遅刻
翌日、二日酔いもなく目が覚めたが、あまりに泣きすぎて目が腫れていた。
鏡を見て、ショックを受けた祥太だったが、隠すこともできず顔を何度も洗って、できるだけ下を向いて過ごそうと思った。
いつもの時間に玄関を出ると、宏人が待っていた。
「おはよう。祥太」
たぶん、宏人は迎えに来てくれるだろうと思っていた。
心構えしておいてよかった。
「おう、おはよう」
できるだけ下を向いて笑う。宏人が心配そうに言った。
「昨日はごめん。僕が間違ってお酒なんか運んだから」
「宏人は何も悪くねえよ。勝手に飲んだのは俺だから」
「もう、大丈夫?」
「うん」
祥太はそう言いながら、宏人が、自分に合わせてゆっくりと歩いてくれているのに気づいた。
なぜこうまでして、宏人が一緒に学校へ行こうとしているのか、祥太には全然理解できなかった。
「祥太の事、心配しているんだよ」
「はいはい」
受け流すふりをしてから祥太が突然、あっと言って口を押さえた。
宏人は驚いて足を止める。
「な、何、どうしたの?」
「俺、忘れ物したみたいだ」
「えっ、忘れ物?」
「うん。宏人、先に行ってろ」
「待ってるよ」
「いいよっ」
祥太の体はすでに後ろを向いている。
「祥太? どうしたの何か変だよっ」
「そうか?」
わざとおどけてにこっと笑った。
「ほら、これ以上遅刻するとやばいだろ。宏人はもう行けっ」
「祥太っ」
慌てた様子で宏人の声がした。
「ねえっ、今日の夜、行ってもいい?」
宏人の返事には答えずに祥太は家に向かって走った。
顔を見る事ができなかった。このまま一緒にいたら、しんどくてたまらなかった。
もし、今夜泊まりに来るのであれば、家に戻るつもりはなかった。
家の近くまで戻ってから、ここまで来れば宏人にはばれないだろうと足を止める。
学校へ行かなきゃ。
そう思うのに、こんな顔を見られたらきっと竜之介はびっくりするし、春希にも心配させてしまう。かといって、学校へ行かなければどこへ行けばいいのか。
それに部活だってある。
祥太は顔を上げると、自然とまた足が学校へ向かっていた。できるだけ急いで学校へ到着すると、先生が門を閉めようとしていた。走っていくと、急ぎなさいと後ろから声をかけられた。
遅刻ギリギリだ。ホームルームには間に合いたい。
靴を履き替えて教室に飛び込むと、先生がすでに来ていて、みんながいっせいにこちらを向いた。先生が祥太を見て息を吐いた。
「まだ、名前は呼んでない。早く席に座りなさい」
祥太はほっとして慌てて席に座った。
遅刻しかけたのは初めてだったが、勇気を出してよかったと思った。
昼休み、いつものように春希たちとお弁当を食べた。竜之介は祥太が遅刻しそうになったことを知らない。泣いた後の顔の腫れもしっかり落ち着いていたから、ばれないと思ったが、春希の方はそうはいかなかった。
「今日、遅刻しそうになったのは、何かあったからだよね」
「……え?」
「しらばっくれても無理だよ」
春希が言うと、竜之介はふうっと息を吐いた。
「遅刻……?」
「そうだよ」
「祥太、なんでもええから言ってくれって俺、言ったよな」
「うん……」
ごめん、と二人に謝った。けれど、どうしても宏人の言葉を二人に言うことはできなかった。
「言いたくなったら、いつでも言ってね」
春希が言って、竜之介も無理に聞こうとはしなかった。
うん、分かった、とそれしか言えなかった。




