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けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第一部 中学生編
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茂樹のマンション


 午後のホームルームが終わり、部活に行き、がむしゃらに練習をしてから制服に着替えた。

 家に帰ろうとしたけれど、足が動かなかった。祥太の足は駅に向かっていた。電車に飛び乗る。向かっているのは茂樹のマンションだった。


 顔を見るだけでいい。少しでも家に帰るのを少しでも遅らせることができるなら。そして、しびれを切らして宏人が家に帰ってくれるなら。


 祥太は電車のドアにもたれて、過ぎて行く街並みを眺めた。

 いつの間にか、薄暗くなっている。

 何も言わずに逃げている自分が悪いって分かっている。けれど、どうしても今日は宏人に会いたくなかった。


 マンションについた時、夜は仕事があるという茂樹の言葉など、忘れてしまっていた。

 エントランスで運良く出てきた住人とすれ違って、中に潜り込む事ができた。エレベーターに乗り込み、部屋の前に来てはたと立ち止まる。

 どうしよう。勢い余ってここまで来てしまった。

 制服のままでは目立つのは分かっていたが、手を伸ばしてチャイムを鳴らした。しばらく待つと、インターホンから声がした。


『はい』


 低い声は茂樹のものではなかった。


「あ……」


 一瞬、言葉を失う。茂樹は独り暮らしだと勝手に思い込んでいた。


「あの……、茂樹さんはいますか?」

『茂樹なら仕事に行ってる。誰?』


 何を言うべきか迷っていると、オートロックが外されドアが開いた。


「あ」


 知らない男性が出てくる。背が高くて見上げなくてはならない。祥太は思わず、一歩後ずさりした。


「ああ」


 男は祥太を見て、目を細めると、ドアを開けた。


「入れよ」

「あ、でも……」

「心配するな、裕一の弟だろ」

「兄ちゃんを知ってるんですか?」

「まあな」


 兄を知っているという言葉を聞いて、警戒を解いてしまい、祥太は中へ入った。



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