第27話 『惜しい拒否』
「ところで何処に向かってんだ?」
「昨夜、貴様と遭遇した町外れの路地裏だ」
空飛ぶベッドに暫し揺られながら。
目的地を尋ねると、町外れの路地裏とのこと。
昨夜遭遇したって言われても、ピンとこない。
「その近くにギルドの本部があるんだよ〜」
ダルっ子の補足。ギルド本部の近くらしい。
なんでそんなところに昨夜俺はいたのだろう?
首を傾げていると、痛い子が推察した。
「恐らく我が仲間が貴様をギルドへ引き渡す手筈だったのだろう。あのバカ……軽率すぎる」
悔しそうに下唇を噛む。すると、ダルっ子が。
「懸賞金を独り占めしようとしたんだね〜」
「まったく、我らに声をかけていれば……」
どうやら俺は捕らえらていたらしい。
そして身柄を引き渡す為にギルドへ向かった。
その途中で、命を落とした。俺に、殺された。
しかしその理由が懸賞金の独り占め目的とは。
なんとも欲張りさんだ。自業自得だな。
だが殺した俺がそれを責めるのは気がひける。
とりあえず、相槌を打つに留めておこう。
「テクノ君、寒くない〜?」
「ああ、うん。ちょっと夜風が肌寒いな」
「結界張れば風も入ってこないんだけどね〜」
「どうして結界を張らないんだ?」
「あの子が夜風を受けたいって言うからさ〜」
非常に面倒臭そうにぼやくダルっ子。
痛い子は黒マントをバタバタ夜風に靡かせ、得意げにキメポーズ。太ももに鳥肌立ってんぞ。
「寒かったらお布団においで〜」
「忍びねぇな。つか、なんでベッドなんだ?」
「寝てる私を無理矢理連れ出したんだよ〜」
そら災難だな。痛い子は唯我独尊らしい。
同情しつつ、いそいそと布団に潜り込む。
すげーいい匂い。くんかくんかして幸せ気分。
「や〜ん。嗅がないでよ〜」
「悪い。いい匂いだったから、つい」
「いい匂いする? ならもっと近くにおいで〜」
「かたじけねぇ、かたじけねぇ」
ぴたっと、ダルっ子に寄り添う。芳香が増す。
彼女はダルダルパーカー姿。下は穿いてない。
肩に頭を預けて、太ももを膝に乗せられた。
ドギマギしていると、にぱーっと笑って。
「えへへ〜あったかいね〜」
「うん、あったかいね」
「せっかくだから肩ぐらい抱いてよ〜」
「あ、こりゃ失敬。では、失礼します」
言われるがまま、肩を抱く。くっそ柔らけぇ。
なんだこれ、肩甲骨まで柔らかいぞ。
女子ってのは全身軟骨なのかと疑っていると。
「ねぇ、こっちにおいでよ〜」
「夜風と会話しているのだ……邪魔をするな」
ダルっ子のお誘いをにべもなく断る痛い子。
夜風と会話って、まさにエア友達だな。
ちょっと膝が震えてんぞ。寒そうだな、おい。
白けた視線を送っていると、突風が。
「うひゃんっ!?」
「よっしゃああああああああああっ!!」
思わず拳を握り、片手を上げ、ガッツポーズ。
「み、みみ、見たっ!? 見たのかっ!?」
「お前……赤い下着とか意外と大胆だな」
「昨日のとは違うからね!? 洗ってるから!」
「はあ? んなことより、ブラも見せろよ」
「だからどーしてそーなるのっ!?」
バッチリクッキリ痛い子の下着を拝んだ。
いや〜闇を見通す吸血鬼の眼は最高だね。
彼女の赤パンの皺一つまでしっかり見えた。
肉つきは乏しいものの、ハミケツは立派だ。
あのはみ出た臀部の肉に是非吸い付きたい。
ワハハ。なんて、高笑いをすると、キレた。
「ぶ、ぶち殺す! 落ちろ、変態吸血鬼っ!!」
「わわっ! こら、やめろ赤パン女っ!!」
「赤パン女言うな〜っ!!」
不可視の力で空中に逆さまで宙ぶらりん。
如何に死なない身体とはいえ怖いものは怖い。
おしっこ漏れそうになって、このまま逆さ吊りで漏らしたら顔まで垂れてきて大変だと思い、慌ててケツに力を入れるがそもそもこの身体は尿意など感じる事がなく、幻覚だったらしい。
安心してほっと息をつくと、ダルっ子が。
「はいはい、喧嘩はそのくらいにして〜」
「邪魔すんなっ! こいつはもう駄目だ!!」
