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けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第一部 中学生編
35/51

遅刻

 翌日、二日酔いもなく目が覚めたが、あまりに泣きすぎて目が腫れていた。

 鏡を見て、ショックを受けた祥太だったが、隠すこともできず顔を何度も洗って、できるだけ下を向いて過ごそうと思った。

 いつもの時間に玄関を出ると、宏人が待っていた。


「おはよう。祥太」


 たぶん、宏人は迎えに来てくれるだろうと思っていた。

 心構えしておいてよかった。


「おう、おはよう」


 できるだけ下を向いて笑う。宏人が心配そうに言った。


「昨日はごめん。僕が間違ってお酒なんか運んだから」

「宏人は何も悪くねえよ。勝手に飲んだのは俺だから」

「もう、大丈夫?」

「うん」


 祥太はそう言いながら、宏人が、自分に合わせてゆっくりと歩いてくれているのに気づいた。

 なぜこうまでして、宏人が一緒に学校へ行こうとしているのか、祥太には全然理解できなかった。


「祥太の事、心配しているんだよ」

「はいはい」


 受け流すふりをしてから祥太が突然、あっと言って口を押さえた。

 宏人は驚いて足を止める。


「な、何、どうしたの?」

「俺、忘れ物したみたいだ」

「えっ、忘れ物?」

「うん。宏人、先に行ってろ」

「待ってるよ」

「いいよっ」


 祥太の体はすでに後ろを向いている。


「祥太? どうしたの何か変だよっ」

「そうか?」


 わざとおどけてにこっと笑った。


「ほら、これ以上遅刻するとやばいだろ。宏人はもう行けっ」

「祥太っ」


 慌てた様子で宏人の声がした。


「ねえっ、今日の夜、行ってもいい?」


 宏人の返事には答えずに祥太は家に向かって走った。

 顔を見る事ができなかった。このまま一緒にいたら、しんどくてたまらなかった。

 もし、今夜泊まりに来るのであれば、家に戻るつもりはなかった。


 

 家の近くまで戻ってから、ここまで来れば宏人にはばれないだろうと足を止める。


 学校へ行かなきゃ。

 そう思うのに、こんな顔を見られたらきっと竜之介はびっくりするし、春希にも心配させてしまう。かといって、学校へ行かなければどこへ行けばいいのか。

 それに部活だってある。


 祥太は顔を上げると、自然とまた足が学校へ向かっていた。できるだけ急いで学校へ到着すると、先生が門を閉めようとしていた。走っていくと、急ぎなさいと後ろから声をかけられた。

 遅刻ギリギリだ。ホームルームには間に合いたい。

 靴を履き替えて教室に飛び込むと、先生がすでに来ていて、みんながいっせいにこちらを向いた。先生が祥太を見て息を吐いた。


「まだ、名前は呼んでない。早く席に座りなさい」


 祥太はほっとして慌てて席に座った。

 遅刻しかけたのは初めてだったが、勇気を出してよかったと思った。


 昼休み、いつものように春希たちとお弁当を食べた。竜之介は祥太が遅刻しそうになったことを知らない。泣いた後の顔の腫れもしっかり落ち着いていたから、ばれないと思ったが、春希の方はそうはいかなかった。


「今日、遅刻しそうになったのは、何かあったからだよね」

「……え?」

「しらばっくれても無理だよ」


 春希が言うと、竜之介はふうっと息を吐いた。


「遅刻……?」

「そうだよ」

「祥太、なんでもええから言ってくれって俺、言ったよな」

「うん……」


 ごめん、と二人に謝った。けれど、どうしても宏人の言葉を二人に言うことはできなかった。


「言いたくなったら、いつでも言ってね」


 春希が言って、竜之介も無理に聞こうとはしなかった。

 うん、分かった、とそれしか言えなかった。

 

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