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悲しみ



 宏人が心配そうに祥太の顔を覗きこんだ。


「祥太、大丈夫?」

「うん。平気」


 にこっと笑うと宏人がほっとした。


「よかった」

「サンキュ、宏人」

「祥太、もう少し寝てろ」

「うん。でも、茂樹さんに会いたい」

「え?」


 宏人が顔を曇らせた。


「兄ちゃん、茂樹さんもう帰ったの?」

「いや、まだいるよ」

「よかった」


 茂樹がいると聞いただけで泣きそうになってしまった。

 すぐにでも会いたかった。急いでリビングに向かうと足がもつれた。


「あっ」


 ひやりとする。


「祥太っ」


 宏人が慌てて抱き止めてくれた。


「大丈夫?」

「うん」


 祥太はそっと手をどけながら体を引いた。


「大丈夫だから」


「うん……」


 宏人が手を離した。

 リビングに入ると、部屋の中はお酒の匂いで充満していた。

 宏人が祥太の傍らに立つと、瑞穂と茂樹が気付いて顔を向けた。


「祥太くん、大丈夫?」

「うん」


 頷くと茂樹が頭を撫でた。


「結局飲ませてしまったね。気が付くのが遅くてごめんね」


 優しい言葉に首を振ると、ソファから瑞穂のからかう声がした。


「気分悪いんじゃないのぉ?」


 瑞穂も酔っているのか、だらしなくソファに座り込んでいる。


「大丈夫だよ…」


 突っぱねた言い方をしてからしまったと気付く。


 なぜか彼女の前では素直になれないのだ。

 祥太が口を尖らせると、酔っ払った瑞穂がけらけら笑った。


「祥太、弱すぎ。一杯飲んだだけで引っくり返ったのよ。情けないわねぇ」

「お前に言われたくねえよ」


 瑞穂は自分が酔っ払っている事に気付いていない。


「これだからお子ちゃまはダメね」

「何だって?」

「ほら、ケンカしないで、ね?」


 茂樹が間に割り込んだ。


「うん……」

「水、飲む?」

「飲む……」


 茂樹が台所に行き水の用意をしていると、急に気分が悪くなった。


 ソファに座って口を押さえると、水を手渡された。


「はい。ゆっくり飲んで」


 ごくごくと飲むと少し楽になった。


「祥太くん、部屋に戻って休んでいた方がいいんじゃないかな。顔色悪いよ」

「うん……」


 その時、隣で立っていた宏人がここぞとばかりに手を伸ばした。


「僕が連れて行ってあげる」

「平気だよ」


 祥太がさりげなく腕を払った。宏人が少しだけ眉をひそめた。


「宏人って過保護ね」


 瑞穂が呆れたように言った。


「うるさいな」


 宏人はもう一度、祥太の腕を支えると抱きかかえるように背中をぎゅっと抱きしめた。


 祥太はびくりと震えたが、今度は逃げなかった。しかし、うな垂れたまま小さく言った。


「ごめん……」

「え?」


 宏人は祥太の言葉に驚いた。すると、そばで見ていた茂樹が、


「やっぱり僕が連れて行く」


 さらうように祥太を抱き寄せる。


「え?」


 祥太はびっくりした。声を上げる間もなく、宏人から奪った茂樹はすたすたと部屋を出て行った。

 ベッドにもう一度寝かされる。


「はい。もう、今日は寝なさい」


 祥太は込み上げてきた涙を隠して、枕に顔をうずめた。

 肩を震わせながら嗚咽を洩らすと、茂樹は何も言わずにずっと背中を撫でてくれた。





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