離ればなれ
「何で嘘なんかつくんだよぉ」
半泣きになって見上げると、瑞穂はゴメンねと小さな舌を出した。
「だって、ああでも言わなきゃ、祥太来てくれなかったじゃん」
図星なので祥太は言葉に詰まった。
「そ、それで、どこに行くんだ?」
ぶっきらぼうに言うと、瑞穂は嬉しそうに腕を絡めてきた。
「アイスクリームおごってよ」
「あ、ああ」
騙されてここまで来た手前、怒って帰るというのもかっこ悪い気がした。
普通おごってもらう方が筋のような気がしたのだが、何だか瑞穂が元気のないように見えたので、あまり責めるのはかわいそうな気がした。
祥太はバニラを瑞穂は苺味を頼んだ。
「ありがとう」
「いいけど……」
甘い物を食べていると、何となく気が抜けてきた。
そう言えば、俺、学校サボって学ラン着て茂樹さんの家に行ったんだよな。と考えてからはたと気付いた。
「お前、学校は?」
自分の事は棚に上げて訊ねると、
「サボった」
と瑞穂は平然と言った。
「祥太だってサボってるじゃない」
クスクス笑っているが、目が笑っていない。
「どうかしたのか?」
コーンを齧っていた祥太が聞くと、瑞穂はうーんと唸ってから、
「振られちゃった」
と言った。
「へ?」
コーンを噛み砕くのを忘れて喉に詰まった。
「んん…っ。く、苦しいっ」
「ほら、これ齧りなよっ」
瑞穂が慌てて食べかけの苺を差し出した。
祥太は甘い苺を口に含んだ。
「ふう……」
ほっと息を吐くと、瑞穂が呆れたように自分を眺めていた。
「やだなあ」
独り言を言ってから再びアイスクリームを舐め始めた。
交差点の脇に手すりに、二人は腰かけていた。
交番がそばにあるのに、警察官は祥太たちにまったく気がついていないようであった。
誰に咎められる事もなく、二人は世間に見放されたように、黙々とアイスクリームを食べた。
「ね、あたしとつきあう?」
突然、瑞穂がこう言った。
「は?」
祥太は絶句して声が出ない。
「宏人、キスするの嫌いみたい」
ぽつりと呟いた。
祥太は胸がドキドキし始めた。
「え……?」
「キスくらい、普通付き合っていたらするよね」
「キス…していないのか?」
声が擦れる。
「してないよ」
祥太はいたたまれなくて顔を背けた。
瑞穂は足を組んで空を仰いだ。
「学校行きたくないな。宏人の顔見たくない」
二人の間に何があったのか。聞きたかったが、干渉できる立場ではない事は理解できた。
「ねえ祥太」
「な、何?」
祥太はなぜか自分がびくついていると思った。
瑞穂の顔をそろりと見ると、目があった。
カラーコンタクトを入れているのか、黄色の目をしていた。
「あんたとあたしって似てるよね」
「はあ?」
祥太は素っ頓狂な声を出した。すかさず首を振る。
「全然似てないよっ」
「顔じゃないの。雰囲気だよ」
「雰囲気?」
今日の瑞穂は、化粧は抑えてアイラインと口紅を引いただけだった。前より大人しい服装でジーンズを履いている。しかし、相手は女子。似ているわけがない。
「どこが似てるんだよ?」
「それを確かめたかったんだよね。仕草とか言葉遣いとかいろいろあるじゃない」
「でも、俺男だよ?」
「前に言ったでしょ。可愛いねって」
「だからそれやめろ。ムカツク」
「そう言うところかなあ」
瑞穂はじっと目を凝らして、祥太を見つめた。
「わっかんない」
ふうっと息をついた。
「もういいや」
「いいって?」
勝手に自己解決してしまった瑞穂に取り残され、祥太はわけが分からない。
「振られた事に変わりはないし。あたし、誰かの代わりって嫌なんだ」
「代わり……」
「宏人ってさ、王子様じゃん」
「王子様? 宏人が?」
バカにしたように言うと、瑞穂が顔をしかめた。
「知らないの?」
「何それ、あいつが王子様なわけないじゃん」
「離れ離れになった東高の王子様と星陵高校のお姫様って、有名よ」
「ぷっ。何それっ」
祥太は吹き出してからケタケタと笑った。