、性格は面倒だが腕は確かである。


「お前たちの目的は何だ」


 ノイズが聞いた。


「装備更新」


「は?」


「グレイム領に来た目的だ。防具を作りたい。そのために素材と工房を調べている。リーフェ村の素材が使えそうだった。だから関わった」


「それだけか?」


「それだけだ」


 嘘ではない。


 全部でもない。


 ノイズはじっと俺を見る。


「なら、取引しよう」


 来た。


 こういう手合いは、脅しの次に取引を出す。自分が金で動くから、他人も金で動くと思っている。


「リーフェ村から手を引け。モチモチきなこもちとの関わりも切れ。お前と灰衣の剣士には、登録工房の使用許可を出してやる。素材も融通する。中級冒険者には過ぎた待遇だ」


「好条件だな」


「分かるなら」


「だが断る」


 ノイズの顔から笑みが消えた。


「理由を聞こうか」


「その工房で作った防具は、お前のログに残る。素材も、製作も、完成品も、全部領主館の記録になる。そんなものを着て歩く趣味はない」


 ノイズは一瞬だけ黙った。


 図星だ。


 防具を与えるというのは、単なる懐柔ではない。装備ログを握るということだ。俺とルナの偽装防具をノイズの工房で作れば、こちらの外見、性能、素材、製作履歴が領主館に残る。


 論外である。


「慎重だな」


「臆病なんだ」


「臆病者が、領主に楯突くのか」


「臆病だから、面倒な首輪を避ける」


 ノイズは低く笑った。


 笑い方が変わった。


 薄い余裕ではなく、苛立ちを隠すための笑いだ。


「なら、こちらも正式な手段を取る」


「どうぞ」


「リーフェ村の再査定請求に添付された試作品は、登録外設備で作られたものだ。素材評価用という理屈は分かった。だが、その評価が正しいかどうかは、領主館が確認する必要がある」


