熱い指先
宏人は、祥太の隣に座ると、二人でちょっとずつ味見を始めた。
これが美味しいだのこれは甘すぎるだのと感想を言い合ううちに、祥太は目の前にあったカクテルグラスを引き寄せた。
オリーブを齧りカリカリ砕きながら、カクテルを飲んでみる。
少しほろ苦いが、さっぱりとした味だ。しかしすぐに、喉の辺りからカッと焼け付くような勢いが襲ってきて、祥太はむせた。
「けほっ。うぇっ」
強烈な味に目を剥くと、なぜか体が燃えるように熱くなって、だんだんと眠くなってきた。
「祥太?」
宏人が気付いて肩を揺さぶる。
「んあ?」
祥太はトロンとした目を開けた。
目の端に、兄が一生懸命茂樹から技を盗もうと教えてもらっている姿が見え、それらを楽しそうにはしゃぎながら、瑞穂が眺めているのが映っている。そして、目の前に宏人がダブルで映った。
「宏人が二人いる」
謎めいた言葉を残してぱたんと顔が落ち込んだ。すると、祥太の体が揺れてソファにどさりと横に寝転んだ。
「あっ‼」
宏人の声を聞いて、茂樹が駆け寄ってくる。
「祥太くんっ」
祥太の方といえば何だかふわふわと宙に浮いている気分で楽しい。
「んー、何か変な気分です」
だんだん意識がなくなりそうだった。
「祥太っ」
宏人が驚いて祥太を抱き起こそうとした。
「あ、宏人くんっ」
「な、何?」
「むやみに動かさないで」
「でも、祥太が……」
「大丈夫だよ。たぶんお酒に酔ったんだ」
「しまったな。茂樹さん用のお酒を間違って飲んだのか……」
裕一が宏人を見た。宏人は慌てて首を振った。
二人が試飲していたテーブルに、からっぽのカクテルグラスの中に歯形のついたオリーブが残っていた。裕一がカクテルグラスを持ち上げる。
「マティーニが空だ」
「一杯だけで酔ったの?」
瑞穂が寝こけている祥太の額を小突いた。
「瑞穂、触らないで」
宏人がムッとして瑞穂の手を払った。
「ケチ」
「裕一、祥太くんを寝かそう」
そう言ってから、茂樹が祥太を軽々と抱き上げた。
「あっ」
宏人が声を上げたが、祥太は気持ちがよくて茂樹の胸に顔を寄せた。
何だか甘くていい匂いがする。くんくんと鼻で匂いを嗅ぎながら、にたぁっと笑った。
「寝ぼけているのかな?」
「祥太、大丈夫?」
後ろから宏人が不安そうに訊ねた。茂樹はこくりと頷いた。
「宏人くん、少しだけそばにいてあげてくれる?」
「は、はい」
祥太は運ばれながら、ずっとこのままでいたいと思った。
「疲れていたんだね」
茂樹の声がする。祥太は寝かされながら、シーツに顔を擦り付けた。
「茂樹さん……」
祥太が呟くと、宏人がびくりと肩を揺らした。
「何? 祥太くん」
「そばにいて……」
寝ぼけていながら、顔のそばにある手にすがった。
「祥太……」
宏人の声も聞こえた。大きすぎる手のひらは、しっかりと祥太の手を握り返した。
祥太はほっとして目を閉じた。
「茂樹さん……」
すーっと寝息を立て始めた。熱い指先はいつまでも祥太の手を握っていてくれた。




