祥太の職場
バーでいつものように、勘定を払い終えたお客様にお礼を言うと、常連さんに髪型のことを言われた。
その頭、いいね、とからかわれる。
ちょっと子どもみたいでしょ、と答えると、子どもだからね、と返された。
中学や高校の時はムキになって思わず言い返した頃もあったが、うまく受け答えできるようになった。
何組かのお客様が出て数分してから、バーの重たい扉がゆっくりと開いて、二人の女性が入ってきた。
「いらっしゃいませ」
茂樹の穏やかな声がお客を迎え入れる。
祥太がすぐに二人の元へ行き出迎えた。
「いらっしゃいませ」
「あ、予約していました」
すぐに予約席へ案内する。
お酒などを並べているバック・バーが見えるカウンター席で、バーテンダーのカクテルを作っているところが見たいというお客様だった。
初めてのバーで、口コミで茂樹さん目当ての人だと思われた。
女性二人は席に案内した祥太を見て、ニコッと笑った。
「あの、あなたは未成年ですよね」
「は? あ、は、はい」
いきなりのこの質問にも慣れている。仕方がない。祥太はまだ19歳なのだから。
「友だちから聞いて、かわいい男の子がいるって聞いたものだから」
祥太は面食らってしまった。これは滅多にない。
茂樹ではなく、自分目当てのお客だった。
バーテンダーの仕事が終わるのは遅い時間だ。
当然、直矢の店も同様で、店を閉めて出るのは夜中の2時頃で、これでもバーの中では早い方だ。
その日も茂樹と一緒に店を閉めて鍵のチェックをしてから帰路についた。
茂樹はお店ではお酒は飲まないバーテンダーで、お客様から勧められても、お酒に弱いからと丁寧にお断りをする。
今日の二人組の女性客が祥太を知っていたのは、専門学校の時のクラスメートから聞いて来たらしかった。
当然、祥太は未成年なのでお酒を口にしたことはない。
未成年でも、親や店側の許可があればバーで働くことはできる。
女性客から誕生日はいつかと聞かれたが、来年には20歳になるので、また、いつかその時に来てくださいとやんわりと伝えた。
茂樹のマンションもバーからの徒歩圏内に住んでいる。
終電は出てしまっているため、祥太は今住んでいるアパートに引っ越す前は、自宅から自転車で通っていた。
茂樹とは途中で別れて、暮らしているアパートに着いた。
静かに音を立てずに階段を上がる。
できるだけ静かに部屋の中に入ると中は真っ暗だった。
宏人は寝ているようだ。
部屋に入り、バッグを置くとそのままユニットバスに入って手を洗い、口も磨いて顔を洗う。そこで、パジャマに着替えてからすぐ寝るようにしていた。
シャワーは朝入ればいいし、できるだけ早く横になるように意識していた。
バスルームから出ると、水を一杯だけ飲んだ。
壁に横付けされたベッドへ寄り、そっと宏人の隣に体を滑り込ませてほっとした。
目を閉じて、ゆっくり息をする。
横になると、今朝というか夕べのことを思い出した。
宏人が自分に触れたいと思っていたなんて、思いもしなかった。
会わなかった高校三年間。
きっと、宏人にとっては当然の行為で、これまでもいろんな女の子に触れてきたんだろう。
そう思うと胸がチクッとした。
比べちゃいけない。
そもそも、宏人は女の子を好きになるタイプなのに、自分から声をかけてこちらの方へ引き込んでいるのだ。もし、宏人に好きな子ができたら。
その時は覚悟しておこう、と今から考えている。
ずっと一緒にはいられない事くらい分かっている。
その時、宏人が寝がえりを打って彼の手が自分の肩に触れた。
祥太はびくっとして、宏人を見た。
よく眠っている。
ちょっとだけと思って、頬に指先を当ててみた。
すると、宏人がくすぐったそうに顔をかすかに動かして、眉をしかめた。
祥太はクスッと笑って手を引っ込めると布団を引き寄せてそのまま眠った。




