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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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盤面の騙し合い


「俺のジョブは【古代変形機装】だ。この右腕の武装を変形させることで、全30種のクラス特性をラグなしで瞬時に切り替えられる。タンク、アタッカー、ヒーラー、どれでも対応可能だ。……スキルのクールダウンも完全に独立している」


 八咫烏のプライベート闘技場、その待機エリア。

 俺が右腕の機装をカチャリと鳴らしてそう告げると、新たに俺たちと同じ『Cチーム』に振り分けられた三人のプレイヤーは、一様に目を見開き、そして息を呑んだ。


「……マジかよ。それ、システム的にどうなってんだ?」

 巨大な盾を背負ったタンクの男が、呆れたようにこめかみを押さえる。

「全クラスのクールダウンが独立……。それを実戦で回すなんて、脳の処理領域が完全にイカれてるでしょ」

 天球儀を構えるヒーラーの女性が、信じられないというようにため息をついた。

「さすがはかつての白騎士団の『頭脳』にして、現在世界中を騒がせている匿名の開拓者ってわけだ。……俺たちも、プロの端くれとして気合いを入れなきゃな」

 長弓を背負ったアタッカーの男が、不敵に笑って手を差し出してきた。


 彼らは三人とも、俺が白騎士団でプロをやっていた頃から顔見知りだった、八咫烏の主力メンバーだ。口の堅さはプロとして信用できるし、何より彼らは『勝利のための最適化』を誰よりも理解している。だからこそ、俺は自身のジョブの特性と『変形のクセ』を一切の隠し立てなく公開した。


「俺が遊撃として穴を埋める。ペイロードの進行と前線維持はタンクのあんたに任せる。ヒーラーは俺のバフとヒールの隙間をカバーしてくれ。アタッカーは俺のデバフに合わせてフォーカス(集中攻撃)だ」

 俺の矢継ぎ早の作戦提示に、三人はプロの顔つきになり、即座に「了解だ」と頷いた。


 そんな高度な戦術会議が交わされる中、横に立っていたルナが、少しだけ所在なさげに身をモジモジとさせていた。


「あのっ……よろしくお願いします! 私、ルナって言います!」

 ルナがぺこりと頭を下げると、三人は「よろしくね」「可愛いお嬢ちゃんが味方で助かるよ」と、非常に社交的で柔らかな笑顔を返してくれた。

 だが、俺は彼らの背中に隠れるようにして近づき、チャットのパーティチャンネルを使わず、肉声でこっそりと彼らに耳打ちした。


「……おい。あいつの生物学的な反射神経と火力は本物だが、対人戦(PvP)のセオリーや騙し合いの経験値は完全に『ゼロ』だ。悪いが、あいつの連携には期待しないでくれ」


 俺が声を潜めて伝えると、三人のプロゲーマーたちは一瞬だけ真顔になり、「なるほど、把握した」「カバー優先だな」と小さく頷いた。

 だが、そのコソコソ話は、ルナの鋭い聴覚にはバッチリ届いていたらしい。


「ちょっと、アイズドさん! 今、私のこと期待するなって言いましたよね!?」

 ルナがぷくーっと頬を膨らませて抗議してくる。

「事実だろ。お前はモンスター相手なら最強だが、プレイヤー相手のドロドロした騙し合いじゃ、ただのカモだからな」

「そんなことありません! 私だって、ちゃんと皆さんの足を引っ張らないように戦えます!」

 負けん気を剥き出しにして睨みつけてくるルナ。

 俺は内心でニヤリと笑った。あえて挑発して闘争心に火をつける。彼女のその真っ直ぐな向上心こそが、PvPという泥沼で最も強力な成長のバネになるからだ。


「言うじゃねぇか。なら、実戦で証明してみせろ。……行くぞ、第一試合だ」


 闘技場のシステムアナウンスが響き、俺たち五人は光に包まれてフィールドへと転送された。

 対戦相手は、クロウが率いるAチームではない。だが、彼らもまた何千戦という対人戦の経験を積み、国内大会に向けて調整を重ねている八咫烏の猛者たち、Bチームだ。


『MATCH START!!』


 開始の合図と共に、ランダム生成された市街地マップの中央に鎮座する『戦術ペイロード』に向けて、両チームが一斉に駆け出した。

「タンク、ペイロードに密着! ヒーラーは射線を通しつつ高台の裏へ!」

 俺の指示に従い、味方のタンクが巨大な盾を構えてペイロードの横に陣取る。直後、敵チームのアタッカーから雨あられと魔法や矢が降り注いできた。


 激しい牽制と削り合い。

 ペイロードのコンテスト・リング内に両チームのプレイヤーが入り乱れ、ゲージの進行が完全に拮抗する『コンテスト状態』に突入する。

 敵の攻撃は苛烈だが、俺の《戦陣軍師》のバフと味方ヒーラーの回復が完璧に噛み合い、戦線は膠着していた。


(……ここまでは予定通りだ。だが、相手もプロだ。必ずどこかで『起点フォーカス』を作りに来る)

 俺が戦況を俯瞰しながら次の手を読もうとした、その時だった。


「隙ありッ!!」


 ルナの声が響いた。

 視線を向けると、ペイロードの左側面。敵チームのヒーラーが、回復魔法の詠唱のために一瞬だけ足を止め、味方のタンクの庇う範囲からわずかに孤立して前に出てしまっていた。

 巨大なボス戦において、敵の最大の『隙』を見逃さずに飛び込むのは、アタッカーとしての正しい本能だ。

 ルナの白銀の剣が閃き、彼女は神速のステップでそのヒーラーの死角へと一気に踏み込んだ。


「――もらった!」

 《穿空の絶華》の鋭い刺突が、ヒーラーの喉元へと迫る。


 だが、その瞬間。俺の目には、敵のヒーラーの顔に浮かんだ『ニヤリとした歪な笑み』がはっきりと見えた。


(――バカッ! それはデコイ(囮)だ!!)

