表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第一部 中学生編
30/51

瑞穂登場


 春希はその日からすぐに美術部に入部届けを提出し、外でスケッチする姿は見なくなった。

 祥太は、部活が終わるとへとへとで帰り、夜は宿題をしてすぐに寝てしまう毎日で、宏人が時々遊びに来たが、彼も宿題が多いからと以前よりは距離を置いている気がした。


 その日、宏人が、祥太の机を借りて宿題をし、祥太はベッドに寝転んで漫画本を読んでいると、兄の裕一がドアをノックして入ってきた。寝転んで漫画を読む祥太に話しかける。


「祥太、今週の土曜日はサッカーの部活はあるのか?」


 カレンダーにはマジックで休みと書いてある。祥太はそれを見て、休みだよと答えた。


「じゃあ、土曜日、俺が作ったカクテルの試飲を茂樹さんがしてくれるんだけど、祥太も来る?」

「えっ? 茂樹さんが来るのっ?」


 思わず起き上がって嬉しさに飛び跳ねた。

 宏人が振り向いてムッとした顔をする。


「裕一兄ちゃん、僕もいい?」

「宏人も? ああ、もちろんいいよ」

「ありがとうっ」


 宏人も参加することになって、祥太はちょっとドキリとした。休みの日は彼女と会わないのかなと言い出せず黙る。


「じゃあ、今週の土曜日、昼を食べたら俺の部屋に来い」

「はーい」


 宏人が何だか嬉しそうに笑う。

 前にあんなに茂樹さんに迷惑かけちゃダメとか言っていたのに、なんでだ? と祥太は思った。



 それから約束の土曜日。

 13時頃に宏人が家にやって来て、その隣には見たことのない少女がいた。

 想定外の出来事に、裕一と祥太は驚いた。


「宏人、お前……」


 最初に声を出したのは裕一だった。

 玄関先でニコニコしているのは、肩くらいまでの髪をたらし、グロスで光る唇の女の子で、明らかに宏人の彼女であると思われた。


「こんにちはー」


 語尾を延ばして二人の顔をじっくりと見てから、にっこりと満足げに笑った。

 ミズホだ。


 祥太は、初めて彼女を見て驚いた。

 宏人の通う緑ヶみどりがおか高校は偏差値が高く頭がいい子たちが集まっていると思われたので、少女の見た目は意外だった。

 ストレートのセミロングの髪、ぱっちりした瞳にナチュラルなアイシャドー、マスカラもしっかりつけてまつ毛は長く、優しい色合いのチークでうまく化粧をしている。

 グレーのフード付きパーカーに膝上のデニムのミニスカートにショートブーツを履いて、女子にしては背が高い。祥太と目線はあまり変わらないくらいだ。

 祥太も高校生になって少し身長が伸びた。165センチ程はある。


「いきなりすみません。宏人の友達の瑞穂って言います。今日は、よろしくお願いしますっ」


 瑞穂が自ら自己紹介をして、裕一はハッとすると、まあ、中にどうぞ、と言った。


「お邪魔しまーす」


 宏人の後について少女は上がる。祥太の目の前を通った時、少しだけ甘い匂いがした。

 瑞穂が、祥太を見るとニコッと微笑みかける。


「裕一兄ちゃん、ごめんなさい。瑞穂がどうしても一緒に行きたいって言いだして」

「いきなり参加してしまってごめんなさい」


 瑞穂が素直に謝る。裕一も当然、断るはずもない。


「いや、いいよ」


 苦笑している。

 二階に上がり、裕一の部屋に入ると瑞穂がわあっと感嘆の声を上げた。そして、部屋の中で待っていた茂樹に気づいた。


「あっ、こんにちは」

「こんにちは。君は?」

「宏人と同じ高校の瑞穂です。今日は、突然すみません。私もカクテルに興味があって」

「残念だけど、君たちにはお酒はないからね」

「えー、そっかあ。残念です」


 茂樹は突然、乱入してきた瑞穂にも寛大に笑いかける。優しいなあ、と祥太は思いながら最後に部屋に入った。


 祥太は、さりげなく茂樹のそばに寄ろうと思った。

 以前、シンデレラの作り方を習った時のように、カクテルについて少し話が聞きたかった。


「あの、茂樹さ……」

「祥太」


 宏人が、祥太の腕をつかんで引き寄せた。


「瑞穂を紹介するよ」

「あ、うん……」


 部屋の隅にあるソファに瑞穂が座っている。茂樹は、裕一と一緒にカクテルを作り始めた。


「瑞穂、祥太だよ」

「初めまして、祥太くん」


 祥太くんって変な感じだ。


「あ、ああ」

「私のこと、宏人から聞いているんでしょ?」

「うん、まあ……」

「よろしくね」


 笑顔が可愛い。よく見ると愛嬌があるちょっと大人びた美人なタイプだと思った。


「今日はごめんね。いきなりわがままを言っちゃって。宏人もごめんね」


 瑞穂が殊勝に謝ってくるので、何とも言い難く、宏人も困っているようだった。


「私、祥太くんに会うのがすごく楽しみだったんだ。それにお兄さんのカクテルも飲みたかったし」

「お酒好きなの?」


 未成年だから飲んだことないはずだが。


「映画とかでよく出てくるじゃん。それで興味があるだけ」


 祥太もお酒など飲んだことはない。時々、裕一にバーテンダーの仕事を聞いているのも興味本位なだけだ。

 実は、休みの日に裕一にカクテルの作り方などを教わっていた。今日は、ステアのカクテル技法を習いたいとひそかに思っていた。


 ステアはバースプーンで中心を押さえたまま回すだけだが、これが非常に難しい。

 茂樹の様子をちらっと伺うと、瑞穂が祥太の袖を引いた。


「ねえねえ」

「ん?」

「連絡先教えて、交換しよ」

「いいけど……」


 いや、いいのかな。宏人は何も言わず黙っているだけだ。

 スマホで連絡先を交換すると、瑞穂は目を輝かせた。

 すぐにメッセージが届く。ああ、ミズホってこんな字を書くんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