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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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PvPの流儀


 クロウに連れられ、プライベート狩場『封魔の峡谷』の奥に隠されていた転移ゲートを潜り抜けた俺とルナ。

 視界が晴れた先に広がっていたのは、巨大なドーム状の屋内闘技場だった。


「ここは……すごい設備ですね、アイズドさん」


 ルナが周囲を見渡し、感嘆の声を漏らした。

 闘技場のフィールドには、実際の地形を模した市街地や森林のシミュレーションマップがホログラムで展開されており、周囲の観客席やモニタールームには、様々なデータを表示する巨大なスクリーンが幾つも設置されている。


「八咫烏のPvP(対人戦)部門が使用している、ギルド専用の修練施設だ」


 俺たちを案内するクロウが、黒いローブを翻しながら誇らしげに言った。


「国内大会の開幕まであと僅かだからな。今、うちの主力メンバーたちはここで合宿を組み、朝から晩まで模擬戦と戦術の調整を繰り返している」


 フィールドを見下ろせば、確かに十数人のプレイヤーたちが、5対5のチームに分かれて激しい模擬戦を繰り広げている最中だった。

 魔法の閃光と剣戟が入り乱れ、統制された陣形がぶつかり合う様は、野良プレイヤーの乱戦とは明らかに次元が違った。一人一人の動きに無駄がなく、全員が全体の戦局マクロを意識して動いている。


「おい、ルナ。しっかり見ておけ」


 俺は闘技場のフィールドを指差し、隣で目を輝かせているルナに声をかけた。


「あれが、EHOにおける公式PvPモードの一つ、『タクティカル・コンボイ(戦術魔導兵器護送戦)』だ」


「たくてぃかる……こんぼい?」


 ルナが首を傾げる。


「ルールは単純だ。5対5のチームに分かれ、マップの中央に配置された『戦術ペイロード』と呼ばれる巨大な中立のオブジェクトを奪い合う。ペイロードの周囲に設定された円形のエリア(コンテスト・リング)に自チームのメンバーだけが入り込めば、ペイロードは敵陣へ向かって移動を開始する。制限時間内に、ペイロードを敵陣の最奥にあるゴールまで押し込んだチームの勝ちだ」


「なるほど。綱引きみたいなものですね!」

「ああ。だが、巨大なボスを倒すPvE(対モンスター戦)とは、根本的にゲーム性が違う」


 俺は腕を組み、軍師としての冷徹な視点でフィールドの攻防を解説した。


「いいか、ルナ。モンスターが相手なら、タンクが《挑発》のスキルを使えば、システム的にヘイト(敵視)が固定されてタンクだけを攻撃してくる。だが、相手は中身に人間が入った『プレイヤー』だ。システム上のヘイトを押し付けられたところで、プレイヤーの意志までは縛れない」


「あ……そうですよね。私だって、挑発されたからって一番硬いタンクの人をわざわざ攻撃したりしません」

「そうだ。だから対人戦において、敵のアタッカーはタンクを無視し、真っ先に後衛のヒーラーや防御の薄いDPS(火力役)を狙ってくる。タンクはヘイトで敵を釣るんじゃなく、物理的な立ち位置で敵の射線を切り、味方を守るための『スペース(安全地帯)』を創り出さなきゃならない」


 俺の言葉に、ルナは真剣な表情で頷いた。

「巨大なボスを倒すレイドバトルが、絶対的なタイムラインとギミックに対する『解の暗記と最適化』だとするなら。5v5のPvPは、刻一刻と変わる状況下での人間同士の『騙し合い』と、5人全員の連携による極限の『リソース管理』だ。……お前が今までモンスター相手に無双できた生物学的な反射神経だけじゃ、絶対に通用しない世界だぞ」

「はいっ。肝に銘じます!」

 ルナは腰の白銀の剣をポンと叩き、サファイアブルーの瞳に強い闘志を宿した。


 その時。

 俺たちの背後から、慌ただしい足音が近づいてきた。


「クロウ! 戻ったか! 彼らが君の言っていた……おおっ! ジン様!!」


 現れたのは、仕立ての良いスーツをビシッと着込んだ中年の男性プレイヤーだった。

 銀縁の眼鏡をかけ、身だしなみも整えられており、いかにも『ギルドのマネージャー』あるいは『企業の重役』といった堅い雰囲気を漂わせている。

 だが、俺の顔――初期装備の布の服を着た無精髭のおっさんの顔を見た瞬間、その堅物そうなマネージャーの表情が、パァァァッ! と花が咲いたように輝いたのだ。


「まさか、本物のジン様を我が八咫烏の修練場にお迎えできるとは……! お初にお目にかかります、私はこのPvP部門の責任者兼マネージャーを務めております!」


 マネージャーは俺の前に突進してくると、腰が綺麗に九十度に折れ曲がるほどの、凄まじく深いお辞儀を繰り出した。


「ええっ!?」

 ルナが目を丸くし、俺も思わず後ずさった。

 クロウは横で、「やれやれ」と呆れたように肩をすくめている。


「突然の無礼をお許しください! 私、ジン様の『見えざる土台』の戦術の大ファンでして! 白騎士団の配信は、あなたのアングルを中心に全てアーカイブで穴が開くほど拝見しておりました!」

