告白
髪の毛を乾かしてくれる宏人の手つきは優しく、気持ちがよくて祥太は思わず目を閉じた。
時々、その指が耳をかすめるのが分かる。
くすぐったくて、少しだけ身をよじると宏人が気づいて手を止めた。
「ねえ、祥太」
「へ?」
目を閉じていた祥太は少し驚いて目を開いた。
「聞きたかったんだけど、どうして僕と一緒に住もうって言ったの?」
「え? あ、うん……」
いつか聞かれるだろうと思っていた。
祥太は、背後の宏人を感じながらドキドキして答えた。
「宏人と離れていた分を取り戻したかったんだ」
「ふうん……。じゃあさ、今祥太にキスしたいって言ったら、どうする?」
「えっ」
びっくりして振り向くと宏人と目があった。
その顔は無表情で心臓がドキンとした。
「僕たちの関係って何? 友だち? 僕、振られたんだよね。さよならってそう言う意味じゃなかったの?」
「俺……」
宏人はじっとこちらを見つめている。
「宏人が好きだ」
「へえ……。じゃあさ、キスしてあげよっか。僕、今はフリーで誰とも付き合っていないんだよね」
「は?」
祥太はぽかんと口を開いた。
キスしてあげよっかって、何?
「僕は祥太のことが大好きだったよ。押し倒したいほど大好きだった。でも、あの時の気持ちはもう忘れた。今は友だちだと思っている。一緒に住もうって言われて承諾したのは、ここからだと大学まで近いし、便利だと思ったから」
宏人の日本語がなんだかおかしい。
祥太の質問には答えてくれていないと思った。
「宏人は、俺のことが好きなのか? 嫌いなのか?」
「好きって答えてるんだよ」
宏人が苦笑する。
祥太は自分がバカなのは知っている。
周りからは読解力が足りないとよく言われた。
その時、そっと伸ばされた腕に後ろから抱きしめられて、頬が近づくとそっと唇をついばむようにキスをされた。
一瞬過ぎて呆然とする。
「い、今キスした……」
「これくらい普通でしょ」
宏人はクスッと笑って、抱きしめる腕に力が入る。
祥太は思わず、宏人の腕から逃げ出した。
宏人が顔をしかめた。
「なにげに傷つくんだけど……」
「あ……。ご、ごめんっ」
「祥太、証拠を見せてよ。僕のことが好きだって言う」
宏人の言葉に唾を飲んだ。
証拠と言われても。
いきなり過ぎて、心の準備ができていない。
祥太はバーテンダーになることだけを考えて突き進んできた。
一人前になりたくて、宏人といつか二人で暮らしたいって。
それだけを目標にしてきた。
いきなり、証拠を見せろって、どうしたらいいのか。
とりあえず、拒否とか嫌だとか、あの日と同じことだけは繰り返さないと決めていた。
祥太は、宏人と向き合うと彼の手を取ってぎゅっと握り締めた。
「……何してんの?」
「証拠……」
「ふざけてんの?」
「ふざけてない」
「はあ……」
宏人が大きく息を吐きだした。
「まさか、祥太ってまだ童貞なの?」
童貞と言われると、カーっと恥ずかしさに体が熱くなる。
「わ、悪いかっ」
「めんどくさいな……」
「はあっ?」
「祥太、ちょっとここに寝てよ」
「何するんだよ」
祥太が身構えると、宏人が顔をムッとする。
「祥太は本当に僕が好きなの?」
「う……」
好きだよ……。
ごにょごにょと答えたが伝わっていない気がした。
「僕と付き合いたいなら、体も込みってことだからね。体に触るなって言うんなら出て行くよ」
「そんな……」
少しずつでいいのに、こんなにいきなりだとまいってしまう。
「とりあえず、祥太寝てみてよ」
「……分かった」
言われた通りベッドに横になった。
緊張で息をするのを忘れそうだった。
宏人がゆっくりと祥太の上にまたがった。
がっちがちに固まっている祥太を見てため息をつく。
「そんなに身構えなくても……」
呆れられている。
何だか惨めな気持ちになって、そっぽを向いた。




