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戸惑い



 祥太は戸惑った。どちらが本当の事を言っているのだろうか。


「瑞穂の事…まだ好きなのか?」

「好きだよ」


 宏人が当たり前のように答える。

 祥太の胸がずきりと痛んだ。


「なら、もう一度告白したら? あいつ宏人の事、好きだと思うし……」

「無理だよ。さっき言ったろ? 振られたって。もう終わったの」

「それでいいのかよ…」


 声を震わせると宏人が顔を上げた。


「いいって?」

「好きなら、こんな所にいないで、あいつの所に行けばいいじゃないか」

「祥太の方がいいって言ったらどうする?」


 宏人がイタズラっぽく言った。


「え?」

「瑞穂より祥太の方が好きなら、ここにいてもいいの?」


 祥太は唇を噛んだ。宏人は意地悪だ。

 瑞穂の事が好きだと言いながら、今度は祥太の方が好きだという。

 どちらが真実か検討もつかない。


「兄ちゃんが、もうお前とは会うなって」


 話を変えると宏人が体を離した。


「え? な、何それっ」

「その方がいいか? 俺の事嫌いなんだろ」

「嫌い? 僕が祥太を? まさか…」

「だって前に言ってたじゃないか。許さないって。俺の事、許せないんだろ? だからこんな風に意地悪ばっかするんだろ? 俺、どうしたらいいかわかんないよ」

「祥太……」


 宏人がおろおろと手を伸ばした。祥太はその手を払った。


「どうしても許せないなら、もういいよ」

「いいって? いいって何がいいの?」


 宏人の声は泣きそうになっている。祥太も一緒に泣きそうだった。


「俺、宏人の事好きだって気付いたのに、許してもらえないんじゃ、どうする事もできないよ…」

「好き…って? えっ?」


 宏人が目を瞬かせた。


「僕の事好きなの?」


「好きだよ」

「それってどういう好き? 友だちとかじゃないよね」

「違うよ……」


 祥太は視線を逸らすと、指先を弄った。


「愛してるよ……」


 ぼそりと言うと、宏人が、ええーっと大げさに声を上げて口を押さえた。


「宏人、声がでかい。お母さんたち下にいるんだぞ」


 祥太がシーッと人差し指を口に当てた。

 宏人は口を押さえると声のトーンを落とした。


「ゴ、ゴメン。でも、それ、嘘じゃないよね」

「嘘じゃねえよ」


 ツンと横を向くと、信じられない……と宏人が呟いた。


「何だってっ?」


 ムッとして宏人を見ると、彼は目を潤ませていた。


「わっ」


 いきなり宏人は祥太に飛びつくと、ベッドに押し倒した。

 前と同じようなシチュエーションで、祥太はびくりと身を硬くした。


「祥太?」

「……宏人、お前、怖いんだよ」

「え?」

「もっと優しくしろよ……」

「う、うん……」


 我に返り祥太を抱き起こす。


「ごめん」

「俺も……。本当は謝りたかったんだ。あの日、お前すごく怖かった。俺、何が起こったか分からなかったし、宏人が別人に思えてびっくりした。キスだって息ができなくて苦しかった」

「ご、ごめんね、祥太」


 宏人が真っ青になって口を震わせた。


「いいよ。俺もひどい事を言った。ごめんな」

「うん……」


 顔を上げると宏人が見つめていた。祥太はそっと目を閉じて宏人の口にキスをした。

 ほんのちょっとだけ、触れる程度の可愛いキスだ。

 宏人が目を丸くする。


「し、祥太っ?」


 パクパクと口を開ける。


「これでおあいこな」


 照れくさくて笑うと、我慢ができないように宏人がまた飛びついた。


「だから、お前、勢いがよすぎっ」

「だ、だって、祥太がこんな事するから」


 ぐったりと疲れたように祥太の肩に顔を埋める。




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