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失業した軍師、産廃ジョブで世界の余白を攻略する 〜古代変形機装は、使い手の頭がおかしいほど強くなる〜  作者: 三元豚


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名も無き2人組


 世界は、情報でできている。


 少なくとも、エターナル・ホライゾン・オンラインという仮想資本主義の箱庭においては、そう言っても過言ではない。


 強い武器には値がつく。


 珍しい素材には値がつく。


 未発見の狩場には値がつく。


 ボスの行動パターン、隠しクエストの発生条件、NPCの好感度分岐、上位職の前提行動。そういうものは全部、現実の金へ換算される。


 だから、情報は流れる。


 速く、浅く、濁りながら。


 正しいかどうかは、二の次だ。まず値札がつく。値札がついた後で、誰かが正しさを検証する。順番が逆だと思うかもしれないが、世の中には逆走しているのに速度だけは出ているものが多い。攻略掲示板とか、炎上した配信者の謝罪動画とか。


 黄金のワールドアナウンスが流れてから、外界は予想通り騒がしかった。


 いや、予想以上かもしれない。


 俺とルナがフェネキアから外界へ戻って、古い交易路跡を抜け、小さな宿場町へ着いた時には、もう掲示板も広場の情報端末もその話題で埋まっていた。


 《忘却されし根脈》


 《淀みの魔蛇》


 《名もなき二名の開拓者》


 《七つの楔と世界樹の封》


 進行度、一%。


 たった一%。


 一%でこの騒ぎである。スマホの充電ならまだ余裕で不安になる数字だ。それなのに世界は大騒ぎしている。もう少し落ち着け。いや、落ち着かないからこそ情報に値がつくのだが。


 宿場町ミルヴァは、グレイム領へ向かう街道の中継地だった。


 大きな町ではない。石造りの門と、小さな広場と、馬車駅と、冒険者向けの簡易宿。中級帯へ上がり始めたプレイヤーが補給に使う場所で、派手なクエストも高額な素材もない。


 だからこそ、紛れやすい。


 黒鉄色の重装騎士と、フード付きポンチョの旅剣士。


 この組み合わせは、宿場町ではそこまで目立たなかった。少なくとも、武器が三十種類に変形する男と白銀髪の剣士よりはずっとましだ。比較対象が悪すぎるとも言う。


「アイズドさん、みんな見てます」


 フードの奥から、ルナが小声で言った。


「俺たちを見てるんじゃない。掲示板を見てる」


「でも、たまにこっちも見てませんか」


「重装騎士と怪しいポンチョが二人で歩いていれば、一回くらい見る」


「やっぱり怪しいんですね」


「怪しいだけなら勝ちだ」


「その勝敗基準、嫌です」


 俺たちは広場の端へ寄った。


 視界の中央に、公共掲示板が浮いている。プレイヤーが書き込んだ情報が、街の端末に反映される簡易版だ。全体掲示板の流量をそのまま表示すると一瞬で文字の洪水になるため、ここでは話題の上位スレッドだけが要約されている。


 現在の一位は当然、これだった。


 《名もなき二名の開拓者 考察総合》


 嫌なタイトルだ。


 名もなき、と付いているのに探す気満々である。匿名という概念に対する敵意を感じる。


 ルナが不安そうに掲示板を覗く。


「名前は出てませんよね」


「出てない。だが、問題はそこじゃない」


 俺は表示をざっと読む。


 推測はすでに乱立していた。


 高レベル隠密職二名説。


 企業ギルドの秘匿攻略班説。


 海外サーバーからの遠征組説。


 白騎士団の隠し部隊説。


 八咫烏の仕込み説。


 ソロプレイヤー二人が偶然フラグを踏んだ説。


 最後のやつが一番近い。偶然ではなく、白狐に引っ張られた結果だが。


 それでも、まだ俺たちに直結する情報はない。フェネキアの名前も出ていない。白狐の羅針盤も、世界樹深層も、例の名を呼ぶことすら恐ろしい災いの一角も、表には出ていない。


