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けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第一部 中学生編
33/51

嫌われている

「ん……」


 ぼんやりと目を開けて、祥太はあたりを見渡した。


「あれ……?」


 いつの間にか自分の部屋にいる。ベッドで寝ていて、着替えはそのままだった。


「気持ち悪い……」


 急に込み上げてきた吐き気に祥太はゆらりと起き上がった。

 口を押さえて部屋を出る。壁に手をついてふらふらしながら歩いていたら、兄の部屋から話し声がした。

 茂樹さんかな、とそっと覗くと、裕一と宏人が話をしていた。


 何を話しているのだろう。

 祥太は気分が悪いと、兄に言おうと思った。部屋に入ろうとしたら、突然、兄が声を荒げたのでびっくりして目が覚めた。

 兄の気迫に驚いて思わず隠れてしまった。


「宏人、どうして彼女を連れて来たんだ」


 兄は怒っていた。宏人は肩を落として、うな垂れている。


「だって……」


 小さな声で聞こえなかったが、祥太はその場を動けなかった。


「だってじゃないだろ。お前、祥太がそんなに嫌いなのかっ」


 自分の名前が飛び出してどきりとした。宏人は黙ったままでいる。


「黙っていたら分からないよ。お前、高校に入って何か変わったな」

「祥太のせいだ」

「え?」


 兄が眉をひそめた。祥太は心臓が止まりそうなほど驚いた。


「僕、中学の時、祥太に告白したんだ」

「初耳だぞ……?」


 兄が驚いたように声をかすれさせた。


「裕一兄ちゃんは僕が祥太の事好きだって気付いていたでしょう?」

「まあな……」

「僕、祥太のそばにいたくて、好きだって言ったら……祥太に気持ち悪いって言われたんだ」


 気持ち悪い。その言葉を聞いたとたん、祥太はあの日の事を思い出した。

 気分が悪くなって吐きそうになり口を押さえた。


 確かに自分はそう言った。でも、それは宏人の事が怖かったからだ。

 あんな宏人を見たのは初めてだったから。


「そうだったのか……。だからってやり過ぎだぞ、お前」

「どうしても許せないんだ」


 聞いた事もないくらい怖い声だった。

 祥太は口を押さえたままがくがくと震えた。

 廊下にしゃがんだまま動けない。


「宏人……」


 兄がなだめるような口調で言う。


「あの時の祥太の言葉が忘れられない。僕の事を気持ち悪いって……。だから、祥太がちゃんと謝るまで僕は絶対に許さない」


 絶対に許さない。


 兄がその後何か言ったようだったが、祥太は離れようと静かにその場を離れた。


 そんなに嫌われていたなんて。

 全然、知らなかった。


 祥太は我慢ができなくなってトイレに駆け込んだ。

 一気に喉に詰まったものを吐き出す。


「うう……っ」


 喉がひりひりして、同時に涙が出た。

 苦しい。こんなに憎まれていたなんて、考えもしなかった。

 祥太は泣きながら便器のそばにうずくまった。


「ごめんっ。宏人っ、ごめん……」


 涙が止まらなかった。

 トイレから出て脱衣所で顔を洗うと、鏡に写る自分の目が真っ赤に腫れていた。

 その顔を見て苦笑する。泣いていた事はばれないようにしなきゃ。


 泣いてすっきりした祥太は、顔を数回叩いて脱衣所を出た。


「兄ちゃん……」


 廊下に出て祥太を探していた裕一と宏人は、祥太の姿を見てハッとした。


「祥太。大丈夫か?」


 兄が駆け寄ってきて額を撫でた。

 祥太は頷きながら宏人の方を見ると、彼はさっと顔を逸らした。

 祥太は胸がちくりとした。


「大丈夫か? 顔が赤いぞ」

「目が覚めたら気持ち悪くてトイレで吐いた」

「えっ? 大丈夫か?」

「うん……。吐いたら気分が楽になった。ねえ、何で俺寝ていたんだ?」


 祥太が不思議そうな顔をすると、裕一はほっとして祥太の頭を撫でた。


「覚えていないのか?」


 呆れたように言って祥太の濡れた顔をこすった。顔を洗ったので髪の毛が濡れていた。


「覚えてない……」

「かなり強いお酒を飲んだんだ。ごめんな、祥太」

「なあんだ。そっか」


 祥太はそう言っておどけて笑った。

 宏人が心配そうに祥太の顔を覗きこんだ。


「祥太、大丈夫?」

「うん。平気」


 にこっと笑うと宏人がほっとした。


「よかった」

「サンキュ、宏人」

「祥太、もう少し寝てろ」

「うん。あのさ……茂樹さんに会いたいんだけど」

「え?」


 宏人が顔を曇らせた。


「兄ちゃん、茂樹さんもう帰ったの?」



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