112.王国の十六柱傑
アルト王国の東には小さな公国が存在している。
血を流してまで攻め落とす価値がないという理由で何とか存続しているこの国には、近年ある問題が発生して上層部を悩ませていた。
王国との交易路となっている道に金の瞳を持つ赤鬼が住み着いたのである。
この鬼は通行人を襲って食い殺す、人食いだった。
二十人以上の庶民を食い殺し、冒険者も国の兵隊も全員腹の中に収めた怪物は、畏怖と嫌悪を込めて“赤貪鬼フルヒト”と呼ばれるようになる。
この“赤貪鬼フルヒト”のせいですっかり人足が遠のいてしまった。
夜中であれば出現しないのだが、変わって夜行性の魔物が出没する。
そのせいで小国は打撃を受けてしまった。
王国以外とは正常に交易できているのが不幸中の幸いであったが、このままではよくない。
小国は考えあぐねて外国に討伐してもらうことにした。
しかし、彼らは小国であるがゆえに大金を用意することができない。
「大金を用意して一級、もしくは特級を呼ぶのが一番だが……」
小国の王は嘆く。
特級とは一級冒険者すら返り討ちにする異名持ちの討伐に成功した、生きた伝説と呼ばれる者たちだ。
各国最強クラスの戦力であるが、呼び寄せるには相応の金額が必要となる。
小さな国に用意できるはずもなかった。
そこで彼らが考え出したのは、王国の戦力に依頼するという方法である。
「帝国の八神輝に対して、王国の十六柱傑は目立たないですな」
と貴族と庶民のうわさ話として吹き込んだのだ。
十六柱傑とは帝国の八神輝に対抗して作られた者たちである。
王国の最大戦力とされるが、「帝国が八なら自分たちは十六」と安直な考えで集められたため、質のほうは疑わしいところがあった。
言うまでもないプライドが高い王国人たちにとって、この評価は大変屈辱的だった。
「“赤貪鬼”とやらを退治して八神輝など大したことない、十六柱傑のほうが上だと示して参れ!」
「そうだ、そうだ!」
たちまち頭に血を昇らせた王国の首脳部は十六柱傑を集めてそう指示を出す。
「もちろんです!」
「我らが八神輝とやらに劣るなど、とんでもない過ちだと分からせてやります!」
命じられた十六柱傑たちのほうも、大いに奮い立って応える。
仕かけた小国が内心呆れたほど、彼らは簡単にその気になった。
異名持ちと魔界の元帥では比較にならないだろうという指摘は、決して出たりはしない。
「誰が出撃するか、会議して決めて報告に来い」
国王の命令で十六柱傑たちは一度引き下がり、城の一室で自分たちで会議を始める。
その前にまず侍女たちを呼び、スコーンに飲みものを持ってくるように伝えた。
「王国の貴人たるもの、何があっても取り乱すのはみっともない」
というのが国風である。
先ほどの血気にはやった会話はよいのかという疑問さえ持たないのが、王国人の特徴でもあった。
プライドが高い見栄っ張りの巣窟と揶揄されているのも、理由があってのことである。
飲みものが行きわたり、スコーンを食べ終えたところで、最年長で筆頭の男性が口を開く。
「さて誰が行く?」
「その前に“赤貪鬼”とやらはどのような特徴なのだ?」
「体長は三メートルほどでオーガよりも遥かに速く、パワーもあるそうだ。小国が用意した二級冒険者パーティーが返り討ちにされ、うち半数が食われたらしい」
二級冒険者パーティーが返り討ちになるのであれば、かなり強力な部類だと言えるだろう。
しかし彼らは平然としていた。
「さて誰を出すべきか。“軍神”“武神”“闘神”“剣神”“槍神”あたりが適任だと思うが」
筆頭の男性が言うと、何名かが一斉に手を挙げる。
軍神、武神、闘神、剣神と呼ばれた者たちだった。
「俺が行こう。王国の“武神”こそ、真の強者だと教えてくれる」
三十歳くらいのスキンヘッドの大男が吠えれば、優しそうな顔立ちをした美青年が口を挟む。
「この剣神こそが最強です。武神殿は遠慮して頂けませんか」
「何を」
「何ですか?」
ふたりはにらみ合いを始めてしまい、筆頭の男はため息をつく。
「ここは闘神に頼もうか。東の戦神より西の闘神だと言われるようにしたいのだ」
「承った」
応じたのは三十歳の金色の髪と赤い目を持った筋骨たくましい大男である。
日焼けした肌にはいくつかの傷があり、歴戦の戦士であることをうかがわせた。