人を手遅れみたいに言うな。俺は大丈夫だ。
おしっこ漏らしてないからな。セーフである。
達観している俺とは裏腹に痛い子は激おこ。
そんな彼女をダルっ子が面倒臭そうに窘める。
「そろそろ目的地だから静かにして〜」
「あ、ごめん。ほら、あんたも静かにして!」
「へい」
騒ぎの元凶に叱られた。腑に落ちないが黙る。
ベッドの上に戻されて、音もなく、降下。
路地裏の店舗の物陰に、身を潜める。
「世紀の大泥棒はあの酒場にいる筈だ」
「どうしてわかるんだ?」
「ギルド発行の夕刊に記載してあったのだ」
痛い子が一枚の紙面を突き出してくる。
そこには改めて俺の手配の取り下げの件と、記者不在の為、記事の簡略化のお詫び、そして大泥棒からのメッセージが書かれていた。
『ギルド本部近くの酒場にて待つ。 大泥棒』
短く簡潔な本文。俺たち以外には意味不明だ。
だからこそ、俺たち宛てのものだとわかる。
なんとも大胆不敵。非常にキナ臭い誘いだ。
「これはどう見ても罠っぽいな」
「ああ。その証拠に、見てみろ」
「ん? 誰か、酒場の前に立ってるな」
「きっと刺客だよ〜待ち伏せだよ〜」
見ると、酒場の前に佇み男女二人組。
1人は筋肉質な男で、1人は線の細い女。
ダルっ子の言う通り、刺客で間違いなさそう。
「ふむ。これはちと、想像以上だな」
「何が想像以上なんだ?」
「刺客がいることは予想していたが、よもやあの二人組とは思わなんだ。過剰戦力すぎるぞ」
二人組を睨んで、痛い子が難しそうな顔。
過剰戦力の意味がわからず困惑していると。
ダルっ子が面倒そうに長嘆して、説明した。
「あの人達は四天王のうちの2人なんだよ〜」
「四天王?」
「ギルド・マスター直轄の精鋭なのだ」
珍しく痛い子が補足。ギルド・マスター直轄。
ギルドのお偉いさんの懐刀ってとこか。
言われてみれば、なんだか強そうな気配。
「あのね〜異能者達は何人かでパーティを組む人が多いんだけどね〜あの2人はギルド・マスターのパーティメンバーなんだよ〜」
異能者のパーティって、RPGみたいだな。
痛い子とダルっ子もパーティなのだろう。
そしてあの二人組はギルド・マスターのパーティメンバーらしい。実力は確かなのだろう。
「ん? そういや、四天王って言ってたよな?」
「そうだ。あの2人の他に、もう2人いる」
「ちなみにね〜その人達もギルド・マスターのパーティメンバーなんだよ〜すごいね〜」
ギルド・マスターのパーティが四天王か。
わかりやすい力関係だ。強者の集まり。
他のメンバーも気になるところである。
「あとの2人はどんな奴らなんだ?」
「1人は既に貴様もよく知っている」
「俺が知ってる? 誰のことだ?」
「言わずと知れた、大泥棒だ」
なるほど。俺の記憶を奪った張本人か。
「もう1人はね〜すごーく嫌な奴」
「嫌な奴?」
「もうね〜生理的に無理って感じ〜」
ダルっ子が顔を顰めて、吐き捨てる。
よっぽど嫌なんだろうなと思っていると。
同じく顔を顰めた痛い子が、続きを話す。
「そいつは猛毒使いなのだ」
「猛毒使いか。そりゃ物騒だな」
「私の普通の結界でも防げないんだよ〜」
心底嫌そうに、ダルっ子が不満を漏らす。
「物理結界を張ればなんとか防げるけどね〜」
そう言って、おりゃ!と、力んでみせる。
すると、ダルっ子の手のひらに玉が出現。
透き通っていて、透明な、まん丸な玉だ。
「なんだそりゃ。ガラス玉か何かか?」
「ガラスよりも、かなーり頑丈だよ〜」
ベッドの淵にガツガツ当てて見せるが、割れる気配はない。物理結界とは、その名の通り。
彼女の不可視の結界を、物理化した物らしい。
「とにかく、厄介な奴が居ないのは幸いだな」
「あとの2人はどんな能力なんだ?」
「あの2人は重力使いと雷使いだよ〜」
重力使いと雷使い。何それ、めっちゃ強そう。
「ふはは! 安心するがいい! この私の異能を持ってすれば、恐るるに足らん! ふははは!!」
得意げに高笑いする痛い子。本当に大丈夫か?
