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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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陽気なファンファーレ


エリュシオンの北門を抜け、雪と氷に閉ざされた『極光の氷原』を目指す道中。

俺たちは中継地点となる鬱蒼とした針葉樹の森を、初心者マウントの『ストライダー』に乗って駆け抜けていた。

その途中の湖畔の縁、葦が群生している水際で、俺たちは『それ』を発見した。


「アイズドさん、早く回復魔法を! この人、死んじゃいます!」


ルナが顔を青ざめさせながら抱え起こしたのは、顔の半分を覆う見事な白銀の髭を蓄えた『ドワーフ族』の老騎士だった。

かつては国宝級の業物であっただろう黄金色の重鎧は、巨大な獣の爪で引き裂かれたかのようにボロボロに砕け散り、胸部の深い裂傷からは絶え間なく光の粒子――命の灯火がこぼれ落ちていた。


それに、彼はドワーフでありながら、立ち上がれば俺と同じほどの身長を持つであろう規格外の巨躯をしていた。

俺は疑問を脳の片隅に追いやり、すぐさま右腕の機装を《神聖司祭》の大杖に変形させ、光の魔法陣を展開した。


「チィッ、なんだこいつは……! 《神聖なる息吹ホーリー・ブレス》ッ!」


俺が杖を掲げ、純粋な回復魔法の光を老騎士の傷口へと注ぎ込もうとした、その直後だった。

厳粛で緊迫した空気をぶち壊すように、エリュシオンの初心者広場で流れるような『ファンシーで陽気な電子音』が、唐突に脳内に響き渡ったのだ。

『♪ たいへん! 老騎士の命の灯火が消えそうです!』

『♪ 迫りくるリズムに合わせて、タイミングよく回復魔法をかけて救出しましょう!』


「……は?」


俺の視界のど真ん中に、カラフルなポップアップウィンドウが展開される。

そして、老騎士の胸の上空に、右から左へと流れる『ノーツ(音符)』のレーンが出現したのだ。BGMは、どう聞いても牧歌的なピコピコ音である。


「な、なんだこれ!? なんでこんな凄惨な瀕死のオッサンの前で、いきなりリズムゲームが始まってんだよ!?」


俺は思わず大杖を持ったまま、素っ頓狂な声を上げた。


「アイズドさん! ほら、丸いのが流れてきてますよ! 判定ラインに合わせて杖を振ってください!」


隣にいたルナが、なぜかシステムのエモート機能である『応援ポンポン』を両手に装備し、シャカシャカと振りながら跳ねている。アタッカーである彼女には回復魔法がないため、システム的に完全に『観客オーディエンス』として処理されているらしい。


