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けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第二部 やりなおし編
48/50

荷物見た?


 その日の夕飯は中華にした。

 祥太の仕事は夜から始まる。

 そのため、できるだけ夕食は手作りの物を用意して出かけるようにしていた。

 チャーハンと市販で購入した餃子、それから卵のスープと野菜サラダに大根とニンジンに甘めの酢ダレで和えたものを用意した。

 自分は17時頃に軽く食べるとテーブルにメモを残し、冷蔵庫と電子レンジにおかずを入れて出かける支度をする。

 バーテンダーになると決めてから、料理もいろいろ作るようになった。

 フードメニューで個人的に好きなのは、手作りグラタン、ホットサンド、バターを乗せて焼くだけの焼きリンゴだ。どれもシンプルだけど美味しい。

 祥太は個人的にグラタンが好きだった。

 茂樹のレシピは本当に美味しい。

 今度、宏人にもグラタンを作ってやろうと思う。

 今日の餃子は市販のだけど、宏人と休みがかぶれば一緒に料理とか作りたい。

 料理をしている時、美味しくできたらいいなといつも思って作っている。


 家を出てちょうどいい時間にバーに到着した。

 すぐに掃除と果物と酒類の在庫チェック、いつもの作業をし始めた。

 指さし確認をして、制服に着替えると気持ちを切り替える。


 バーテンダーの制服は黒いベストに蝶タイで、祥太も蝶タイを初めてつけた時はなんとなくくすぐったい気持ちになった。

 バーにはバーテンダーが二人いる。

 茂樹とオーナーの直矢だ。

 今日はもう一人のバーテンダー、オーナーの直矢だった。

 彼は今年40歳になるが、見た目より若く見える。

 直矢の祖父から譲り受けた店だそうで、店自体は昔からここにあり、揃えられている家具も大切にされてきた。

 店内は落ち着いた雰囲気でセンスがいい。

 バーは少し薄暗いので、足元を照らす照明がついていたり、カクテルを作るときにお酒の調合するためのピンスポットライトを当てて演出したりと工夫されている。

 穏やかな空間には静かなジャズ音楽が流れていて、バーに入れば別空間のひと時を過ごすことができる。

 直矢もあまりお酒は飲まないが、勧められると、ウイスキーは飲んでいる。

 当然だがバーテンダーは味見をしなくても、客を感動させる技術があるのだから尊敬する。

 未成年の祥太にはまだまだ先のことだが。


 無事にその日も仕事を終えて、家に戻るとドアを開けて中が真っ暗なのを確認した。 

 宏人は眠っているようだ。

 パジャマに着替えてテーブルの脇を通ると、祥太の名前で届いた宏人の荷物の封が開いてそのままテーブルに置かれていた。

 明日、箱を片付けようと思い、布団に入った。

 宏人の方へ背中を向けてほっとする。よく眠っているようだ。

 自分も寝てしまおうと思った。その時、後ろから手が伸びて背中越しにぎゅっと抱きしめられた。


「……え?」


 起きているのか? と思って振り向こうとしたが、がっちりと抱きつかれて動けない。


「ひ、宏人?」


 小声で名前を呼ぶと、宏人が耳元で囁いた。


「お帰り」

「ごめん、起こした?」

「僕、明日、午前中は講義がないから待ってたんだけど、あやうく寝てしまいそうだったよ」

「寝てよかったのに」

「僕の荷物見た?」

「荷物って? あ、あれか。見ないよ。宏人、なんで俺の名前で注文したんだ?」

「だって、ここの住所って祥太名義でしょ。僕が買い物をしたら、祥太の名前とは別に僕の名前も書かないといけないから、めんどくさくて」

「別にいいけど。ひとこと言ってくれよな。開けたらまずいだろうし」

「でもよかった。届くのが早くて」

「ん? ああ……」


 よく分からないが、抱きしめられるとドキドキした。


「あ、あのさ、少し離れてくんない?」

「祥太、だいぶ大きくなったよね。肩幅とかがっしりしている」


 首筋を嗅がれてぞくっとする。そう言えば、シャワーを浴びていないし、やめてほしい。


「宏人、明日の朝、話をしようぜ。俺、もう眠いよ」

「んー。少しだけ。せっかく新商品が届いたから祥太で試したいんだ」


 そう言って、宏人がごそごそと頭上に手を伸ばして小瓶を祥太の目の前に突き出した。


「何それ?」

「潤滑ジェル。痛いのは嫌でしょ」

「は?」

「僕、前にも言ったけど、男の人は祥太が初めてだから、僕も痛いのは嫌だし、試しに買ってみたんだ」

「一体何の話を……」

「だって、祥太を抱くのに必要でしょ」


 祥太は絶句した。

 しばらく声を出せず、少ししてごくん、と唾を吞んだ。


「は……?」


 祥太は思わず声を上げそうになって口を押させた。

 いや、落ち着こう。

 いつもこうやって宏人と言い合いをして、話が嚙み合わなくてうまくいかなかったのだ。

 落ち着け、俺。


 祥太は大きく息を吸った。

 相手は宏人だ。

 小学校、中学校と一緒で、今は、こ、恋人? 友だち? の関係で見知らぬ他人じゃない。

 祥太は自分の腰を抱きしめている宏人の手に、自分の右手を添えた。

 宏人がびくっとする。


「わ、分かった。でもさ、宏人、今日は待ってくれ。シャワーを浴びたいし、俺は今日は特別、疲れてる」

「じゃあ、明日の朝でいいよ」


 明日の朝って……。

 日が昇ってめちゃくちゃ明るい部屋で?

 それは、それだけは勘弁してほしい。


「俺、明日、仕事休みだから、明日の夜は?」

「明日、仕事休みなの? そうなんだ……」

「俺さ、宏人の大学に行ってみたいと思ってたんだ。前に言ったろ? 授業を受けてみたいって」

「そうだね。分かった。祥太の言うとおりにする」


 それを聞いてほっとした。


「後さ、ついでに壁時計が欲しいんだ。部屋につけない?」


 宏人の意識を別の方向へ変えたくて、しゃべり始めると自分たちは会話が全然足りなかったのだなと気づいた。


「宏人」


 祥太がくるりと体の向きを変えると正面から宏人を見た。

 宏人がちょっとだけびっくりしているのが分かった。

 顔が近くて祥太はドキドキしながら、宏人の頬を両手で包んだ。


「明日、デートしようぜ。お昼も大学で一緒に食べたい」

「う、うん」

「もう寝よう。俺、本当に疲れちゃった」


 安心すると何だか眠くなってきた。

 宏人が何か話しかけた気がしたが、聞こえなくて、祥太はそのまま眠ってしまった。



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