「そういや、お前の能力って何なんだよ?」
「ふっ。貴様に我が異能を告げるのも、これが二度目だな。よかろう! とくと聞くがいい!」
バサッと黒マントを翻して、キメポーズ。
「我が異能は、サイコキネシスであるっ!!」
「地味だな」
「だよね〜」
「じ、地味って言うなっ!?」
だって、サイコキネシスって要は念力だろ?
正直な感想を漏らすと、ダルっ子も頷く。
痛い子は涙目になって唇をわなつかせて。
短い細腕をこちらに向けて、異能を発動。
ふわっと地面から浮き上がり、じたばた。
「わわっ!? 何すんだよっ!?」
「黙れっ! 貴様がまずあの2人と戦え!!」
「んな無茶な!? 作戦とかないのかよ!?」
「つべこべ言うな! さっさと行ってこい!!」
そのまま刺客に向けて飛ばされる。特攻かよ。
こうなったら仕方ない。腹を括ろう。
そもそも目的は自分の記憶の奪還なのだ。
ならば、俺が前面に出て戦うのが筋だろう。
2人組が迫る。吸血鬼の眼が、鮮明に捉えた。
刺客2人はこともあろうに、キスをしていた。
しかも、濃厚な、ベロチュー。恋人同士かよ。
「リア充は爆発しろぉおおおおおっ!!」
個人的な怨嗟を叫びながら、突撃。
しかし、急に失速した。飛距離が足りない。
そのまま地面に墜落。擦り下ろされる。
「あべべべっ!? あのちびっ子めぇっ!?」
飛距離が足りないのは痛い子ことちびっ子の念力不足かに思われたが、どうやら違うらしく。
「ぐえっ!? な、なんだよ、この圧迫感は!」
全身に隈なく感じるプレッシャー。
それは痛い子の不可視の力に真上から押さえられるような感覚とは違い、例えるならば、エレベーターで上昇する感覚に近い。まさに、G。
Gとはすなわち、グラビティ。重力である。
「ふん。飛んで火に入る夏の虫だな」
筋肉質の男が、鼻で嗤う。誰が虫だよ。
腕立て伏せの要領て、なんとか顔を上げる。
すると、もう1人の線の細い女がいない。
「出たわね吸血鬼っ!! 愛しのダーリンとのキスを邪魔するなんて許せないっ!! 死ね!」
少し離れた位置から罵倒された。死ねって。
近頃、言われ慣れているとはいえ、傷つく。
無論、いじけている暇などなく、衝撃が襲う。
「ぎっ!? ぎゃぁああああああっ!?!!」
紫電がバリバリと大気を切り裂き、落雷。
空間が揺れ、地鳴りが響く。高圧電流の直撃。
周囲に漂うオゾンの匂いと共に、即死。
「がはっ! い、生きたまま生焼けはキツいぜ」
即座に蘇生するが、ひと息つく暇もなく。
「潰れろ。ヒキガエルの如く」
「ぷぎゃっ!?」
重力に押し潰され、内臓を吐き出す。死亡。
すぐさまズルズル内臓が定位置へと戻る。
意識が回復。こりゃ、手も足も出せないね。
「ちっ! 何をしている! 戻ってこい!!」
「ぐえっ!?」
痛い子の罵声が飛び、引き戻される。
首根っこを引っ張られた感覚で帰還。
この扱い、酷くない? 涙目で睨みつける。
そんな俺の切なさなど、おかまいなしに。
「このドジ! 叫びながら奇襲する馬鹿がどこにいる!? 何を考えているんだ貴様は!!」
「だ、だって、あいつらキスしてやがって!」
「キスくらいなんだ! 全くこれだから童貞は! あー嫌だ嫌だ。たかがキスで取り乱しおって」
「うるせ! そういうお前は経験あんのか!?」
