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『地味だと追放された元プロ、限界突破の産廃ジョブで全ロール最強へ』  作者: 料理長


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VIPの狩場


「じゃあな、クロウ。また会おうぜ」


 南の丘に吹き抜ける風の中、俺は外套のフードを深く被り直し、背を向けて歩き出そうとした。

 だが、そこで背後から声が掛かった。


「おい、アイズド。一つだけ聞かせてくれ」


 振り返ると、八咫烏のトップ軍師であるクロウが、俺の右腕――鈍く光る【古代変形機装】を、探るような、純粋な知的好奇心に満ちた視線で見つめていた。


「さっきの戦闘で気になっていたんだが……お前のその右腕の兵装、一体なんだ? 盾から剣へ、そして杖へと異常な速度で変形していたが、あのような武装、現在のEHOのデータベースには存在しないはずだ」

「こいつか?」


 俺は右腕を軽く掲げ、カチャリと変形機構を鳴らしてみせた。


「辺境の遺跡で拾った隠しジョブでな。『古代変形機装』って名前だ。簡単に言えば、タンクからアタッカー、ヒーラーまで、全ジョブ(ロール)を自由に切り替えて使える職業ってとこだ」

「全ジョブ、だと……?」


 クロウは一瞬だけ驚愕に目を見開いたが、次の瞬間にはアゴに手を当て、軍師としての冷徹な思考回路を高速で回転させ始めた。


「……いや、待て。理屈は凄まじいが、各クラスのクールダウンやヘイトの計算はどうなっている? まさか、三十種近いすべてのロールのシステムリソースが、完全に独立して管理されているのか?」

「ご名答だ」

「……狂っているな」


 クロウは、呆れと戦慄が入り混じったような、重い息を吐き出した。


「そんなもの、人間の脳の処理能力でまともに扱える代物じゃない。コンマ一秒のスキル回しや、フレーム単位の変形操作を一つでもミスれば、陣形が一瞬にして破綻する。システムからすれば、誰にも扱えないただの『産廃』だ。……だが、それを完璧に制御してのけるお前だからこそ、最強の武器になるというわけか」


 俺は思わず、目を見張った。

 そして、内心で深く舌を巻いた。


(……流石だな、クロウ)


 大抵のプレイヤーは、このジョブの「全ロールが使える」という表面的な強さだけを見て、チートだと騒ぎ立てる。だが、この八咫烏のトップ軍師は、たった数合打ち合っただけで、その裏にある殺人的な情報処理負荷と、ジョブの『本質的な扱いづらさ』を即座に見抜いたのだ。


 上辺の派手さではなく、システムを根底から理解している者だけが到達できる視座。


「あんたの分析力は相変わらず恐ろしいぜ。最高の褒め言葉として受け取っておくよ」

「フッ、お互い様だ。お前という異常なプレイヤーが相手なら、俺たちもこれくらいはやらんとな」


 クロウは黒いマスクの奥で不敵に笑うと、おもむろに自らのシステムウィンドウを展開した。


「さあ、悪魔の取引の対価を支払うとしよう。……外で血走っているハイエナどもに、極上の『餌』を投下してやる」


 クロウの指先が、空中のホログラムキーボードを凄まじい速度で叩き始めた。

 彼がアクセスしたのは、数十万人のフォロワーを抱えるプロギルド『八咫烏』の公式SNSアカウントだ。そこに、一つの声明文が投稿される。



『我々【八咫烏】は、極光の氷原の最深部にて、レベル上限解放の鍵となる情報を独占的に獲得した。これより当ギルドの精鋭による先行検証に入る。他ギルドの干渉は一切容認しない』