「フレー、フレー、アイズドさん! がんばれ、がんばれ、アイズドさん!」

「お前もノリノリで応援してんじゃねえ! クソッ、このポンコツAI『アルファ』め、どこまでプレイヤーの感情を弄べば気が済むんだ!」


俺は口汚く毒づきながらも、流れてくるノーツに合わせて《神聖なる息吹》と《浄化の光》のスキルボタンを、コンマ一秒の狂いもなく正確なリズムで叩き込んでいった。


『PERFECT!』『PERFECT!』『EXCELLENT!!』


画面上に弾けるカラフルな文字。

元プロゲーマーの動体視力とリズム感を舐めるな。どんな理不尽なミニゲームだろうが、出された課題は理論値で叩き潰すのが俺の流儀だ。


「よし、フルコンボだオラァッ!!」


ピロロロロロンッ!という間の抜けたクリア音と共に、最後の大回復魔法が老騎士の身体を包み込んだ。

ボロボロに引き裂かれていた黄金の重鎧の下で、致命傷だった裂傷が光の粒子となって塞がっていく。


「ふぅ……なんとか、消滅ロストは免れたみたいですね」


ルナが応援ポンポンをしまいながら、安堵の息を吐く。


「あんなふざけた演出のくせに、一個でもノーツを逃してたら即ロストしてた挙動だったぞ……。まったく、心臓に悪い」


俺がぼやいていると、泥に塗れて倒れていた老騎士が、ゆっくりと重い瞼を開いた。

規格外のドワーフの虚ろな瞳が、俺とルナを交互に見つめる。


「……おお……見知らぬ、旅の者よ……。我を、深淵の淵より……救い出してくれたか……」


老騎士の口から、重低音の響くかすれた声が漏れた。


「大丈夫ですか? 凄い傷でしたよ。一体、誰にこんなひどいことをされたんですか?」


ルナがしゃがみ込み、心配そうに問いかける。

老騎士はゴホッと咳き込むと、痛む胸を押さえながら、搾り出すように言葉を紡いだ。


「……気を、つけろ……。モルガン……あの魔女、モルガンに……」


その一言だけを言い残し、老騎士は再びガクリと首を垂れ、深い眠り(システム的な睡眠状態)へと落ちていった。


「モルガン……? お爺さん、モルガンって誰ですか!? お爺さん!」


ルナが肩を揺するが、反応はない。HPは回復しているため死んではいないが、イベントのフラグがそこで一時停止しているようだった。

その時である。

ピィィィィン、と。

ワールドアナウンスの時とは違う、しかしそれに勝るとも劣らない、荘厳で重厚なシステム音が空間に鳴り響いた。

俺たちの視界のど真ん中に、プラチナの装飾が施された、見たこともないほど豪華なクエストウィンドウが展開される。



『スペシャルクエスト発現:【騎士王の残影と、妖妃モルガンの呪縛】』

『※本クエストは、あなた方のパーティが独占受注権を獲得しました』



「…………は?」


俺は、あんぐりと口を開けたまま、プラチナ色のウィンドウと、隣で目を瞬かせているルナを交互に見比べた。


「あ、アイズドさん……なんか、すごいキラキラしたクエストが出ましたよ? 『スペシャルクエスト』って書いてありますけど……」

「お前……」


俺はルナの肩をガシッと掴み、顔を引きつらせた。


「どんだけ徳を積めば、こんなとんでもない隠しクエストの発券機になるんだよ!」

「へ? 徳ですか? うーん、強いて言えば、現実リアルで道場の掃除を毎日欠かさずやってることくらいですかね……って、痛いですアイズドさん、肩が痛いです!」


俺はルナから手を離し、乱れた呼吸を整えるために何度か深呼吸をした。


「いいか、ルナ。よく聞け。『ワールドクエスト』が全プレイヤーで進行を共有し、世界全体を巻き込むものだとしたら……この『スペシャルクエスト』ってのは、ベクトルが全く違うヤバさなんだ」


俺はプラチナ色のウィンドウを指差した。


「スペシャルクエストは、このEHOの広大な世界の中で、たった『一度』、たった『一つのパーティ』しか受注できない、完全なるオンリーワンの超限定クエストだ。世界中の数千万人がどれだけ探そうが、俺たちがこれを受注した時点で、他の連中には絶対に発生しない」


「たった一つのパーティだけ……! それって、宝くじの一等に当たるよりもすごい確率なんじゃ……」


「ああ、その通りだ。そして、そのクリア報酬は、世界に一つしか存在しない完全ユニークのアイテムや称号、あるいはシステムそのものに干渉するような規格外の権利だ。……まさか、氷原に向かうただの道端で、こんな化け物みたいなフラグを引くとはな」


ルナの無意識の豪運に呆れつつも、俺の軍師としての思考回路はすでに高速で回転を始めていた。


「……だが、謎は解けたぜ。この規格外の老騎士の正体と、このクエストの背景にあるモチーフがな」

「モチーフ、ですか?」


俺は倒れている老騎士の、砕けた黄金の重鎧と白銀の髭を見下ろした。


「彼が最後に口にした『モルガン』という名前、そしてクエスト名にある『騎士王』。……ルナ、お前は現実世界の神話や伝承で、その名前に聞き覚えはないか?」


ルナは少し首を傾げ、サファイアブルーの瞳を上に向けて考え込んだ。


「モルガン……騎士王……あっ。もしかして、アーサー王伝説ですか? あの、岩に刺さった剣を抜くお話の!」

「正解だ。アーサー王伝説における円卓の騎士を束ねる王、そして最大の敵対者として描かれる魔女、モルガン・ル・フェイ。EHOのクエストは、現実世界の神話や伝承をモチーフに再構築されることが多い。この巨大なドワーフの老騎士は、おそらくこのゲームにおける『アーサー王』そのもの、あるいはその残影といったところだろう」

「アーサー王……! じゃあ、エクスカリバーとか、聖杯を探すようなお話が、このゲームの中にあるってことですか!?」


ルナの目が、純粋な好奇心と冒険への期待でキラキラと輝き始めた。


「ああ。しかも、この老騎士の胸に刻まれた爪痕……ただの剣や魔法の傷じゃない。巨大な獣、いや、おそらくは『竜』の爪痕だ」


俺は氷原の奥地、極寒の風が吹いてくる北の果てへと視線を向けた。


「俺たちが目指すレベル90の解放クエストと、このアーサー王をモチーフにしたスペシャルクエスト。そして、世界に放たれた『七つの竜種』。これらは別々のバグやイベントに見えて、実はすべて一本の線で繋がっている可能性が高い」


全くの偶然から引き当てた、世界にたった一つしかないスペシャルクエスト。

だが、これこそがマニュアルには決して載っていない、俺たちが求めていた「最高の遊戯」の真髄だ。


「……面白くなってきやがった。レベルキャップの解放ついでに、魔女に呪われた騎士王様の世界で唯一のクエストも、丸ごと喰い尽くしてやろうぜ」

「はいっ! リズムゲームでも神話の怪物でも、どんとこいです!」



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