「お、おう……?」

「特にあの、機工都市の第4フェーズにおける遅延バリアの展開タイミングの美しさたるや……! あのコンマ5秒のディレイでスナップショットの判定をズラす神業を見た時、私は震えが止まりませんでしたよ! うちのクロウが『どうしても匿名の開拓者(ジン様)を特例で練習に参加させたい』と申し出てきた時も、私の一存で即座に快諾させていただきました!」


 マネージャーは真っ赤な顔で顔を上げ、拝むようなポーズで俺に熱弁を振るってきた。


(……おいおい。デジャブかよ)

 俺は、この異様なまでの熱量と、マニアックすぎる戦術への食いつき方に、猛烈な既視感を覚えていた。

 つい先日、現実世界のカフェで出会った、ルナの友人である『美咲』と全く同じ反応ではないか。


「あ、あの……もしかして」


 俺の横で、ルナが不思議そうに小首を傾げ、マネージャーの顔をじっと見つめた。

「マネージャーさんの苗字って……『高坂こうさか』さん、ですか?」


 ルナの問いかけに、熱弁を振るっていたマネージャーがピタッと動きを止め、きょとんとした。

「おや? なぜ私の現実の苗字を……。ああ! もしや、あなたが娘から聞いていた『ルナさん』ですか!」


「やっぱり! 美咲ちゃんのお父さんなんですね!」

「ええ! 娘が大学でいつもお世話になっております! 娘から『ジン様と一緒にプレイしているルナという子がいる』と聞いてはおりましたが、まさか本当にお会いできるとは!」


 ルナとマネージャー(美咲の父親)が、互いに「世間って狭いですね~」と和やかに笑い合っている。


「…………」


 俺は、完全に思考を停止し、虚空を見つめた。

 ルナの大学の友人である女子大生・美咲。そして、八咫烏のPvP部門の責任者であるその父親。


(……親子揃って俺の戦術オタク(ファン)かよ!! どんな確率だよ!!)


 俺の心の中で、凄まじい勢いのツッコミが炸裂した。

 美咲が俺の異常なまでのファンだったのも、この父親からの英才教育(洗脳)の賜物だったに違いない。類は友を呼ぶというか、類は親子で遺伝するというか。

 俺は、白騎士団では「地味だ」とバカにされ続けた俺の戦術が、まさか敵対するライバルギルドのマネージャーとその娘にここまで熱狂的に愛されているという事実に、強烈な羞恥心と、言葉にできない照れくささで顔が熱くなるのを感じた。


「コホン。……まあ、何はともあれ、快く狩場の提供と参加を許可してくれたこと、感謝するぜ」


 俺はわざとらしく咳払いをし、努めてクールな軍師の表情を取り繕った。


「いえいえ! ジン様に直々に稽古をつけていただけるなど、うちの選手たちにとってこれ以上ない刺激になりますから!」


「さて、挨拶はそのくらいにしておけ。そろそろ時間だ」

 クロウがパンッと手を叩き、フィールドの方へと視線を向けた。

 ちょうど一試合が終わり、フィールドで戦っていた十人のプレイヤーたちが、汗を拭いながらこちらへと集まってくる。彼らの頭上には、全員『Lv.80』のカンストを示すアイコンが輝き、装備も各ジョブにおけるPvP特化の最高級品で統一されていた。


 俺たちに向けられる視線は、鋭い。

 外部から突然やってきた、得体の知れない二人組。彼らの瞳には、露骨な警戒と「お手並み拝見」という闘争心が宿っていた。


「全員集まったな。これから、この二人を交えて『3チームによる総当たり戦』の模擬戦を行う」

 クロウが、集まったメンバーたちに向けて告げた。

「俺がAチームを率いる。Bチームはいつも通りのメンバーだ。……そして、アイズドとおルナは、Cチームに入ってもらう。味方には、うちの優秀なタンクとアタッカー、ヒーラーを用意した」


 クロウの合図で、三人のプレイヤーが俺たちの前に進み出た。

 一人は重厚な盾を持つタンク、一人は長弓を背負ったアタッカー、そして一人は天球儀を構えるヒーラー。いずれも、八咫烏の主力として恥じない、鋭い面構えをした猛者たちだ。


「よろしく頼むぜ、アイズド。噂の『匿名の開拓者』の実力、楽しみにさせてもらうからな」

 クロウが、黒いマスクの奥で不敵な――最高に性格の悪い軍師の笑みを浮かべた。


「……面白そうじゃねえか。望み通り、あんたらの常識をぶち壊してやるよ」


 

 巨大なボスを討伐するレイドとは違う、人間同士の純粋な殺し合いと騙し合い。

 国内大会を控えたトッププロの修練場を舞台に、狂気の軍師と白銀の剣士の新たなる『遊戯』が、今まさに幕を開けようとしていた。

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