茂樹のマンション
午後のホームルームが終わり、部活に行き、がむしゃらに練習をしてから制服に着替えた。
家に帰ろうとしたけれど、足が動かなかった。祥太の足は駅に向かっていた。電車に飛び乗る。向かっているのは茂樹のマンションだった。
顔を見るだけでいい。少しでも家に帰るのを少しでも遅らせることができるなら。そして、しびれを切らして宏人が家に帰ってくれるなら。
祥太は電車のドアにもたれて、過ぎて行く街並みを眺めた。
いつの間にか、薄暗くなっている。
何も言わずに逃げている自分が悪いって分かっている。けれど、どうしても今日は宏人に会いたくなかった。
マンションについた時、夜は仕事があるという茂樹の言葉など、忘れてしまっていた。
エントランスで運良く出てきた住人とすれ違って、中に潜り込む事ができた。エレベーターに乗り込み、部屋の前に来てはたと立ち止まる。
どうしよう。勢い余ってここまで来てしまった。
制服のままでは目立つのは分かっていたが、手を伸ばしてチャイムを鳴らした。しばらく待つと、インターホンから声がした。
『はい』
低い声は茂樹のものではなかった。
「あ……」
一瞬、言葉を失う。茂樹は独り暮らしだと勝手に思い込んでいた。
「あの……、茂樹さんはいますか?」
『茂樹なら仕事に行ってる。誰?』
何を言うべきか迷っていると、オートロックが外されドアが開いた。
「あ」
知らない男性が出てくる。背が高くて見上げなくてはならない。祥太は思わず、一歩後ずさりした。
「ああ」
男は祥太を見て、目を細めると、ドアを開けた。
「入れよ」
「あ、でも……」
「心配するな、裕一の弟だろ」
「兄ちゃんを知ってるんですか?」
「まあな」
兄を知っているという言葉を聞いて、警戒を解いてしまい、祥太は中へ入った。




