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凡人と神様  作者: 遺志又ハ魂
第一部 【詰まらない物語】
29/72

第28話 『顔に似合わず』

「俺を向こう側に投げ飛ばしてくれ」

「向こうって、何もないじゃんっ!?」


何もない路地裏に投げ飛ばすように指示。

一見すると意味のない行為。それが狙いだ。

躊躇う痛い子を説得している猶予はない。


「あとはこっちでなんとかする」

「……我が異能の発動圏内から外れれば、もう回収をすることは出来なくなるぞ?」


彼女の不安げな眼差しを、じっと見つめ返す。


「構わない。どうせ俺に恨みがあるんだろ?」

「くっくっくっ。言ってくれる。では、ゆけ」


何か通じた気配がして、念力で投擲された。

刺客はあらぬ方向に飛んだ俺に気を取られる。

奴らの狙いは俺だ。完全に気を逸らした。


「あら? 仲間割れかしら?」

「ふん。所詮はガキか……他愛もない」


アダルトな刺客2人は呆れ顔。

俺を見捨てて逃走すると思ったらしい。

線の細い女が片手を上げて、攻撃の所作。

バリバリと大気に電気エネルギーを放出。


まだ、まだだ……よし、いまっ!


闇のゲートを開き、頭部のみを異空間へ。

一瞬、視界が真っ暗となり、すぐにあらかじめ開いておいた出口へと脱出。そこは空中高く。


重力使いの真上に出た。自由落下していく。


「それ! 黒焦げになりなさいなっ!!」


落雷が落ちる。残していた身体が丸焼けに。

めちゃくちゃ痛いが、我慢。歯をくいしばる。

2人は、気づいていない。俺の頭の存在に。

それも当然か。辺りには夜の帳が下りている。


闇を見通す吸血鬼の眼を持たない彼らは、完全に俺を見失っていた。これが狙い。勝機あり。

黒焦げになった身体が消滅して、新しい身体が首の付け根から生えてくる。脱皮した感覚だ。


「む? な、なんだとっ!?」


ここでようやく、重力使いが事態に気づいた。

しかし、もう、遅い。なにもかも、な。

周囲に張られた重力魔法によって、加速。


「ちょっとチクッとしますよっと!」


瞬く間に接近。そのまま、首筋に噛み付いた。


「ぐおっ!? は、離せ! 化け物っ!!」

「この、ダーリンから離れなさいよっ!!」


雷使いは雷を使えない。ダーリンがいる。

彼を感電させない為、手で引き離しにかかる。

しかし、逡巡した様子。無理もない。


なにせ、今の俺は、全裸なのだから。


「な、なんで裸なのよっ!? ホモなの!?」


何を馬鹿な。失敬だぞ。俺はノンケだ。

その証拠に、筋肉質の男の血は、酷く不味い。

プロテインでドロドロの、汗臭い血液。


しかし、好き嫌いはよくない。我慢して吸血。


「ハ、ハニー……あとは、任せ、た」

「ダーリンっ!?」