 そこは救いだ。


 ただし、安心はできない。


 掲示板の下の方に、別の見出しがあった。


 《二人組の特徴候補まとめ》


 俺は嫌な予感とともに開く。


 そこには、ほぼ妄想に近い推測が並んでいた。


 ・二名ということはペア攻略特化構成か。


 ・片方がタンク、片方が高機動アタッカーの可能性。


 ・根脈、淀み、世界樹という単語から、エルフ系または獣人系NPCとの接触が条件か。


 ・淀みの魔蛇という名称から、浄化系スキル持ちがいる可能性。


 ・過去に未確認の白銀エフェクトを使う剣士の噂あり。関連不明。


 俺は最後の一文で指を止めた。


「……噂はあるのか」


「何かありました?」


「白銀エフェクトを使う剣士の噂、だと」


 ルナがフードの奥で固まった。


「私、誰かに見られてました?」


「お前が何かやらかした記憶は山ほどあるが、白銀を公衆の前で派手に出した記憶は少ない」


「山ほどって言いました?」


「言った」


「少しは否定してください」


「事実は否定すると後で利子がつく」


 白銀の剣気を見たのは、フェネキアの関係者を除けばほぼいないはずだ。淀みの魔蛇戦も秘匿領域内。剣の環も同じ。少なくとも、外界の掲示板に詳細が出る筋はない。


 となると、これは別の噂か、推測の産物だ。


 EHOでは珍しいエフェクトの話がすぐ尾ひれをつけて広がる。誰かのスキル光が銀色だっただけかもしれないし、配信の画質補正で白く見えただけかもしれない。あるいは、ルナが初期にどこかで剣を振った時に、ほんのわずかな光を誰かが見た可能性もゼロではない。


