真実
「俺の高校、男子校だぞ。お姫様なんているわけないじゃん」
「だって、宏人が自分で言いふらしてんだもん」
「ひ、宏人が自分で?」
目をぱちくりさせる。
「あ、その仕草似てるかもー」
瑞穂がキャッキャッ言って祥太の肩を叩いた。
「あいつ、頭おかしいんじゃないのか?」
「今頃知ったのぉ? 宏人、どっから見ても変態よ。自分の事、王子様だって言いふらしてさ、バッカみたい。でも、かっこいいから好きなんだよね…」
瑞穂の消え入るような声は祥太には届いていなかった。
宏人の頭がおかしかったなんて、知らなかった。
出来のいい学校に行ったし、背も高くてがっしりしていて女子に人気があって……。
宏人の事を思い浮かべながら、そう言えば瑞穂も同じ高校なんだよなと思った。
「瑞穂も東高なんだよな」
「うん。あたし、勉強はよくできるの。頭いいのよ」
とまるで、自分は天才であるかのような口ぶりで答えた。
「ふうん……」
上の空でそれを聞き流し、東高校って変態が集まる学校だったのだなと気が付いた。
「帰ろうかな…」
「うん……」
一体何をしにここに来たのか分からなくなりそうだったが、瑞穂と宏人が破局に終わった事だけは分かった。
「ごめんな」
祥太が謝ると、
「そうじゃないでしょ」
と瑞穂が怒った。
「え?」
「自分でよく考えてっ」
むにっと頬をつままれて祥太は顔をしかめた。
「いってえな」
「これくらいの仕返し、いいじゃない」
瑞穂を見送ってから祥太は電車に乗った。電車に揺られながら、こんがらがる頭をすっきりさせようとしたが、無理だった。いくつかの単語が頭の中にこびりついている。それらが一つに繋がるのだろうが、祥太にはそれが難しかった。
「兄ちゃんに聞いてみよ……」
それだけで解決できたような気がして、祥太は急いで家に帰った。
「兄ちゃん、ちょっといい?」
ケンカした事も忘れてドアをノックすると、兄がドアを開けた。
「どうした?」
裕一もまたケンカした事を忘れたかのような口ぶりで祥太を部屋に入れた。
「相談があるんだ」
そう言うと、裕一は嬉しそうな顔をして、座れよとベッドに促した。
「何だ? 祥太が俺に相談なんて珍しいな」
隣に座って顔を近付けて来る。よほど嬉しいのだろう。
何から話せばいいのか分からなかったが、宏人の事を好きだと言う事を伝えたかった。
「兄ちゃん、俺さ、宏人が好きなんだ」
「うんうん。えっ?」
相槌を打っていた兄は目を丸くした。
「す、好きなのか?」
「うん」
「でも、お前、宏人を振ったんだろ?」
「振ったというか、あれはその……」
はっきりとしない祥太を見て、裕一は顔をしかめた。
「気持ち悪いとか言われたって、宏人に聞いたぞ」
「うん…」
祥太は顔を伏せると、中学の時の話をした。
話していくうちに裕一の顔は引きつり、しまいには顔を真っ赤にさせてベッドから立ち上がった。
「なっ、じゃ、じゃあ、あの日の傷は無理やり宏人に押し倒されてできた傷なのかっ」
「で、でもっ、もう昔の事だよ」
兄が怒っているので祥太は焦った。
「昔なわけがあるかっ。まだ半年も過ぎていないっ」
裕一は激怒すると、祥太を睨み付けた。
「祥太っ、二度と宏人に近付くなっ」
「え……? えーっ」
祥太も立ち上がる。
「な、何でっ?」
「何でもクソもあるか。当たり前だろ。お前を傷つけるような男に近付けさせるかっ」
「兄ちゃん、宏人だよ。宏人はそんなひどい事、絶対にしないよっ」
「したから怒っているんだ。くそっ。あの時もっと詳しく聞いておくんだった」
裕一はこぶしを握ると唇を噛んだ。