ありがちな別れを交わし、重力使いが消滅。

砂となって、地面に降り積もる。あっけない。

改めて、吸血鬼のチート能力に驚愕する。

この牙。これさえあれば、格上でも屠れる。


その万能感に酔っていると、雷使いが発狂。


「よくもぉおおっ!! 私のダーリンをぉ!!」


憎悪の視線が向く。次の瞬間、光に包まれた。

極太の雷に打たれ、悲鳴すらなく、即死。

無論、即座に復活して、ゆっくりと歩み寄る。


「悪いが、あんたじゃ俺を殺せないよ」

「黙れっ! 死ねっ! 死ねっ! 死ねっ!」


次々に落雷する。わざと煽っているのだ。


その理由は2つ。

1つは中途半端な感電により、行動不能になるのを避ける為。全力でスキルを使わせた。

もう1つは彼女の注意を引きつける為だ。


俺は不死身だが、痛い子とダルっ子は生身。


だから、そっちに攻撃されないようにした。

けれど、四天王である雷使いは、甘くない。

即座にこちらの考えを見抜き、にたりと嗤う。


「あの子たちから黒焦げにしてあげるわ!」

「ッ!? やめろっ!!」


慌てて止めようとするが、間に合わず。

痛い子らが乗るベッドに雷が落ちた。

空振と地鳴り。オゾンの匂いが辺りに漂う。


「くそっ! 不意打ちしやがって!」

「ふん。あなたにだけは言われたくないわ!」


傲岸不遜に言い捨てる、雷使いの女。

先に不意打ちを仕掛けたのはこちら。

しかし、それでも文句を言わざるを得ない。


だだの一般人とは、言えないけれど。

痛い子とダルっ子は、手伝ってくれただけだ。

記憶を取り戻しに来た俺だけを、狙うべきだ。


「痛い子! ダルっ子! 大丈夫かっ!?」

「あはは! 無駄よ! 完璧に仕留めたわ!!」


堪らず、落雷地点に問いかける。

雷使いが嘲笑う。この女、ぶっ殺す。

頭に血が上り、視界が赤く染まる。


そのまま、飛びかかる、その寸前に。


「くっくっくっ。我らはピンピンしているぞ」

「ふぅ〜物理結界張ってて良かった〜」


その声、その口調。間違いない。あの2人だ。

良かった。生きていた。ダルっ子の物理結界。

見ると、ガラス玉がベッドを覆っていた。

ならばもはや、後顧の憂いはない。

無傷の2人を見て、雷使いは慌てふためいて。


「ぶ、物理結界!? いったい、いつの間に!」

「テクノ君が戦ってる間に張ったんだよ〜」

「くっくっくっ。よそ見していていいのか?」


その同様が命取り。気づいた時にはもう遅い。

獣人化の脚力を発揮して、一瞬で肉薄。

咄嗟に突き出してきたその二の腕を、ガブリ。


「悪いな、俺の勝ちだ」

「ぐっ!? 全裸の吸血鬼に破れるなんて……!」


全裸全裸って、しつこいな。仕方ないだろ。

再生後は全裸になっちまうんだよ。不便だ。

構わず、吸血をする。うおっ! 美味いっ!