「ルナ、戻れッ!!」


 俺の制止の叫びは、一瞬遅かった。

 隙だらけに見えた敵のヒーラーは、直撃のコンマ一秒前、即時発動の《無敵バリア》を展開した。ルナの白銀の刃がバリアに弾かれ、甲高い音と共に彼女の動きが完全に硬直する。

 そして、孤立したヒーラーを『餌』にして、その背後の建物の陰に完全に息を潜めていた敵のアサシンと魔導士が、ルナという一匹の獲物に向かって牙を剥いたのだ。


「かかったな、お姫様!」

「《シャドウ・バインド》! からの《フレア・バースト》ッ!」


 足元から伸びた影の鎖(ハードCC)がルナの身体を縛り上げ、一切の回避行動を封じ込める。

 そして、敵チームの5人全員のターゲット(ヘイト)が、一瞬にしてルナ一人に集中した。PvPにおける最も恐ろしい戦術――『フォーカス・ファイア(集中砲火)』である。


「えっ……!?」

 ルナが驚愕に目を見開く暇もなかった。

 回復を差し込む猶予すら与えない、計算し尽くされた極限のバーストダメージ。

 ドドドドドォォォォンッ!!!


 凄まじい爆発と共に、ルナのHPバーが「0」へと吹き飛び、彼女の身体は光の粒子となって砕け散った。


『Player [Luna] Down! Respawn in 10 seconds.』

 無機質なシステムアナウンスが響く。


「……あーあ。見事に釣られやがった」

 俺は魔導書を持ったまま、呆れて天を仰いだ。


 PvPにおいて、あからさまな隙は「誘い」だ。特にプロレベルの戦闘では、ヒーラーが不用意に前に出るなどあり得ない。それは敵の突進を誘い出し、CC(状態異常)を重ねて一瞬で溶かすための、古典的だが極めて凶悪な『釣り(ベイト)戦術』だった。

 対人戦のセオリーを全く知らないルナは、その甘い蜜にまんまと飛びつき、見事に狩られてしまったのだ。


「ぷっ……くくっ、ははははっ!」

 俺は思わず、肩を揺らして吹き出してしまった。

「ほらな、言った通りだろ? プレイヤー相手のドロドロした騙し合いじゃ、あいつはただの素直なカモなんだよ」

 俺が笑い飛ばすと、味方のアタッカーとタンクも「あちゃー」「見事に引っかかったな」と、苦笑いを浮かべながらジリジリとラインを下げる。ルナが落ちて4対5の数的不利になった以上、前線を維持するのは不可能だ。ペイロードの進行が徐々に敵側へと押し戻されていく。


 一方、リスポーン地点(待機エリア)で復活のカウントダウンを待つルナの視界は、真っ白になっていた。


(……え? 私、死んだ……?)

 自分のHPがゼロになったという事実が、ルナの脳内でうまく処理できない。

 巨大なボスの理不尽な攻撃もすべて躱してきた。自分の反射神経なら、どんな攻撃でも見切れるはずだった。なのに、今のは何だ? なぜ、相手は私が飛び込んでくることを『知っていた』ように動いたのか。


(私のせいで……前線が押し込まれてる。私が、みんなの足を引っ張ってる……っ!)

 申し訳なさと、自分の愚かさに対する激しい自己嫌悪が、ルナの胸を締め付ける。


『Respawn!』

 10秒のカウントがゼロになり、リスポーン地点にルナの身体が実体化した。

 彼女は顔を真っ赤に染め、パニックに近い焦燥感を抱いたまま、前線へと向かって全速力で走り出した。


「取り返さなきゃ……! さっきのミス、早く取り返さないと!」

 焦りが、彼女の視野を極端に狭くしていく。

 冷静な判断力を失い、ただ目の前の敵を倒すことだけに執着するアタッカーは、対人戦において最も御しやすく、そして最も『穴』になりやすい存在だ。


 ルナのその空回りする様子を、前線の盾越しに眺めながら、俺はわざと冷徹な視線を向けていた。

 この壁は、俺が指示を出して回避させる性質のものではない。彼女自身がPvPの理不尽さを肌で感じ、己の殻を破らなければ、いつかやってくる外のハイエナどもを相手に生き残ることはできないからだ。


 俺の静かなる眼差しの下で、対人戦という名の未知の沼に足を踏み入れた白銀の剣士の、痛ましくも空回りする苦戦が、ここからさらに加速しようとしていた。

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