花束二つ
竜之介はそう言って息をつくと、俺、手洗って来ると立ち上がった。いなくなると、春希が謝った。
「ごめんね」
「いや、いいよ。話さなかった俺が悪いんだから」
「あのさ、祥太……」
「ん?」
「話が変わるんだけど、この前、僕のスケッチを見たよね。あれを見てどう思った?」
「え?」
祥太は、春希の絵を思い出す。とくにうまいとも下手とも思わない。
ただ、絵を描くのが好きなんだなという気持ちは伝わった。
それを素直に言うと、そっか、と春希は呟いた。
「僕さ、日曜に君が帰ってから、ずっと考えてたんだ」
「うん」
「絵を描く仕事をしたかったんだけど、中学の時も美術部とか興味なくて、高校でも入る気全然なくて、自由でオリジナルを作るんだとかいろいろ思ってたんだけど、祥太が僕の絵を見た反応を見て、自分のしていることが何だか違っているような気がしたんだ」
「……」
「それで、日曜日、図書館に行って好きなイラストレーターとか絵本を見ているうちに、画家のプロフィールとか見ていたら、やっぱり基礎をきちんと学んだ方がいいって気づいたんだ」
「うん」
祥太はいつの間にか、春希の話に聞き入っていた。
「それで、お母さんに相談したら、美術部に入るのもいいし、それから美術の大学とか専門学校のことも考えてみたら、って言ってくれて」
「うん」
祥太が一生懸命頷くので、春希は少し笑った。
「そんなに難しい顔をしないでいいよ。祥太が僕に気づかせてくれて嬉しかったんだ。だから、ありがとうって言いたかった。多分、一人でスケッチだけしていて、下手くそのままで満足していたら、三年生になっても僕は気づかなかったかもしれない。でも、この先があるって分かったから」
「おーっ、戻ったよ」
竜之介が戻って来て、二人を交互に見て首を傾げる。
「なんかあったん?」
「ううんっ。春希がさ、絵の大学とか目指すんだって、すごいだろ!」
「おー、画家になるんか。今からサインもらっとかんとな」
「早いよっ」
春希が嬉しそうに笑う。
「二学期には、進路も決めんといかんけんな」
「「え?」」
「いや、二年からは、文系か理系かに分かれるし、あんまりぼーっとしとったらいかんのよ。コーコーセーは」
入学できてほっとするのもつかの間、祥太は宏人のことを悩んでいる暇もなく、また、困難が待っていたと知る。
「ていうか、祥太」
「ん?」
「宏人が心から謝ってくるまでは許すなよ」
春希が肩をすくめる。
「だから、俺も悪いんだって。宏人だってわざとじゃないし……」
「もし、今度何かあったら絶対すぐに俺に相談してや」
「分かった」
「森くんは熱い男なんだね」
「ほうよ。でも、今の俺は花束が二つになった気分だけどな」
「なにそれ」
春希がクスッと笑った。




