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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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交錯する忠義


「邪魔をするな、モードレッドォォォォォッ!!」


漆黒の巨漢、ガウェイン卿の口から血を吐くような怒号が放たれ、身の丈を超える大剣が空を切り裂いた。

極光オーロラが揺らめく白亜の城門前。静寂に包まれていた氷原の空気は、今や二つの規格外の闘気が衝突する爆心地と化していた。


ガウェインが振り下ろした致死の重撃を、一条の閃光のように飛び出してきた真紅の騎士――モードレッドが、己の細身の剣で真っ向から受け止めている。

ギィィィィィィィンッ!!

鋼と鋼が極限の力で削り合い、火花が散る。その甲高い金属音は、俺の鼓膜を物理的に破りそうなほどの痛みを伴っていた。


「彼らは何も知らない迷い子だ! 剣を引け、ガウェイン卿!」

「無知であろうと、狂王の言葉を信じ、この地に足を踏み入れた事実は変わらん! あのお方の聖域を汚す刃は、ここでへし折る!」


ガウェインの全身を覆う漆黒の甲冑の隙間から、ドス黒い殺意のオーラが噴出する。大剣の刃に刻まれた呪詛の文様が赤黒く発光し、空間そのものを歪ませていく。

その圧倒的な膂力と質量を前にして、小柄で華奢な真紅の騎士はジリジリと後退を余儀なくされているかに見えた。

だが、モードレッドの足は、雪原の凍土に深く根を下ろしたように決して崩れない。


俺は、ルナを庇うように展開した《要塞大盾フォートレス・アイギス》の裏で、奥歯を噛み締めながら冷や汗を流していた。


(……なんてデタラメなステータス差だ)


EHOというゲームにおける絶対的なルール。それは『レベルと基礎ステータスによる越えられない壁』である。

俺の現在の防具は、課金スキンで見た目を取り繕っているだけの『レベル1の布の服』だ。目の前で衝突している二人のNPCが放つ余波、ただの衝撃波が掠っただけでも、俺のHPは一瞬で消し飛び、ロストを迎えるだろう。

軍師としての冷静な計算が、「お前は今、蚊帳の外の羽虫に過ぎない」という残酷な事実を叩きつけてきていた。手も足も出ない。ただ、目の前の超常の争いがどう転ぶのかを見守ることしかできないのだ。


「その刃は、あのお方を護るためのものか! それとも、己の憎悪を鎮めるためのものか! 答えよ、ガウェイン卿!」


モードレッドが、鍔迫り合いのまま烈帛の気合いを込めて叫ぶ。


その言葉に、ガウェインの兜の奥で燃えていた赤黒い眼光が、僅かに揺らいだ。


「……私の剣は、あのお方の盾となるためだけに振るわれる。だが、この者たちを生かしておけば、必ずや儀式の妨げとなる!」

「万一の際は、私が全責任を負う!」


モードレッドはガウェインの大剣を力強く押し返し、二人の間に間合いを作った。


「もし彼らが母上に牙を剥くというのなら、その時は私の首を、母上の御前に差し出しても構わん!」


氷原の凍てつく風が吹き抜ける中、真紅の騎士の口から放たれたその『覚悟』の重さに、ガウェインは動きを止めた。

漆黒の甲冑が、ギシ、と軋む音を立てる。

彼は大きく息を吐き出し、兜の奥でギリッと歯噛みする音を響かせた。


「……貴様が、そこまで言うのなら。だが、モードレッド。少しでも妙な真似をすれば、この二人ごと貴様も即座に両断する。忘れるな」


ズンッ、と。

ガウェインは不承不承といった様子で大剣を雪原に突き立て、殺気を収めた。

周囲の空間を押し潰していた重圧が、嘘のようにフッと軽くなる。


「……助かった」


俺は小さく息を吐き、重装騎士から元の布の服へと機装のロックを解除した。背後では、ルナが強張っていた身体の力を抜き、片手直剣を震える手で鞘に収めている。


ガウェインの殺意を間一髪で抑え込んだモードレッドが、真紅の甲冑を鳴らして俺たちに向き直った。

その立ち姿は、小柄でありながらも、王族としての気高さと揺るぎない威厳を放っていた。


「さて、迷い子たちよ。剣は収めよう。だが、ここから先は私の問いに答えよ」


モードレッドの声は、兜越しのくぐもった音でありながら、どこか涼やかで凛とした響きを持っていた。


「アーサーから、何を聞いた? どうやってこの隠蔽された城の座標を見つけ出した? そして……なぜ、ここへ来た?」


言葉の端々に、拒絶を許さない強い圧力が込められている。

俺はルナを背後に庇ったまま、冷静に状況を分析した。

ここで下手に嘘をついたり、誤魔化したりするのは悪手だ。ガウェインにすら手も足も出なかった俺たちが、彼と互角以上に打ち合うこの真紅の騎士に逆らえる道理はない。


「……素直に話すよ。俺たちは、この極光の氷原へ向かう道中、針葉樹の森の湖畔で、瀕死の重傷を負って倒れている老ドワーフを見つけたんだ」


俺は両手を軽く広げ、淡々と事実を述べる。


「胸を深く抉られ、今にもロストしそうだったそいつに回復魔法をかけ、命を救った。目を覚ました老人は『アーサー王』と名乗り、こう言った」


俺が語り始めると、モードレッドの肩が微かにピクッと震えた。


「『妖妃モルガンと、叛逆の騎士モードレッドが反乱を起こした。円卓の騎士は命を散らし、国は氷に閉ざされた』……とね。俺たちはその言葉を信じ、国を奪った魔女を討伐するために、王の依頼を受けてここへ来た。これが全てだ」