 ゼロではない、が一番困る。


 攻略勢はゼロではないものを拾う。


「ルナ。これからは本当に白銀の剣気を隠せ」


「はい」


「使うなら、人目のない場所。使うとしても、光を抑えて剣先だけに集めろ。広がらせるな」


「分かりました」


「あと、ポンチョのフードは深く」


 ルナは無言でフードを深く被った。


 怪しさが二割増した。


 まあいい。


 白銀髪が見えるよりはましだ。


「アイズドさんの方は、大丈夫なんですか?」


「俺は完璧だ」


「完璧ですか?」


「見ろ。この地味な重装騎士感。盾。兜。黒鉄色の鎧。どこからどう見ても、話しかけづらいタンクだ」


「話しかけづらいのは、前からでは」


「それは中身の問題だ」


「自覚あるんですね」


「ある。改善予定はない」


 ルナが小さく笑う。


 その時、近くを通ったプレイヤー二人組の会話が耳に入った。


「なあ、名もなき二名って、やっぱトップ勢かな」


「いや、逆に低レベル隠しクエじゃね? 進行度一%だし」


「二人で魔蛇ってやばくね」


「名前出ないのがまた怪しいよな。運営演出か?」


「隠しギルドじゃね?」


 彼らは俺たちをちらりと見たが、すぐ掲示板へ視線を戻した。


 よし。


 認識されていない。


 怪しいポンチョと地味な重装騎士は、世界を動かした二人組としては見られていない。


 今のところは。


ーーーーーー


 同じ頃、エリュシオンの中央広場では、配信者たちが黄金の通知を肴に騒いでいた。


 巨大掲示板の前に人だかりができ、いくつもの生配信ウィンドウが宙に並んでいる。コメントが滝のように流れ、考察と煽りと便乗宣伝が混ざり合っていた。


「はい、というわけで緊急配信です! 全ワールド共通メインストーリー進行、しかも進行度一%! これ絶対デカいです!」


「名もなき二名って誰だよ!」


「企業勢が隠してるんじゃないの?」


「いやいや、白騎士団なら発表するでしょ。数字取れるし」


「八咫烏の隠密班説ありますねー」


 情報は、すでに金になり始めていた。


 掲示板には報酬付きの情報募集が立つ。


 《忘却されし根脈》の目撃情報、五万ゴールド。


 《淀みの魔蛇》関連ログ、十万ゴールド。


 名もなき二名に関する信頼できるスクリーンショット、応相談。


 応相談。


 一番怖い単語だ。


 値段が決まっていない情報は、高くも安くもなる。つまり、買い手が本気だということだ。


 その流れを、白騎士団の作戦室でも見ている者がいた。


 ミレイは、机の端に座ったまま、黄金の通知ログを読み返していた。


 《忘却されし根脈にて、淀みの魔蛇が沈降しました》


 《名もなき二名の開拓者により、閉ざされし根の道が再び脈動を開始します》


 名もなき二名。


 根脈。


 魔蛇。


 彼女に直接の心当たりはない。


 ないはずだ。


 けれど、胸の奥に小さな棘のような違和感があった。


 ジンなら。


 そんな言葉が、一瞬だけ浮かぶ。


 誰も見向きもしない場所へ行き、誰も期待値を計算しない選択をし、結果的に世界の土台を動かしてしまう。あの人なら、そういうことをしてもおかしくない。


 でも、ミレイはすぐに首を振った。


 決めつけてはいけない。


 彼はもう白騎士団にはいない。


 そして、自分は彼に「戻ってきてほしい」と言うのではなく、「自分たちで組みます」と伝えた。


 なら、今すべきことは、誰かの影を追うことではない。


「ミレイさん」


 若手ヒーラーが声をかけてきた。


「この通知、うちも調べますか?」


 作戦卓の向こうでは、レオンが腕を組んでいる。


「名もなき二名か。どこの誰か知らねえが、派手にやるな」