「はあっ!? わ、私はモテモテだっての!!」
「キモオタ限定でな! ブサ専かっての!!」
「あー! くっくっくっ。ついに言ってはならぬ禁断の言葉を口にしたな。 ひき肉にすっぞ!」
ぐぬぬと、額を付き合わせて醜い応酬。
童貞と処女の言い争いに、刺客2人組は失笑。
ダルっ子は心底面倒臭そうに、割って入った。
「はいはーい。そこまで〜。いい加減にして」
「この厨二処女が悪いんだよ!?」
「この童貞吸血鬼が酷いこと言った!!」
「もう、いっそのこと2人でエッチしたら〜?」
「「断固拒否するっ!!」」
ダルっ子の提案を口を揃えて断固拒否。
ちなみに、拒否してから、惜しいことをしたと思ったのは、内緒である。キスくらいなら。
チラッと視線を送ると、目が合った。
「な、なんだ。その物欲しそうな顔は」
「キスをしよう」
「ぶっふぉっ!? にゃ、にゃにゅを!?」
咳き込む痛い子の肩を掴んで、説得する。
「さっきはキスをみて奇襲が失敗した」
「だ、だから?」
「だから、キスをすれば、今度は成功する」
「な、なるほど。一理、ある……かも」
「ほら、さっさと目を瞑れよ」
「あ、うん。わ、わかった……これでいい?」
おお? なんだこれ。こいつ、馬鹿なのか?
素直に目を瞑った痛い子。黙ってれば美人だ。
長い睫毛が微かに震える。やば。可愛すぎ。
ま、頂けるなら頂こうと思って首を傾けて。
「あのさ〜奇襲に二度目はないんだよね〜」
「はっ! 言われてみれば!」
「ちっ。バレたか」
「この、よくも騙したな吸血鬼! ッ!?」
至極当然なダルっ子の指摘。余計なことを。
我に返った痛い子がその大きな瞳を見開いて。
そのまま俺をフルスイングするよりも、早く。
いつの間にか接近していた刺客から閃光が。
あっぶね〜。さっきの位置に落雷した。
痛い子がベッドを移動させなきゃ感電してた。
線の細い女の刺客が、残念そうに独りごちる。
「あら? 勘付かれちゃったかしら?」
距離を取り、ひとまず、難を逃れた。
ベッドで周囲を旋回しながら、策を練る。
状況を見定めてから、俺は痛い子に尋ねた。
「尿意促進魔法ってのはどんな原理だ?」
「はあっ!? この状況で何言ってんの!?」
「いいから答えろ! 早くっ!!」
この間にも次々と落雷している。
まるで包囲するかの如く、的確に。
逃げ場を失った俺たちに待つのは重力魔法。
遠距離には届かないらしく、待ち構えている。
そこに追い込まれたら、終わりだ。
切迫した事態を理解した痛い子が、解説する。
「尿意促進魔法は複数の異能の複合技だ」
「複合技?」
「そう。水使いのスキルと、我が仲間の空間魔法を使用して、尿意を促進させていた」
改めて思う。なんて阿呆らしい技だ。
しかし、水使いと、空間魔法か。
試しに水を生み出すイメージ。水弾が出現。
「ほらよっ!」
「ふん。そんな物は効かん」
それを重力使いに投擲してみた。
重力によって着弾前に落下。効果なし。
なるほどな。周囲の重力が強めてあるらしい。
ちなみに空間魔法ってのはどんな魔法だ?
空間に穴を開けるイメージ。穴が開いた。
人の頭部程の大きさの、真っ黒な闇のゲート。
これは使えそうだ。
さて、ぼちぼち、反撃といこうじゃないか。