俺の言葉を聞き終えた瞬間。

モードレッドの真紅の甲冑から、ギリィッ……という、拳を強く握りしめる音が響いた。


「……そうか」


兜の奥から漏れた声は、酷く冷たく、そして深い悲哀と怒りに満ちていた。


「あの男は、己の犯した大罪をすべて母上に被せ、いけしゃあしゃあと被害者を演じているか」


「えっ……?」


背後で、ルナが驚きに息を呑む。


「それじゃあ、アーサー王様が私たちに嘘を吐いていたんですか……? あんなに苦しそうに、国や民のことを心配して泣いていたのに……」


ルナのサファイアブルーの瞳が、困惑と混乱に揺れている。無理もない。純粋な正義感からアーサー王を助けようとしていた彼女にとって、その前提が根底から覆されようとしているのだから。


「嘘という生易しいものではない」


モードレッドは、吐き捨てるように言った。


「あれは、己の狂気を正当化するための、吐き気を催すほどの欺瞞だ。アーサーは高潔な王などではない。力に魅入られ、禁忌に手を染め、この国を滅亡の淵へと追いやった……真の元凶だ」


「真の、元凶……」


俺は眉をひそめた。

アーサー王伝説という『神話』をなぞっていると思っていたクエストが、まさかここまで完全に反転しているとは。超高度AI『アルファ』の用意したシナリオは、プレイヤーのメタ的な推測を逆手に取る、極悪なトラップだったというわけだ。


「言葉だけで語っても、貴様らには俄に信じることはできまい」


モードレッドは、腰の剣をゆっくりと鞘に収めた。


「貴様らには、一度、現在のキャメロットの『真の姿』を見てもらう必要がある。母上が何を護り、何と戦っているのかを」


そう言うと、真紅の騎士は両手を首元にやり、兜の留め金に指を掛けた。

ガシャン、という冷たい金属音が氷原に響き、禍々しい意匠の兜がゆっくりと外される。


その下に隠されていた素顔が露わになった瞬間、周囲の空気がフッと変わったような気がした。


「――――あ」


ルナの口から、感嘆とも驚愕ともつかない吐息が漏れる。俺もまた、思わず目を瞠った。


兜の下から現れたのは、戦火と血に塗れた無骨な男の顔ではなかった。

汗に濡れた、燃えるような金糸の髪。極光の淡い光に照らされたその肌は、透き通るように白く、滑らかだった。

切れ長で凛々しい眉、スッと通った鼻筋、そして、サファイアよりも深く澄んだ蒼い瞳。

それは、少年のような精悍さと、少女のような儚さを併せ持つ、中性的で神々しいほどの美貌であった。


真紅の重甲冑とはあまりにも不釣り合いなその素顔。

だが、その蒼い瞳の奥には、数え切れないほどの絶望を乗り越え、それでもなお大切なものを護り抜こうとする『気高き意志』が、揺るぎない光となって宿っていた。


「改めて名乗ろう。私はモードレッド。母上であるモルガンを護り、このキャメロットの真実を背負う騎士だ」


モードレッドは、極光の風に金糸の髪を揺らしながら、静かに、だが確かな『人間としての重み』を持ってそう告げた。


単なるデータやAIではない。そこには、魂を持った一人の騎士としての誇りが息づいていた。

その素顔と覚悟を目の当たりにした俺とルナは、言葉を失い、ただ深く惹き込まれるように彼女の言葉に耳を傾けようとした。


だが、その神聖な空気を、暴力的なまでの殺意が引き裂いた。


「ならんッ!!」


ズドォォォォンッ!! と、雪原が爆発したかのような轟音が響く。

突き立てていた大剣を引き抜き、ガウェインが再び俺たちの前に立ちはだかったのだ。


「モードレッド! 己の素顔を晒してまで、このような得体の知れぬ外部の者を城に入れるなど言語道断! ましてや、奴らはアーサーの言葉に耳を貸した者たちだぞ!」


ガウェインの漆黒の甲冑から、先ほどよりもさらに濃密な、ドス黒い闘気が渦を巻いて立ち昇る。


「もしあのお方の儀式に支障が出れば、どう取り返しをつけるつもりだ! 貴様の甘さが、すべてを水泡に帰すことになるかもしれんのだぞ!」


忠義が故の激昂。主君を愛し、護り抜こうとするが故の、盲目的で狂気的なまでの排他主義。

ガウェインの大剣が再び高く振り上げられ、大気が悲鳴を上げる。

このままでは、今度こそ本当に斬り捨てられる。理屈ではない、純粋な力の暴走がそこにあった。


「いい加減にしろ、ガウェイン!!」


その時。

モードレッドが、自らの手から真紅の兜を雪原へと乱暴に放り捨て、ガウェインの大剣の前に両手を広げて立ちはだかった。


そして、極光の空を切り裂き、氷原全体を震わせるほどの大音声で、魂からの叫び声を上げた。


「――母上の苦しみを! これ以上、孤独な嘘の裏に隠し続けるというのかァッ!!」


その叫びには、血を吐くような悲痛な響きと、モルガンへの深すぎる愛情が込められていた。

一切の防御を捨て、身を挺して叫んだモードレッドの姿に、ガウェインの振り下ろそうとした大剣が、ピタリと空中で停止する。

ドス黒く渦巻いていた闘気が、その叫びの前に真っ向から打ち砕かれ、散らされていく。


モードレッドは肩で荒い息を吐きながら、なおも殺気を放ち続ける巨漢の騎士を真っ直ぐに見上げ、静かに、だが決して逆らうことのできない王の威厳を持って言い放った。


「落ち着け、ガウェイン卿」


極光の照らす幻城の門前。交錯する忠義と真実の境界線で、物語は真の深淵へとその扉を開こうとしていた。

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