性別でこうも味が変わるのか。感動した。


「おっと、そういやひとつ聞かせてくれ。あんた達は何故俺を狙った? 手配と一緒に懸賞金も取り下げられたのにどうしてこんな真似を?」


あらかた吸い尽くして、尋ねる。

待ち伏せの理由。四天王が罠を張った訳。

貧血状態となった雷使いは億劫そうに答えた。


「ギルド・マスターの、指示だ」

「そうか。ちなみに理由は?」

「知ら、ない。経験値稼ぎ、じゃないの?」


経験値稼ぎか。吸血鬼はレアっぽいからな。

わからなくもないが、腑に落ちない。

しかし、少なくとも彼女はそう考えている。


「そうか。それじゃあ、あばよ」


他に聞き出せそうもないので、吸い殺した。

躊躇はない。それで、ふと、実感する。

こうやって、次々と人を殺して回ったのだと。


改めて自分が人外の化け物になったと知った。


「テクノ君〜どーしたの〜?」


呑気なダルっ子の声。我に返って距離を取る。


「お、俺に、近づくなよ」

「ええ〜? さっき添い寝したじゃんか〜」

「だって、俺は化け物で、殺人鬼で……!」


ゴクリと喉が鳴る。酷く喉が渇いていた。


「ん〜? 私の血を吸いたいの〜?」

「あ、ああ……だから、離れてくれ」

「水臭いな〜吸えるもんなら吸ってみ〜?」


物理結界を解除。パリンとガラス玉が割れる。

挑発するようにすり寄ってくるダルっ子。

俺の手を取り、剥き出しの太ももに誘導。

彼女の甘い香りが鼻腔をくすぐり理性が崩壊。

本能のまま、首筋に牙を突き立てようとして。


「はい、残念〜! 私は結界使いでした〜!」


ガキンと不可視の結界に阻まれる。

我に返って、ほっと安堵する。良かった。

つい、殺してしまうところだった。


そんな俺を観察して、痛い子が目を泳がせる。


「せ、性的興奮で、食欲が誘発されるのだな」

「こらこら、俺は欲情なんかしてないぜ?」

「そ、そんなことは下を隠してから言えっ!」


見てられないとばかりに赤い顔を覆う痛い子。

言われて気づく。下半身が大変なことに。

でもさぁ、しょうがなくない? 男の子だもん。

ダルっ子の生足に触れたら誰でもこうなるよ。


「当然の生理反応だろ。だからセーフだ」

「アウトだよ! いいからさっさと隠せっ!!」

「せっかく見たんだから、感想くらい言えよ」

「へっ? そ、そうだな……顔に似合わず……」

「声が小せぇっ! はっきり言えっ!!」

「お、思ったよりおっきくてびっくりした!」


そうかそうか。素直でよろしい。

どうやら痛い子は押しに弱いらしい。

腰に手をやって照れる彼女に見せつけてると。


「へ〜! 初めて見たよ〜触っていい?」


天然ビッチなダルっ子が興味深々。よかろう。


「ああ、是非とも触ってくれ」

「やた〜! わくわく、わくわく〜!」

「あ、こら! やめなさいっての!?」


痛い子に邪魔された。サイコキネシス発動。

雑巾を絞る仕草。すると、メリメリ捻れる。

どこが捻れたかなど、言うまでもないだろう?


「うぎゃあああっ!? どこ捻ってんだよ!!」

「うひゃあっ!? なに触らせてんの!?」

「ぶへぇっ!? り、理不尽すぎる……」


慌てて解放されると同時に、叩き潰された。

すぐに復活して、痛みも治まった。

サイコキネシスは触覚があるらしい。

改めて、とんでもない厨二女だ。怖すぎ。


「いいな〜どんな感じだった〜?」

「えっと、硬くてね、熱くて……」

「この淫乱変態厨二痴女」

「んなっ!? くっくっくっ。もう我慢ならん! 貴様と出会ってから災難続きだ。くたばれ!」


淫乱変態厨二痴女が逆ギレしてきた。

腕を振り下ろされる前に、手で止める。

もう片手も掴み、頭上で握り合う形。

ぐぬぬと、牙を剥き出しにして、額をつける。

そうして睨み合ってると、ダルっ子が。


「テクノ君、ちゅーするチャンスだよ〜」

「お? 言われて見れば……」

「させるかっ! あっちに行けっ!!」


念力でぶっ飛ばされる。そのまま背後に激突。

店の壁を突き破って、ダイナミック入店。

おいおい、洒落にならん。慌てて立ち上がる。


とにかく店の人に謝ろうとして、気づく。


「テクノ君、平気〜?」

「ご、ごめんね。つい、投げちゃった」

「気にすんな。それよりここはもしかして……」


俺が入ったその店は、目的地の酒場だった。

中には店員すらおらず、閑散としている。

そんな酒場のバーカウンターに、彼がいた。


緑色の髪を後ろに撫で付けた、後ろ姿。

間違いない。彼が大泥棒だろう。

こちらを振り返りもせず、片手を上げ、くいくいと指を曲げる仕草。固茹で卵が好きそうだ。


呼ばれたようなので、そちらに向かう。


「ちょっと行ってくる。外で待っててくれ」

「了解〜気をつけてね〜」

「ふん。記憶が戻ったらひき肉にするからな」


ダルっ子は怠そうに、痛い子は物騒に退室。

これで酒場には、俺と大泥棒の2人だけ。

慎重な足取りで、歩み寄る。


記憶を取り戻すべく、俺は彼の背後に立った。

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