 神崎マネージャーはすでに情報端末を操作していた。


「上位ギルドは全て動いています。こちらも最低限の情報収集は行います。ただ、探求期対応も並行です」


 ミレイは深く息を吸った。


「調べるのは、いいと思います。でも、追いかけすぎない方がいいです」


 レオンが眉を上げる。


「なんでだ?」


「たぶん、今これを追いかける人たちは多いです。だから、同じ方向へ走ると、また誰かの情報に振り回されます」


 それは、以前の白騎士団なら言えなかった言葉だ。


 マニュアルを待つ。


 正解を買う。


 誰かのルートをなぞる。


 それでは、探求期を越えられない。


 ミレイは、ジンが残したマニュアルを一度閉じた。


「まずは、私たちの足元を確認しましょう」


 若手たちが、少し驚いた顔をする。


 レオンは、何か言いかけてから、やめた。


「……まあ、足元が崩れたら火力も出ねえしな」


 それは、少しだけ変化した言葉だった。


 ミレイは静かに頷いた。


 黄金の通知は気になる。


 でも今は、白騎士団の流れを戻す。


 それが彼女の役割だった。


ーーーーーー


 南方の都市、そのさらに奥。


 封魔の峡谷を管理するプロギルド《八咫烏》の作戦室でも、同じ通知が表示されていた。


 部屋の中央に広がる立体地図。その上に、黄金色の文字列が重なる。


 クロウは椅子に深く腰掛けたまま、通知を見ていた。


 黒い羽飾りのついた外套。


 細い目。


 いつも何かを一手先ではなく三手先の盤面として見ている男。


 八咫烏のトップ軍師。


 ジンの最大のライバル。


 今はまだ、アイズドという名を知らない。


 それでも、彼は薄く笑った。


「名もなき二名、ね」


 隣に立つ高坂マネージャーが問う。


「心当たりが?」


「心当たりと言えるほどじゃない。ただ、こういう歪な初回フラグを踏む人間は、効率の外を歩いている」


「効率の外、ですか」


「企業ギルドが本気で狙うなら、二名では行かない。配信者なら、匿名のままにしない。情報屋なら、クリア直後に売り板を立てる。どれも違う」


 クロウは通知の文面を指でなぞる。


「忘却されし根脈。淀みの魔蛇。閉ざされし根の道。世界樹の封。ワードが古い。通常攻略ルートではなく、秘匿NPC連鎖だろうね」


「探しますか」


「探す」


 クロウは即答した。


 だが、すぐに続ける。


「ただし、騒がしく探す必要はない。騒ぐ連中には騒がせておけばいい。彼らは足跡を踏み荒らしてくれる。僕らは、その踏み荒らされた跡の外側を見る」


「候補は」


「二人組。片方は戦術理解が高い。もう片方は、未知のギミックへ干渉できる特殊性を持つ可能性がある。浄化系か、剣士系か、あるいはNPC由来の一時スキル」


「ずいぶん絞りますね」


「まだ絞れてないよ」


 クロウは笑った。


「でも、もしこれを踏んだのが、僕の知る誰かなら」


「なら?」


「たぶん、本人は今ごろ全力で目立たない格好をしている」


 高坂マネージャーは少し不思議そうな顔をした。


「なぜです?」


「その方が、面白いからさ」


 クロウは地図を閉じる。


「グレイム領周辺の情報も拾っておいて。最近、素材相場が歪んでいる。世界樹関連の通知と直接繋がるとは思わないけど、歪みがある場所には、効率の外を歩く人間が寄る」


「了解しました」


 八咫烏の情報網が、静かに動き始めた。


ーーーーーー


 俺たちは、ミルヴァの宿場で簡単な補給を済ませた。


 買ったのは、回復薬、携帯食、安い修理キット、そして地味な予備外套。高級品は買わない。目立つからだ。相場より高いものを即決で買うのも避ける。金を持っていると思われるからだ。