 その投稿が送信された瞬間。

 俺が傍で開いていた外部の匿名掲示板のタイムラインが、爆発したかのように尋常ではない速度でスクロールし始めた。


『おい見ろ!! 八咫烏の公式アカウントが声明を出したぞ!』

『八咫烏が上限解放の鍵を独占しただと!?』

『ってことは、即死結界を抜けたあの「匿名の開拓者」の正体は、八咫烏の極秘パーティだったのか!』

『ふざけるな! 情報を独占する気か!』

『特定班、急げ!! 氷原にいる連中を引き上げさせろ! 八咫烏のギルドハウスと主要メンバーのログアウト地点を完全に包囲しろ!!』



 一瞬にして、ネットの海の熱狂と殺意が書き換えられた。

 これまで「匿名の開拓者」――つまり俺たちに向けられていた世界中のプレイヤーたちのヘイトと注目が、クロウの放った大々的なフェイクニュースによって、見事に『八咫烏』という巨大な的へと誘導されたのだ。



「どうだ? これで外の連中の目は、すべて俺たちに釘付けだ」


 クロウがウィンドウを閉じ、自信に満ちた眼差しを向けてきた。


「完璧なヘイト誘導アグロコントロールだ。さすがに惚れ惚れするぜ」

「さあ、俺たちが時間を稼いでいる間に、お前たちは俺が手配した狩場へ向かえ。座標はすでに送ってある」



 クロウからの強力なバックアップを取り付けた俺は、彼に短く礼を言い、『白狐の羅針盤』を取り出した。

 まずはフェネキア族の里に戻り、ルナを迎えに行かなくてはならない。



 ***



「またせたな。ルナ」

「アイズドさん、おかえりなさい! 交渉は上手くいきましたか?」



 地下都市の広場で待機していたルナは、俺の姿を見るなりパァッと顔を輝かせて駆け寄ってきた。



「ああ。最高の『後ろ盾』と、最高の『狩場』をもぎ取ってきたぜ。モードレッドとガウェインには、悪いがもう少しここで留守番を頼む」

「うむ、吉報を待っているぞ」

「とっととレベル90になってこい。私を待たせるなよ!」


 二人の騎士に見送られながら、俺とルナはクロウから指定された座標へと転移した。

 光の奔流が収まり、視界が晴れた先に広がっていたのは、緑豊かな渓谷と、古代の遺跡が入り交じる未踏のフィールドだった。



「ここは……?」

「南の都市のさらに奥、『封魔の峡谷』だ。八咫烏の連中が、自分たちのトップパーティのレベリング専用に確保している、一般プレイヤー立ち入り禁止の『プライベート狩場』だよ」



 俺は周囲を見渡して、思わず感嘆の息を漏らした。

 外部からは完全に隔離された閉鎖空間でありながら、エリア内にはレベル80~85の凶悪なモンスターがうようよとひしめいている。しかも、リポップ(再出現)の間隔や敵の密集度が、レベリングにおいてこれ以上ないほど最適化されている極上の環境だった。



「す、すごいですアイズドさん! モンスターが次から次へと……しかも、他のプレイヤーが誰もいません!」


 ルナが白銀の片手剣を引き抜きながら、興奮した様子で声を上げた。


「ああ。クロウが気を利かせてくれてるんだろうな」


 秘密の狩場と言うぐらいだ。本来は何人か見張りなどを担当しているメンバーがいるはずだが、俺とルナのことを思って下げさせてくれたんだろう。

 俺は右腕の機装をカチャリと鳴らし、《戦陣軍師》の魔導書を展開した。

 俺たちを追い詰めていた巨大な包囲網は、今や八咫烏という強固な防波堤によって完全に遮断されている。

 誰にも邪魔されない、VIP待遇の最高効率エリア。

 プロの軍師同士が手を結んだことで生まれた、この絶対的な安全圏ならば、俺のバフとルナの火力を限界まで回し続けることができる。


「この環境なら、爆発的なペースで経験値が稼げる。……行くぞ、ルナ! 一気にレベル90まで駆け上がるぜ!」

「はいっ! ありったけの力で、全部斬り伏せます!」


 ルナの足元から白銀の闘気が立ち昇り、俺の放ったエメラルドグリーンの支援魔法が彼女の背中を力強く押す。

 狂騒に包まれる外界から完全に切り離された秘密の狩場で、俺たちは限界突破への道を最速で駆け上がるべく、一切の容赦のない圧倒的なレベリングを開始したのだった。


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