【おまけ】虚ろな才は、愛しい家族を守るため。
〈創造〉の聖女シェリルがアレン・ローレンスと出会ったのは、アレンの祝福鑑査の時だった。
祝福鑑査──つまりは、加護持ちの加護の種類や強さを見極める作業である。
会場である聖騎士団本部の一室には、祝福調査会の人間が二名。更に第一騎士団長エルバート・ランドルフと三聖女も同席している。
本来、新団員の祝福鑑査は、もっと作業的に行うものだ。たった一人の新人のために、三聖女まで呼び出すのはただごとではない。
(つまり、それだけ将来有望ってことよね〜。ランドルフ様が直々にスカウトした従騎士ですもの〜)
アレン・ローレンスは貴重な祝福二つだ。
そこで、三聖女立ち会いのもと、祝福鑑査を行うことで、アレンは三聖女にも認められた存在であると周知したいのだろう。
いわば、聖騎士団の新しい宣伝塔というわけだ。発案者は第二騎士団長ルドルフ・マリオットだろう。いかにも商売上手なあの男が考えそうなことだ。
聖女シェリルは、祝福調査会から受け取った鑑査結果に目を通した。
加護は〈破壊〉〈再生〉〈創造〉の三種類があり、それぞれ下位、中位、上位のいずれかに分類される。
アレン・ローレンスは中位の〈破壊〉と中位の〈再生〉だった。
(鑑査結果って、案外ざっくりしているのよね〜)
加護の強さは、測定器があるわけではない。
それぞれの加護ごとにチェック項目があり、聞き取りと検査をして総合的に判断するのだ。
この祝福鑑査も、教皇庁の職員や聖騎士などは祝福調査会がきちんと行うが、一般人の場合、概ね自己申告である。
レイエル聖区関係者以外で「俺は上位の加護持ちなんだぜ」と言う奴がいたら大体騙りだ。
(そもそも加護持ちって、見つけ出すこと自体が難しいものね〜。歩く呪いの呪印みたいな目印がないし〜)
加護の力が弱い場合、自分が加護持ちだと気づかずに一生を終える者もいるという。
特に下位の〈破壊〉や〈再生〉は、「人よりちょっと力が強い」「怪我の治りが早い」という程度なので、気づかれないことが多いのだ。
「アレン・ローレンス。貴方の祝福は、中位の〈破壊〉及び、中位の〈再生〉であると……」
「〈再生〉は下位でしょう?」
祝福調査会の男の言葉を、アレンが遮る。
(あら〜)
この時初めて、聖女シェリルはアレン・ローレンスをまじまじと見た。
茶髪に垂れ目の長身。大抵の相手に「優しそう」という印象を与える青年だ。
そんな彼は、穏やかに微笑みながら辛辣に告げる。
「盛らなくて良いですよ。それとも、俺が中位の方が都合が良いですか?」
(まぁ、太々しい〜)
アレン・ローレンスは気づいているのだ。たった一人の祝福監査のために、三聖女を呼んだ理由を。
英雄エルバートの従騎士は、三聖女に認められた祝福二つの天才! という宣伝文句を上層部が欲していることを。
おそらく祝福調査会は、上層部から「アレンの鑑査結果を少し盛っても構わない」と言われているのだろう。
(ランドルフ様は、どうするおつもりかしら〜?)
