失敗
失敗した。
というのは、竜之介にばれてしまったのである。
「祥太、宏人と何かあったやろ」
とぼければよかったのに、上手くできなかった。
「は? 何の事?」
と棒読みのセリフみたいに答えたのがまずかったのだ。
竜之介は祥太の口からすべてを吐かせた。中学の受験の話からすべて。竜之介は、それを知ってから激怒した。
「祥太、ここに座りっ」
「何で?」
「いいから座りやっ」
祥太はしぶしぶと部室のイスの上に正座した。
そうせざるを得ない雰囲気が漂っている。
「俺の言葉、よお聞けよ」
「うん」
「お前は何も悪くない。けど、悪い部分もある」
「はあ?」
意味が分からない。
「祥太は人形やないんやぞ」
「当たり前じゃん、俺は人間だもん」
「そうやないっ」
竜之介は苛ついて坊主頭を掻いた。
「そうやない。祥太は何も悪くないから責任を感じる必要はないんや。悪いのは宏人や、どこまでワガママ言うつもりや」
「宏人ってわがままなのかな…」
「ワガママに決まってるやろ。でもそれを許した祥太も悪いんや。これが俺の言った双方が悪いの理由や」
「どうしたらいいのかな」
「え?」
竜之介が顔を上げると、小さくなった祥太がしょんぼりと肩を落としている。
「無視しろ」
竜之介の言葉に祥太は顔を上げた。
「徹底的に無視するんや。それだけされる事をあいつはしてきた。やられたらやり返せ」
「できないよ。ていうかしたくない」
祥太は首を振った。
無視される事がどんなに辛い事か身をもって知っている。
宏人にも同じ思いをさせるはあまりにもかわいそうだ。
「じゃあ、祥太はどうしたいんや。今のままじゃ辛いんやろ?」
「うん……。仲直りがしたい。ただ、それだけ……」
「仲直りなら今だって仲いいんやろ? まったくややこしいな」
「どうして宏人は彼女がいるのに、俺なんかとキスしたいなんて言うのかな」
「そりゃ当然……」
竜之介はそれだけ言って口ごもった。
「当然何?」
祥太が首を傾げる。竜之介は目線を泳がせながら、
「ややこし過ぎるんや……」
ともう一度呟いた。
そして、一息つくと、くそっと毒づいてから祥太を見た。
「祥太、本当は言うのは嫌やったんやけど、お前のためやから言う」
「うん。何?」
「お前、宏人の事好きか?」
「好きだよ」
即答する。
「違う。その好きやなくて、恋愛の好きや」
「恋愛の好き?」
祥太は目を瞬かせる。
「宏人とキスしても嫌やないんやろ?」
「嫌…じゃないよ」
「なら、答えは出てるわ。お前が気付いてないだけ。ずばり、お前は宏人の事を愛しているんや」
「あ、愛している?」
目がちかちかする。
「竜之介、何言って……」
「ここまでひどい事をされて我慢できるなんて、愛がなければできない。普通の男は押し倒されてキスされた時点で、相手の事を突き飛ばして悪い噂流して、そいつを半径一メートル以内には近付けさせんわ」
「竜之介も俺がキスしたら、そんなひどい事すんのか?」
「するわけないやん。俺は祥太を愛しとるもん」
「なあんだ」
「へ?」
竜之介が顎を突き出した。
「愛ってそういうやつなんだ」
妙に納得した姿を見て、竜之介は不安に駆られた。
「あの、祥太……?」
「俺、宏人の事愛していたんだな」
変にずれてしまった祥太の考え方を、今さら改める事はできないと知った竜之介は一気に力が抜けた。
「まあ、愛を知っただけ、成長したって事やな」
朝よりは元気になった祥太を見て、竜之介は苦笑した。
宏人の顔を思い浮かべると、胸が悪くなる。まさか、夜な夜な祥太にそんな不埒な事をしでかしていたとは夢にも思わなかった。
祥太が許さなくても俺は絶対に許さんわ、と竜之介はしたたかに燃えた。