見ないふり
朝食兼昼食を食べ終えると鍵を持ってアパートを出た。
ワンルームにキッチン、ユニットバスのアパートは、男二人が暮らすには狭すぎるかもしれない。
けれど、祥太にとって描いていた夢の一つだった。
階段を降りて駅の方へ向かう。
カーテンを売っている量販店は、三つ隣の駅だ。
電車に揺られていると、チラチラと斜め前の女の子がこちらを見ている気がした。自分と年が近い。大学生くらいに見えた。
この間、髪を短く切ったら、19歳なのに中学生のような頭になってしまったと思っていた。
やっぱりおかしいかな。少し恥ずかしい。
自分も宏人のように落ち着いた髪型にしたいと思った。少しうつむいて目を逸らし、目的の駅で電車を降りた。
10分ほど歩くと、目当てのお店が見えた。
宏人の好きな色は紺色だったと思う。自分は水色が好きなので、混合色でもあったらなと探す。
カーテンもいろいろあって、遮光カーテンを見つけた。
二階の端部屋だけど、たぶん外の明かりが少し気になりそうなので、少し高いけど遮光カーテンを選んだ。
気に入ったカーテンが見つかり、店を出た。宏人が喜んでくれたらと思う。
ついでに机も見たかったが、実家から持ってきたテーブルで間に合っているし、もし、買うのなら宏人と相談したかった。
気づけば、もう15時を回っている。
夕ご飯の用意もしたかったので、材料を買って帰ろうと思った。
引っ越しをしてから数日たった。
実家から細々した物を持ってきたので助かった、と改めて思う。
家を出るって大変だな。
夕飯の材料を買って家に帰ると、宏人が帰っていた。
鍵が開いていて、ドキリとして息を大きく吸った。平常心を装う。
「た、ただいまっ」
「おかえり。どこに行ってたの?」
宏人が小さなテーブルにパソコンと大学ノートを広げていた。
「カーテン、買ってきた。夕べ、外がまぶしいって言ってたろ」
「え。あ、ありがと……」
トートバックからカーテンを取り出して取り付けようとすると、宏人が立ち上がって手伝ってくれた。
祥太もずいぶん背が伸びて、175センチはある。宏人とそんなに変わらない身長だ。
「俺はもう、そんなにチビじゃないよ」
カーテンレールに手が届くのだから、大丈夫だよと言ったが、宏人は無言で手を伸ばした。
無事にカーテンがつくと、部屋が落ち着いた気がして嬉しい。
「カーテン、一番に買うべきだったな」
「祥太が選んだの?」
「おう」
「一人で?」
「当たり前じゃん」
何言ってんだ? と思う。
「だって、祥太、専門学校の友だちがたくさんいるから」
「そうか?」
専門学校の生徒はほとんどが20歳以上なので、18歳から通っている未成年は珍しいらしい。だから、年上にはよく可愛がられた。
春になったから気分転換に髪を短くしたら、よく似合っていると言われるが、からかわれているだけだと分かる。
「僕、お茶淹れるから、おやつ食べようよ」
宏人はそう言うと、ケトルに水を足してお湯を沸かし始めた。
宏人に任せて、祥太はフローリングに座るとテーブルに広げられた本を見た。
将来どんな仕事をしたいのか分からないけど、パソコン関係の本に見える。自分には難しい。
宏人は頭がよくて進学校に通っていたし、理系に進んだと聞いた。
とにかく自分とは頭の出来が違うのだ。
勉強の邪魔はしたくない。
すると、本の中にフリーペーパーのバイト情報誌がちらりと見えた。
バイトするのかなと思ったが、あんまり干渉しないようにと思っていたので、見なかったふりをした。