聖女シェリルはチラリと、英雄エルバート・ランドルフを見た。
アレンの行動を、エルバートは諌めるでも咎めるでもなく、ただ穏やかに微笑んで見守っている。
そこに声をあげた者がいた。顔をベールで隠した老女。〈再生〉の聖女グレイスだ。
「わたくしの方からも、よろしいかしら?」
アレンが聖女グレイスの方を向く。
聖女グレイスは嗄れた声で訊ねた。
「軽い擦り傷が治るのはどれぐらい?」
「一日ですかね」
「お酒はお強い?」
「あまり飲まないので、分かりません」
「大きな怪我や病気をしたことはある?」
「ないですね」
「人より多く食事や睡眠を必要としたり、あるいは何かしらの衝動に駆られることは?」
この質問に、アレンは少し考えるような素振りを見せた。
「人より食べる方だと思います。一日六食は欲しいですね」
まぁ。と聖女シェリルは目を丸くした。
一日六食も食べて、あの体型を維持していられるなんて、まるで第三騎士団長パーシバル・バーンズのようだ。あの熱血騎士団長は健啖家なのである。
聖女グレイスは納得した様子で、ベールに覆われた顔を祝福調査会に向けた。
「わたくしは、この方の〈再生〉は下位の加護であると思いますよ」
祝福調査会の者達の間に、困ったような空気が漂う。
そんな中、アレンは聖女相手に物怖じせず訊ねた。
「そう思った理由をお聞かせ願えますか、聖女グレイス様」
「祝福二つは人間の体に負荷を与えます。その結果、食事や睡眠を多く必要としたり、何らかの衝動に駆られたりする。これは、〈再生〉の加護がある程度強いと抑えられるようですが……」
そういえば、聖女シェリルの弟キースも祝福二つだが、〈創造〉〈再生〉共に中位だ。
故に、聖女グレイスの言うような症状は見られない。
ちょっと怒りっぽいところはあるが、あれは本人の性格だろう。
聖女グレイスはアレンを見て、言葉を続ける。
「貴方は〈破壊〉の加護の方が圧倒的に強く、〈再生〉の加護はあまり強くないのでしょう。故に通常より多くの食事を必要とするようになったのではないか、とわたくしは考えます」
「納得しました。ありがとうございます、聖女グレイス様」
淡々と言うアレンに、聖女グレイスは「どういたしまして」と微笑む。
こうしてアレン・ローレンスの加護は、中位〈破壊〉、下位〈再生〉と言うことで、正式に登録されたのである。
* * *
羽十字教の三聖女は教皇庁の所属であり、司祭と同程度の地位にある。
ただ、その能力の性質上、聖騎士団と行動を共にすることが多いため、教皇庁と聖騎士団本部の両方に部屋が用意されている。
アレン・ローレンスの祝福鑑査が終わった後、〈創造〉の聖女シェリルが、聖騎士団本部内にある自室に戻ると、妹のセシリーが紅茶の用意をしながら言った。
「さっき、キースを叱ったわ。あの子、アレン・ローレンスの祝福鑑査を盗み見してたのよ」
「まぁ〜。よっぽど、ランドルフ様の従騎士の座を取られたのが、悔しかったのね〜」
弟のキースは十四歳。貴重な祝福二つであり、見習いながら将来有望と期待されている存在だ。
ただ、少しばかりヤンチャで、我が強く暴走しやすい。
聖騎士団で歳の近い子と仲良くなれれば……と思ったが、どうにも友達はいないらしい。そのことを、聖女シェリルは姉として気にしていた。
「そうだわ、セシリー。アレン・ローレンスさんとうちのキース、仲良くなれないかしら? 同じ祝福二つ同士だし、お互いを高め合うライバルになれたら素敵だと思うの」
「無理ね。キースが『あいつ気に入らない』ってブツブツ言ってたから。その内、決闘申し込みに行くんじゃない?」
あら残念、と聖女シェリルは思った。
セシリーが言うのなら、きっと無理なのだろう。人を見る目がない自分と違って、セシリーはその辺りがしっかりしている。
聖女シェリルは、自分が人を見る目がないことを自覚していた。
(だってみんな、わたくしのことをチヤホヤしてくれるんですもの)
自分に好意を向けてくる人間は、どうしたって疑いにくいものだ。
一方、地味な容姿で加護を持たない妹のセシリーは、姉と比較されて苦労することが多い。
だからこそ、聖女シェリルは自分より妹セシリーの感性を信用していた。
セシリーは渋い顔で言う。
「それに……私はアレン・ローレンスがあまり信用できないわ。才能はあるけど、人として何かが欠けてる気がする」
じゃあ、わたくしと似た者同士ね。と聖女シェリルは思った。
自分も彼も、才能しかない空っぽな人間だ。
だから、家族が愛しいのだ。
(だって、家族を大事にしている間は、まともな人間になれた気がするんですもの)




