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けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第一部 中学生編
3/51

友達


 二月に入ってますます寒さが身に凍みる季節になった。

 窓から眺める木々は木枯らしによって毟り取られ、裸になった枝は風が吹くたびに揺れていた。

 昼休み、給食を食べ終えた祥太と竜之介は、職員室に呼び出された宏人を待っていた。

 祥太はかじかむ手を揉みながら、宏人が出てくるのを待っていた。

 耳も足先も冷たくなってしまった。けれど、今日は宏人の合格発表の日である。

 宏人の顔が見たかった。


「聞いとるんか? 祥太」

「え?」


 竜之介の顔を見ると、切れ長の目が吊り上がっていた。


「味噌汁や! なんやあの味は」

「そんなに味濃かった?」

「濃いとか薄いとかそう言う問題やないっ」


 きっぱり言うと竜之介は壁にもたれて腕を組んだ。

 この寒い中、短く刈り込まれた髪は寒々しい。竜之介は鼻をすすった。

 少しは寒さを感じているようである。


「じゃあ、何だよ」

「味噌に麦が入っていなかった」

「麦ってあのぺったんこの噛み応えのないやつ? あんなのが味噌汁に入っているなんて聞いた事もないけど」

「地元では麦味噌が当たり前なんや。独特の甘みがある麦味噌を思い出すたびに、ばあちゃんが作ってくれた味噌汁を思い出すわ」

「竜之介って、ばあちゃんと一緒に暮らしていたんだっけ?」


 彼が中学二年の時に転校してきたのは覚えているが、祖母の話題は初耳だ。


「そうや。ばあちゃんは施設に入る事になって、俺ら一家は東京で暮らす事になったんや」


 そうだったのか、と改めて思う。竜之介が転校してきた理由が祖母の諸事情であったとは。


「竜之介、いまだにその関西弁が抜けないのってある意味すごくないか?」

「関西弁やない。これは方言や」


 またいつもの方言自慢が始まった。


「まだかな、宏人」


 再びそわそわと職員室のそばに立って、ドアをちょっと開けて盗み見る。

 宏人はまだ先生と話をしていた。竜之介が祥太の背後に立って抱きついた。


「心配せんでも推薦入試で落ちた奴なんて聞いた事もないわ。大丈夫やろ」

「そんな事言ってもさ、今朝の宏人すごく緊張していたみたいだった」

「へえ、そうなんや。ふうん」


 竜之介は気のない返事をした後、再び思案に暮れる顔をした。


「気のせいかなあ。豆腐も味噌もしょうゆも口に合わん気がする。ああ、たぶん大豆や、大豆が違うんや」

「もう、給食の話はいいよ」

「冷たいな。俺はどんな事があっても祥太のそばにおるって誓ったのに」


 竜之介が窓辺にもたれる祥太の肩を抱いた。

 祥太はびっくりして竜之介の顔を見る。


「はあ? いつ誓ったんだよ」

「俺が転校してきた日や。一目惚れやって言うたやろ」

「意味わかんね。あっ、宏人っ」


 職員室のドアが開いて中から生温かい空気が流れ出す。

 祥太が駆け寄ると、宏人が顔を高潮させて抱きついた。宏人の体は温かかった。


「どうだった?」

「受かったよ」

「やったあっ。すっげえな、宏人っ。よかったな。おめでとう」

「ありがとうっ」


 宏人も嬉しそうだ。


「よかったやん。宏人」


 感激しあっている二人を竜之介がニヤニヤして見ている。


「あ、竜ちゃん。ありがとう」


 それだけ言って、ぱっと祥太を見た。


「ねえ、昼休み時間あるよね。祥太に話しがあるんだ。ちょっといい?」

「え? うん。いいよ」


 祥太はまだ興奮していた。

  高校に受かるってこんなに嬉しいんだ。

 宏人の満面の笑顔を見て胸が熱くなる。

 まるで自分が受かったみたいにわくわくした。


「祥太、こっち」


 宏人が、祥太の手を引いて歩き出した。

 竜之介が付いて行こうとすると、宏人が振り返った。


「あ、竜ちゃんはごめん」

「え? なんや、俺は仲間外れなんか?」

「違うよ。でも、祥太と二人きりで話したいんだ」

「分かった。じゃあ、教室に戻るわ」

「うん。ごめんね」


 いいよ、と言いながら竜之介が背を向ける。祥太も何だか申し訳なくて謝った。


「ごめんな。竜之介」

「後でな」


 竜之介はひらひらと手を振った。


「すげえな。宏人。本当によかったな」


 祥太は、宏人と手を繋いだまま後に従った。


「祥太のおかげだよ」

「俺のおかげじゃないよ」

「次は祥太の番だね。裕一ゆういち兄ちゃんに勉強教わって、がんばってね」


 次は自分だと言われ、急に気分が落ち込みそうになった。


「宏人が受かって本当によかったよ」

「うんっ」


 宏人の足が急に早足になった。


「おい、どこまで行くんだ? あんまり教室から離れてチャイムが鳴ったら間に合わないよ」


 宏人は、祥太の言葉に答えず急いで向かった先は体育館の裏だった。


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