友達
二月に入ってますます寒さが身に凍みる季節になった。
窓から眺める木々は木枯らしによって毟り取られ、裸になった枝は風が吹くたびに揺れていた。
昼休み、給食を食べ終えた祥太と竜之介は、職員室に呼び出された宏人を待っていた。
祥太はかじかむ手を揉みながら、宏人が出てくるのを待っていた。
耳も足先も冷たくなってしまった。けれど、今日は宏人の合格発表の日である。
宏人の顔が見たかった。
「聞いとるんか? 祥太」
「え?」
竜之介の顔を見ると、切れ長の目が吊り上がっていた。
「味噌汁や! なんやあの味は」
「そんなに味濃かった?」
「濃いとか薄いとかそう言う問題やないっ」
きっぱり言うと竜之介は壁にもたれて腕を組んだ。
この寒い中、短く刈り込まれた髪は寒々しい。竜之介は鼻をすすった。
少しは寒さを感じているようである。
「じゃあ、何だよ」
「味噌に麦が入っていなかった」
「麦ってあのぺったんこの噛み応えのないやつ? あんなのが味噌汁に入っているなんて聞いた事もないけど」
「地元では麦味噌が当たり前なんや。独特の甘みがある麦味噌を思い出すたびに、ばあちゃんが作ってくれた味噌汁を思い出すわ」
「竜之介って、ばあちゃんと一緒に暮らしていたんだっけ?」
彼が中学二年の時に転校してきたのは覚えているが、祖母の話題は初耳だ。
「そうや。ばあちゃんは施設に入る事になって、俺ら一家は東京で暮らす事になったんや」
そうだったのか、と改めて思う。竜之介が転校してきた理由が祖母の諸事情であったとは。
「竜之介、いまだにその関西弁が抜けないのってある意味すごくないか?」
「関西弁やない。これは方言や」
またいつもの方言自慢が始まった。
「まだかな、宏人」
再びそわそわと職員室のそばに立って、ドアをちょっと開けて盗み見る。
宏人はまだ先生と話をしていた。竜之介が祥太の背後に立って抱きついた。
「心配せんでも推薦入試で落ちた奴なんて聞いた事もないわ。大丈夫やろ」
「そんな事言ってもさ、今朝の宏人すごく緊張していたみたいだった」
「へえ、そうなんや。ふうん」
竜之介は気のない返事をした後、再び思案に暮れる顔をした。
「気のせいかなあ。豆腐も味噌もしょうゆも口に合わん気がする。ああ、たぶん大豆や、大豆が違うんや」
「もう、給食の話はいいよ」
「冷たいな。俺はどんな事があっても祥太のそばにおるって誓ったのに」
竜之介が窓辺にもたれる祥太の肩を抱いた。
祥太はびっくりして竜之介の顔を見る。
「はあ? いつ誓ったんだよ」
「俺が転校してきた日や。一目惚れやって言うたやろ」
「意味わかんね。あっ、宏人っ」
職員室のドアが開いて中から生温かい空気が流れ出す。
祥太が駆け寄ると、宏人が顔を高潮させて抱きついた。宏人の体は温かかった。
「どうだった?」
「受かったよ」
「やったあっ。すっげえな、宏人っ。よかったな。おめでとう」
「ありがとうっ」
宏人も嬉しそうだ。
「よかったやん。宏人」
感激しあっている二人を竜之介がニヤニヤして見ている。
「あ、竜ちゃん。ありがとう」
それだけ言って、ぱっと祥太を見た。
「ねえ、昼休み時間あるよね。祥太に話しがあるんだ。ちょっといい?」
「え? うん。いいよ」
祥太はまだ興奮していた。
高校に受かるってこんなに嬉しいんだ。
宏人の満面の笑顔を見て胸が熱くなる。
まるで自分が受かったみたいにわくわくした。
「祥太、こっち」
宏人が、祥太の手を引いて歩き出した。
竜之介が付いて行こうとすると、宏人が振り返った。
「あ、竜ちゃんはごめん」
「え? なんや、俺は仲間外れなんか?」
「違うよ。でも、祥太と二人きりで話したいんだ」
「分かった。じゃあ、教室に戻るわ」
「うん。ごめんね」
いいよ、と言いながら竜之介が背を向ける。祥太も何だか申し訳なくて謝った。
「ごめんな。竜之介」
「後でな」
竜之介はひらひらと手を振った。
「すげえな。宏人。本当によかったな」
祥太は、宏人と手を繋いだまま後に従った。
「祥太のおかげだよ」
「俺のおかげじゃないよ」
「次は祥太の番だね。裕一兄ちゃんに勉強教わって、がんばってね」
次は自分だと言われ、急に気分が落ち込みそうになった。
「宏人が受かって本当によかったよ」
「うんっ」
宏人の足が急に早足になった。
「おい、どこまで行くんだ? あんまり教室から離れてチャイムが鳴ったら間に合わないよ」
宏人は、祥太の言葉に答えず急いで向かった先は体育館の裏だった。




