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「話に聞いていた以上に可愛いな。お前」


 この男に可愛いと言われると、なぜかムッとした。


「可愛いなんて言うな」

「怒った顔も可愛いよ」

「もう、帰るっ」


 思い切り立ち上がると、


「まあ、待てよ。お前、名前は?」


 と男が腕をつかんだ。


「祥太……」

「祥太か。お前にいい事、教えてやるよ。茂樹はホモで男しか好きにならないんだ」

「ホ、ホモ……?」


 ホモって男の人が好きな男の人の事?


 目を丸くしている祥太に男はニヤニヤと笑いかけた。


「気持ち悪いだろう」


「気持ち悪くなんか……」


 ない、と祥太は首を振った。


「ちなみに茂樹の恋人は俺だから邪魔すんなよ」

「へ?」


 祥太は目の前の男を穴が開くほど眺めた。

 かなりの長身だ。モデルみたいに手足が長く、わりと筋肉もついている。

 端正な顔をしていて、きりりとした眉に、切れ長の目は悪っぽく吊り上がっている。

 クールそうに見える目元だが、鼻筋が通っていて唇も薄く整っている。

 祥太の周りにはめったにいない。

 茂樹はこんな男が好きなのだろうか。

 祥太を引っくり返しても、絶対にこんな男にはなれっこない。

 祥太は唇を噛んだ。


「お、俺が愛してんのは宏人だもん。茂樹さんじゃないよっ」

「愛?」


 男がぽかんとしている間に祥太は部屋を飛び出した。

 戻って確かめなくても分かる。

 男は絶対に床に引っくり返って腹を押さえて笑っているに違いない。

 祥太は自分が吐き出した言葉に驚いていた。

 宏人の事、本当に愛していたんだ、と確信を持ってエレベーターの中でしゃがみ込んだ。


「くそ……っ」


 宏人の事を思うと、そばにいる瑞穂の笑い声が繰り返し、こだまする。

 そして、祥太を絶対に許せないんだ、と言った宏人の表情を想像した。

 祥太が今感じているこんな愛なんて、宏人にはきっと必要じゃない。

 いらないものを受け取るほど、宏人の心は広くないに決まっている。

 祥太は唇を噛んだ。

 気がつかなければよかった。

 こんなに辛いなら知らなきゃよかった。

 家までの道のりを、ずんずんと歩いていた祥太の携帯電話が鳴った。

 カバンの中で振動を繰り返し、マナーモードにしていた事を思い出した。


「もしもし……?」


 覚えがない番号だった。

 訝しく思って立ち止まった祥太が首を傾げた。


『祥太ぁ? ねえ、アイスクリーム食べに行こうよぅ』


 この声は瑞穂。

 祥太はぎくりとして思わずスマホを落としそうになる。


『ちょっとぉ聞いてんの?』


 相変わらず間延びした声である。


「聞いてる。お前、何で俺の番号知ってんだよ」


 むかむかしながら答えると、


『宏人の携帯を見たに決まってんじゃない』


 と悪びれもなく言った。


『それよりさぁ早く来てよ』

「え?」

『変な奴らに絡まれてんの。宏人いないし、あたし怖いよぉ』


 瑞穂の口調ががらりと変わり祥太は悪寒が走った。


「わ、分かった。今すぐ行く。場所はどこ?」


 瑞穂は案外近くにいる事が分かり、祥太は引き返して駅の改札をくぐった。

 運良く急行が止まり、一駅で目的の場所に着く。

 すぐさま飛び降り、駆け足で瑞穂が待つ場所に急ぐと、雑踏の中で瑞穂が優雅に誰かと電話をしていた。


「み、瑞穂…?」


 ぜいぜい言いながら瑞穂を見上げると、彼女はぽかんとした顔で祥太を眺めた。

 それから罰が悪そうな顔をすると、そそくさと電話を切った。


「早かったね」

「お、お前、絡まれてたんじゃ……」

「あ、あれは嘘」

「はあっ?」


 祥太は気が抜けたように、その場にしゃがんでしまった。





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