 金は情報と同じで、匂いがする。


 金の匂いをさせると、面倒なやつが寄ってくる。


 ちなみにルナは露店で白い焼き菓子に目を止めたが、俺が無言で見たらそっと戻した。偉い。あとで買ってやってもいい。いや、餌付けではない。士気管理だ。


「アイズドさん、掲示板って怖いですね」


 街道へ出てから、ルナがぽつりと言った。


「今さらか」


「だって、何も知らないのに、あんなに話が増えるんですね」


「情報がない時ほど、人は話を増やす」


「なんでですか」


「空白は不安だからだ。人は分からない場所に、知っているものを詰めたがる。推測、噂、願望、陰謀論。だいたい全部、空白を埋めるための詰め物だ」


「アイズドさんも、そういうことしますか?」


「する」


 俺は即答した。


「攻略も同じだ。見えない情報を、仮説で埋める。違いは、その仮説を検証するか、信じたいから信じるかだ」


「なるほど」


「だから、噂は怖い。間違っていても広がる。正しくなくても、人を動かす」


 ルナはフードの端を握った。


「じゃあ、私たちの噂も、勝手に広がるんですね」


「ああ。しかも、俺たちが黙っていても広がる」


「嫌ですね」


「嫌だな」


 本当に嫌だ。


 俺は静かに遊びたかった。


 誰にも見られず、誰にも値段をつけられず、誰かの勝利のための盤面にも組み込まれず、ただクソゲーを楽しみたかった。


 それなのに、世界が勝手に号砲を鳴らした。


 名もなき二名。


 名前を伏せても、世界は俺たちを数えた。


 数えられたものは、探される。


 なら、こちらの仕事は一つだ。


 見つかる前に、見つかっても問題ない姿を用意する。


「アイズドさん」


「何だ」


「私、ポンチョでもちゃんと戦えるようになります」


「そうしろ」


「白銀の剣気も、出しすぎないようにします」


「出さないのが一番だが、必要なら剣先だけに絞れ。光を広げるな」


「はい」


「俺も重装騎士で通す」


「本当は、もっといろいろできるのに?」


「ああ」


「不便ですね」


「不便だが、必要だ」


 ルナは少し考えてから、言った。


「アイズドさん、今度は自分で自分に制限をかけてるんですね」


 妙なところを突いてくる。


「そうだな」


「前は、役割で縛られてたんですか」


 足が止まりかけた。


 ルナはすぐに「あ」と小さく声を漏らした。


「すみません。今の、踏み込みすぎました」


「いや」


 俺は街道の先を見る。


 土煙が遠くに見える。馬車か、プレイヤーの一団か。まだ距離はある。


「間違ってはいない」


 それだけ答えた。


 ルナはそれ以上聞かなかった。


 ありがたい。


 そして、少し怖い。


 彼女は少しずつ、俺の言葉の隙間を読むようになってきている。白騎士団の名前は出していない。ジンのことも話していない。だが、完全に隠し通せるとは思わない方がいいかもしれない。


 いずれ、彼女は勝手に辿り着く。


 それは後の話だ。


 今は、グレイム領へ向かう。


 地図を開く。


 ミルヴァ宿場から南東へ伸びる街道。その先に、生産職のメッカと呼ばれた都市がある。鍛冶、錬金、裁縫、彫金、木工。装備を作るなら、まず名前が挙がる場所。


 だが、掲示板の相場欄には、嫌な数字が並んでいた。


 鉄鉱石、高騰。


 魔獣皮、高騰。


 工房使用料、上昇。


 領主税、改定。


 生産職の不満スレ、乱立。


 いい感じに腐っている。


 装備更新へ向かうだけのはずが、街そのものに問題がありそうだ。やはりこのゲームは、必要なものの前に面倒事を置く。宝箱の前にトラップを置くのはゲームとして分かるが、装備屋の前に社会問題を置くのはどうなんだ。


「グレイム領って、どんなところなんですか」


 ルナが聞いた。


「生産職の街だ。素材が集まり、工房が集まり、職人が集まる。昔は装備更新の定番ルートだった」


「昔は?」


「最近は、相場が歪んでいる」


「歪んでいる」


「素材が高すぎる。工房使用料も上がってる。領主税という単語も見た」


「税金ですか」


「ゲーム内の領地権限を使った徴収だな。普通は都市運営のための機能だが、悪用すれば生産職から搾れる」


 ルナの声が少し硬くなった。


「悪い人がいるんですか」


「まだ決めつけるな。数字だけで人を悪人にすると、だいたい話が雑になる」


「でも、困ってる人はいるんですよね」


「いるだろうな」


「じゃあ、放っておけないですね」


「装備更新が目的だ」


「はい」


「目立たないことも目的だ」


「はい」


「面倒事に首を突っ込まないことも目的だ」


「……はい」


「その沈黙は何だ」


「聞いてます」


「納得はしてないな」


 ルナはフードの奥で少しだけ笑った。


「でも、アイズドさんも放っておけない気がします」


「俺は効率的に装備を更新したいだけだ」


「そういうことにしておきます」


 いつの間にか、言い訳の扱いが雑になっている。


 成長しなくていいところまで成長している。


 街道の先に、グレイム領へ向かう標識が見えてきた。


 鉄槌と歯車の紋章。


 生産職の街。


 装備更新の目的地。


 そして、たぶん次の面倒事の入口。


 俺は盾を担ぎ直した。


 重装騎士として。


 地味に。


 目立たず。


 普通に。


 世界を動かした名もなき二人組とは、誰にも思われないように。


「行くぞ」


「はい」


 ポンチョ姿のルナが、隣で頷く。


 白銀髪は見えない。


 剣気も見せない。


 俺の機装も、今はただの盾に見える。


 完璧ではない。


 だが、今できる最善だ。


 街道の向こうで、グレイム領の煙突群がうっすらと見え始めていた。


 その煙は、まっすぐ空へ上っていない。


 どこか濁った風に押されるように、低く、横へ流れている。


 嫌な予感がした。


 そして、嫌な予感ほどよく当たる。


 本当に、最高のクソゲーである。

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