気持ちが追い付かない
何をされるのだろう。
ドキドキしながら顔を背けていると、宏人が何もしてこないのでそっと見上げて見た。
すると、じいっとこちらを見ている目を合う。
「祥太……」
「な、なんだよ」
「そんなに僕に触られるの嫌なの?」
「え?」
嫌とかじゃなくて、心の準備もできていないしそれに順序がめちゃくちゃな気がする。
「僕の事、本当に好きなの?」
「す、好きだよっ」
「じゃあ、触るよ」
「ちょ、ちょっと待って。まだ心の準備ができてないからっ」
祥太が焦って言うと、はあっと宏人がため息をついた。
「分かったよ。じゃあ、また今度にする」
そう言うなり宏人はくるりと背中を向けてしまった。
「あ……」
背中を向けられて祥太はいたたまれない気持ちになった。思わずその背中に声をかけていた。
「あ、あの……ごめんな」
「何が?」
自分は何を謝っているのだろう。
すると宏人がくるりとこちらを向いて、祥太の顔を見た。
やっぱり何を考えているか分からない表情をしていた。
「気にしていないから。もう寝よう」
「うん……」
宏人はこちらを向いたまま目を閉じた。
寝顔を見ているとドキドキした。
いつか、宏人の望む形で付き合うことができるようになるだろうか。
ぼんやりとその顔を見つめているうちに、気づけば眠ってしまっていた。
朝、目が覚めた時、気づけば宏人のすぐそばで眠っていた。
最初、あれ? と瞬きしながら、部屋があまり明るくない事に気づく。
やっぱりカーテンがあるっていいな、と思った。
すっかり目が覚めてしまったので、宏人を起こさないようにして起きようと思った。
朝食は簡単でトーストとコーヒーにする。
自分の分を用意して食べていると、宏人が目を覚ました。
「あ、お、おはよ」
「おはよ……」
宏人は何でもないように言って、バスルームに入り顔を洗って出てきた。
「お腹空いた。僕も何か食べたい」
「パン、焼くよ」
「二枚ほしい」
「分かった」
宏人が座ってあくびをしている。
祥太は、宏人の分までインスタントコーヒーを入れてあげるとテーブルに置いた。
ありがと、と宏人がお礼を言う。
トーストも出すと宏人が食べ始めた。
先に食べ終えた祥太がキッチンで食器を洗っていると、宏人が思い出したように言った。
「祥太、今日は仕事だよね」
「うん。だから、夜は先に寝ていいよ」
「分かった」
祥太は洗いものをしながら、もっと朝食にいろいろ食べたほうがいいなと思った。
これだけじゃ少なすぎる。サラダとヨーグルトとか、それとスープと果物も増やそう。
茂樹なら、きっときちんとしているはずだ。
祥太は、直矢と同居している茂樹を特別に思っていた。
いつも笑顔で優しくて、料理もうまい上にお客様に出すカクテルも要望に応えてすぐに新作をつくってしまう。
気が付けば、ぼんやりと茂樹のことを考えていて、宏人が背後に立っていたことに気づかなかった。
「祥太」
耳元で声をかけられてドキッとする。
手が滑って、洗っていたマグカップがシンクに落ちた。ちょうど宏人がマグカップを置いていて、二つが当たって割れてしまった。
「あっ。わりぃ、宏人のカップ割っちゃった」
「別にカップはいいけど、祥太は怪我しなかった?」
宏人が腕を伸ばして、割れたカップを取ってナイロン袋に入れた。
「カップなら、僕が学校の帰りに新しいの買ってくるよ」
そして、冷蔵庫に貼ってあるゴミカレンダーを見ながら、ガラス、陶器類は水曜日か、とぶつぶつ呟いた。
「あ、祥太、生ごみ出すの今日だから。捨てるの、忘れないようにしないといけないね」
時間を見ると、8時少し前だからぎりぎりだ。祥太は、ほうっと息をついた。
「宏人ってしっかりしてんだな、意外と」
「家を出たんなら、これくらいのことは当たり前だよ?」
宏人が呆れたように言った。