「確認は昼に済んだはずだ」


「あれは保管確認だ」


 ノイズがメニューを操作する。


 視界に、地域通知が走った。


 《領主権限イベントが発行されました》


 《公開査定:リーフェ村素材価値確認》


 《発行者:グレイム領主ノイズ》


 《対象:リーフェ村灰鉄鉱・根麻布》


 《対象試作品:灰鉄の偽装外殻片/根麻の可動外套片》


 《査定方式:公開実演》


 《期限:翌日正午》


 《失敗時:再査定請求棄却、担保執行再開》


 《成功時:担保執行停止、素材評価再審査》


 俺は表示を見た。


 そして、心の中で舌打ちした。


 そう来たか。


 公開査定。


 領主館側が、こちらの試作品の価値を公開の場で確認するイベントを発行した。表向きは公正な審査。だが、実際には罠だ。


 公開実演ということは、人前で性能を示す必要がある。


 俺の《灰鉄の偽装外殻片》は、重装騎士に見せつつ可動を殺さない防具外殻だ。性能を示すには、俺が動く必要がある。


 ルナの《根麻の可動外套片》は、顔と髪を隠しつつ剣術可動を保つ外套だ。こちらも、彼女が動く必要がある。


 つまり。


 俺たちの偽装防具の性能を証明するには、俺たち自身が人前に出なければならない。


 ノイズはそれを狙っている。


 装備の価値を示せ。


 示せなければ村は沈む。


 示せば、お前たちの特徴を晒す。


 なかなか嫌な手だ。


 性格は悪い。


 やはり悪い。


「どうした。数字が読める重装騎士殿」


 ノイズが笑った。


「今度は数字ではない。実演だ。村の素材に価値があると言うなら、公開の場で示してもらおう」


「拒否権は?」


「ある。拒否すれば再査定請求は根拠不十分として棄却される。担保執行も再開だ」


「実に公正な制度だな」


「そうだろう?」


 ノイズは楽しげに目を細める。


「明日正午、領主館前広場。リーフェ村、モチモチきなこもち、黒鉄の重装騎士、灰衣の旅剣士。全員、参加してもらう」


「全員か」


「当然だ。作った者、使う者、素材を出した者。公開査定には必要だろう?」


 必要。


 その言葉の形をした罠。


 ここで断れば村が終わる。


 受ければ俺たちが晒される。


 どちらに転んでもノイズに利がある。


 ただし。


 俺は通知をもう一度読んだ。


 成功時、担保執行停止、素材評価再審査。


 つまり、勝てば村の檻に大きな亀裂が入る。


 公開の場で、領主館の査定が誤っていたと示せる。


 ノイズが出した罠は、同時に足場でもある。


 なら、やる価値はある。


「分かった」


 俺は言った。


「受ける」


 ノイズの笑みが少し深くなる。


「賢明だ」


「ただし、査定方式はログ通りに限定される。試作品の性能確認と、素材評価の再審査。それ以外の個人情報開示は対象外だ」


 ノイズの眉がわずかに動いた。


「細かいな」


「書類にうるさい重装騎士だからな」


「その口、明日まで保つといい」


「そちらこそ」


 ノイズは補助警備を連れ、搬入門から去っていった。


 俺は端末の前に残る。


 公開査定。


 翌日正午。


 領主館前広場。


 最悪だ。


 最悪だが、最悪には種類がある。


 これは、利用できる最悪だ。


ーーーーーー


 リーフェ村へ戻る頃には、夜が深くなっていた。


 共同炉の火は落とされ、村は静かだった。だが、集会小屋には灯りが残っている。ルナ、きなこもち、ロアン、リリィが待っていた。


 俺が入ると、全員が顔を上げる。


「アイズドさん」


 ルナが立ち上がった。


「大丈夫でしたか?」


「大丈夫かどうかは、明日決まる」


「何があったんですか」


 俺は領主権限イベントの通知を全員へ共有した。


 《公開査定:リーフェ村素材価値確認》


 表示を見た瞬間、ロアンの顔が青くなり、リリィが息を呑んだ。


 きなこもちは、逆に目を細める。


「公開査定か。ノイズらしい嫌な手だね」


「狙いは?」


「こっちを晒すこと」


 俺は答えた。


「試作品の価値を示すには、俺たちが使う必要がある。つまり、黒鉄の重装騎士と灰衣の旅剣士が、人前で動くことになる」


 ルナが自分のポンチョを握った。


「私も、ですか」


「対象に入っている」


「白銀は……」


「使うな」


 俺は即答した。


「絶対にだ。明日は《根麻の可動外套片》の性能を示すだけでいい。顔と髪を隠したまま、剣術可動を保てること。足捌きが死なないこと。それを示せばいい」


「でも、相手が妨害してきたら?」


「その可能性は高い」


 きなこもちが腕を組んだ。


「公開査定という名の、実質パフォーマンステストだろうね。外殻片と外套片が、ただの見た目部品じゃないと示す必要がある。ノイズはたぶん、こちらが失敗しやすい条件を出してくる」


「たとえば」


「重装騎士には鈍い動きを強要する。旅剣士には視界を塞ぐ動作試験。あるいは、模擬魔物を使った耐久と可動の確認」


「戦闘になる可能性もあるか」


「模擬戦扱いでね」


 ルナの顔が真剣になる。


「白銀なしで、やります」


「ああ」


 俺は頷いた。


「明日は、お前が前に出る場面がある」


 ルナが一瞬、息を止めた。


「私が?」


「外套片の価値を示すには、お前が動くしかない。俺が説明しても意味がない」


「でも、目立ちます」


「目立つ。ただし、見せるものを限定する。白銀髪は出さない。白銀の剣気も出さない。見せるのは、灰衣の旅剣士としての足捌きだけだ」


 ルナはしばらく黙った。


 怖いのだろう。


 当然だ。


 世界に探されているかもしれない。情報屋たちが匂いを嗅いでいる。そんな中で、人前に出て動く。


 怖くない方がおかしい。


「できますか」


 彼女は聞いた。


 俺にではない。


 たぶん、自分に。


 俺は少し考えてから言った。


「できるかどうかは知らない」


「そこは励ましてください」


「だが、必要なことは見えている」


 ルナが顔を上げる。


「白銀を使うな。剣先を光らせるな。相手を倒そうとするな。ただ、外套が動きを邪魔しないことを示せ。お前は、もともと避けるのが得意だ。明日は勝つんじゃない。崩れないところを見せる」


「崩れないところ」


「ああ。お前の役目は、派手に斬ることじゃない。布の下で、ちゃんと立って、ちゃんと動いて、ちゃんと戻ることだ」


 ルナは、その言葉をゆっくり飲み込んだ。


 それから、小さく頷いた。


「やります」


 声は震えていなかった。


 きなこもちが笑う。


「いいね。じゃあ、今から仮調整だ。ポンチョちゃん、外套片をもう一回合わせるよ。明日の正午までに、少しでも動きやすくする」


「はい」


「アイズドも外殻片の位置調整。肩と腰、もう少し逃げを作る。あんたは明日、重装騎士に見えるまま妙に動けることを証明する」


「妙に動ける重装騎士は怪しくないか」


「怪しい。でも、素材性能の証明としては強い」


「俺の匿名性は?」


「仕事には犠牲がつきもの」


「職人が雑に犠牲を要求するな」


 きなこもちはにやりと笑った。


「大丈夫。あんたの武器には触らない。明日も見せない。防具の性能だけで押し切る」


「それが一番難しい」


「だから面白いんでしょ」


 否定したかった。


 だが、少しだけ口角が上がった。


 ルナがそれを見て、小さく笑う。


「やっぱり楽しそうです」


「気のせいだ」


「明日は大変ですよ」


「分かっている」


「それでも、楽しそうです」


「……気のせいだ」


 二回言うと、嘘っぽくなる。


 失敗した。


 俺は通知をもう一度見る。


 公開査定。


 翌日正午。


 領主館前広場。


 ノイズが用意した罠。


 だが、こちらにとっても好機だ。


 村の素材価値を公の場で認めさせる。


 担保執行を止める。


 ノイズの税の檻に、さらに大きな亀裂を入れる。


 そして、俺たちの正体は隠す。


 かなり難しい。


 だが、不可能ではない。


 たぶん。


 いや、たぶんで進むしかない。


 俺たちはまだ、レベルだけ上がった不完全な二人組だ。防具も試作。偽装も不完全。相手は領主権限を持つ悪徳プレイヤー。


 条件は悪い。


 だからこそ、盤面を読む意味がある。


 集会小屋の外では、夜の村が静かに眠っている。


 その向こうに、グレイム領の煙が低く流れていた。


 明日、その煙の中心へ行く。


 俺は黒鉄の鎧を見下ろし、左腕の機装を静かに隠した。


 武器は作らない。


 見せもしない。


 戦うのは、防具と書類と、少しだけ演技。


 本当に、最高のクソゲーである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