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けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第一部 中学生編
32/51

熱い指先

 宏人は、祥太の隣に座ると、二人でちょっとずつ味見を始めた。

 これが美味しいだのこれは甘すぎるだのと感想を言い合ううちに、祥太は目の前にあったカクテルグラスを引き寄せた。

 オリーブを齧りカリカリ砕きながら、カクテルを飲んでみる。

 少しほろ苦いが、さっぱりとした味だ。しかしすぐに、喉の辺りからカッと焼け付くような勢いが襲ってきて、祥太はむせた。


「けほっ。うぇっ」


 強烈な味に目を剥くと、なぜか体が燃えるように熱くなって、だんだんと眠くなってきた。


「祥太?」


 宏人が気付いて肩を揺さぶる。


「んあ?」


 祥太はトロンとした目を開けた。

 目の端に、兄が一生懸命茂樹から技を盗もうと教えてもらっている姿が見え、それらを楽しそうにはしゃぎながら、瑞穂が眺めているのが映っている。そして、目の前に宏人がダブルで映った。


「宏人が二人いる」


 謎めいた言葉を残してぱたんと顔が落ち込んだ。すると、祥太の体が揺れてソファにどさりと横に寝転んだ。


「あっ‼」


 宏人の声を聞いて、茂樹が駆け寄ってくる。


「祥太くんっ」


 祥太の方といえば何だかふわふわと宙に浮いている気分で楽しい。


「んー、何か変な気分です」


 だんだん意識がなくなりそうだった。


「祥太っ」


 宏人が驚いて祥太を抱き起こそうとした。


「あ、宏人くんっ」

「な、何?」

「むやみに動かさないで」

「でも、祥太が……」

「大丈夫だよ。たぶんお酒に酔ったんだ」

「しまったな。茂樹さん用のお酒を間違って飲んだのか……」


 裕一が宏人を見た。宏人は慌てて首を振った。

 二人が試飲していたテーブルに、からっぽのカクテルグラスの中に歯形のついたオリーブが残っていた。裕一がカクテルグラスを持ち上げる。


「マティーニが空だ」

「一杯だけで酔ったの?」


 瑞穂が寝こけている祥太の額を小突いた。


「瑞穂、触らないで」


 宏人がムッとして瑞穂の手を払った。


「ケチ」

「裕一、祥太くんを寝かそう」


 そう言ってから、茂樹が祥太を軽々と抱き上げた。


「あっ」


 宏人が声を上げたが、祥太は気持ちがよくて茂樹の胸に顔を寄せた。

 何だか甘くていい匂いがする。くんくんと鼻で匂いを嗅ぎながら、にたぁっと笑った。


「寝ぼけているのかな?」

「祥太、大丈夫?」


 後ろから宏人が不安そうに訊ねた。茂樹はこくりと頷いた。


「宏人くん、少しだけそばにいてあげてくれる?」

「は、はい」


 祥太は運ばれながら、ずっとこのままでいたいと思った。


「疲れていたんだね」


 茂樹の声がする。祥太は寝かされながら、シーツに顔を擦り付けた。


「茂樹さん……」


 祥太が呟くと、宏人がびくりと肩を揺らした。


「何? 祥太くん」

「そばにいて……」


 寝ぼけていながら、顔のそばにある手にすがった。


「祥太……」


 宏人の声も聞こえた。大きすぎる手のひらは、しっかりと祥太の手を握り返した。

 祥太はほっとして目を閉じた。


「茂樹さん……」


 すーっと寝息を立て始めた。熱い指先はいつまでも祥太の手を握っていてくれた。


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