表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のカースナイト  作者: 依空 まつり
五章 西の最果て
87/99

【4】知的な言い換え


 聖騎士団は第一から第五までの騎士団に分かれており、それぞれの団ごとに特色がある。

 英雄エルバート・ランドルフ率いる第一騎士団は、実力と品性を兼ね備えたエリート集団。

 マリオット商会関係者であるルドルフ・マリオットが団長を務める第二騎士団は、堅実で合理的な者が多い。

 聖騎士団一熱い男、パーシバル・バーンズの第三騎士団は、家柄問わず、仲間同士の結束が固い。

 第四騎士団は、団長のステラ・ガーネットを含めて良家の人間が多く、首都(グランリウム) 周辺の任務が多い。

 そして第五騎士団は、加護持ち(ブレスド)というだけで各地から引き抜かれた者達の集まりである。

 団長のディエゴ・ファルケが元傭兵であり、第五騎士団にはディエゴの傭兵時代の部下も多い。そのため、荒くれ者の集まり、雑兵の寄せ集めなどと陰口を叩く者もいた。

 つまるところ、第五騎士団は他の騎士団に比べて浮いているのだ。

 あいつらには聖騎士としての誇りがないのか、などとよく言われるが、ディエゴに言わせてみれば、「そうだが?」の一言に尽きる。祝福調査会が来なければ、今も傭兵稼業を続けていたところだ。

 そんなわけで他の騎士団の人間は、あまり第五騎士団の訓練室や会議室に顔を出さない。野蛮な第五騎士団員と同類であると思われたくないのだろう。

 ところが、そんな周囲の評価をまったく気にしない者もいた。


「失礼するのである」


「おはよう! おはよう! おはよう!」


 第五騎士団の詰所に押しかけてきたのは、強面に眼鏡をかけた赤毛の男と、短い金髪の背の高い男。第二騎士団長ルドルフ・マリオットと、第三騎士団長パーシバル・バーンズである。

 室内に入るなり、正面、右、左と三方向に挨拶をするパーシバルに、ディエゴは苦笑を向けた。


「バーンズ団長、あんたは声がでかいから、挨拶なら一回で充分だ」


「そうか、おはよう! ファルケ団長!」


「はい、どーも。おはよーさん。何のご用で?」


 ルドルフが手にした書類を差し出す。西の最果て(ウェスト・エンド) 遠征に使用する飛行船の乗船人数に関する申請だ。

 飛行船は運用にも管理にも知識がいる。なので、その手のことに詳しいルドルフ率いる第二騎士団が、まとめて管理しているのだ。

 この手の書類が嫌いなディエゴはヘラリとやる気のない愛想笑いを浮かべた。


「そっちで適当に申請しておいてくれよ」


「その場合、事務手数料を請求するが、よろしいか?」


 守銭奴ルドルフの事務手数料など、ぼったくりに決まっている。ディエゴは渋々書類を受け取り、パーシバルを見た。


「それで、今日も元気なバーンズ団長のご用は?」


「あぁ、西の最果て(ウェスト・エンド) の遠征に俺も行くから、ファルケ団長と聖女パメラ殿に挨拶に来たんだ。聖女パメラもこちらにいるのだろう?」


「いるわ」


 詰所と扉一つで繋がっている隣の訓練室から、一人の女が顔を出した。

 ダークブラウンの髪を品良くまとめ、聖女用の青いローブを身につけた、長身でグラマラスな女である。切れ長の涼やかな目をしており、眼鏡がよく似合っていた。彼女が三聖女の一人、〈破壊〉の聖女パメラだ。

 パーシバルは丁寧な所作で礼をした。


「ご機嫌よう、聖女パメラ。貴女も西の最果て(ウェスト・エンド) の遠征に同行されると聞いたので、挨拶に参りました」


「……そう。遠征のことなら聞いているわ。左の方(、、、)に行くのでしょう?」


 パーシバルとルドルフが、何か言いたげにディエゴを見た。

 ディエゴはこめかみを押さえる。


「あー、はいはい、地図の左の方な。つまりは西だ、西」


「そうね、西ね。飛行船に乗るのでしょう? 私は馬でも構わないのだけれど」


 聖女パメラの言葉に、ルドルフがピクリと強面の眉を動かす。


「陸路を行くなら、我がマリオット社の四輪自動車(オートモービル)を推奨するのである」


 そう、この男は四輪自動車(オートモービル)が好きなのだ。蒸気機関車以外で陸路を移動する時は、馬車を使わず自前の四輪自動車(オートモービル)を手配する。


「……騎士は馬に乗ってナンボじゃないのか?」


 ディエゴが突っ込むと、パーシバルも拳を握りしめて熱く力説した。


「同感だ! 俺は馬が好きだ!」


「馬など時代錯誤である。四輪自動車(オートモービル)は良い。なにより、馬糞で道を汚さないのである」


 ルドルフの主張に、聖女パメラが眼鏡を指先で持ち上げ、反論する。


「でも、四輪自動車(オートモービル)は放屁をするわ」


 聖女の口から飛び出した放屁の一言に、歴戦の騎士団長達は黙り込んだ。あの図太いルドルフ・マリオットですらだ。

 聖女パメラは淡々と続ける。


四輪自動車(オートモービル)は臭い煙が出るでしょう」


 なるほど確かに、赫炭(かくたん)を燃料としている四輪自動車(オートモービル)は、パイプからモクモクと赤みがかった灰色の煙を吐き出す。

 だが、それを放屁と言って良いのか。しかも聖女が。

 黙り込む男達に、聖女パメラは何かに気づいた様子で「そう」と呟く。


「放屁という言葉は難しすぎたのね。仕方ないわ。私もつい最近調べるまで知らなかったもの、オナラの知的な言い換えを……」


「ストップ。パメラ。お前はもう喋るな」


 ディエゴの言葉に、パメラは素直に口を閉ざす。

〈破壊〉の聖女パメラは、かつてディエゴの下で活躍していた女傭兵だ。聖女に選出された際、学がないのを隠そうと頑張った結果がコレである。

 室内にいた団員達がヒソヒソと囁き合う。彼らもまた、ディエゴについてきた元傭兵達だ。


「耐えろ、笑うな、姐さんはマジなんだ……!」


「流石俺らのパメラちゃん、視点がシャープだぜ……」


「でも、姐さんの理屈だと、蒸気機関車は常時オナラ大放出……」


 若い団員の発言に、ディエゴは耐えきれずにブハ──ッと吹き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