酔っ払い
宏人がびっくりして祥太の顔を覗き込んだ。
「どうしたの? 祥太」
すると、祥太の体が揺れてソファにどさりと倒れた。
「祥太くんっ」
茂樹が駆け寄ってくる。
祥太の方といえば何だかふわふわと宙に浮いている気分で楽しい。
「んー、何か変な気分です」
だんだん意識がなくなりそうだった。
夕べはあまり寝ていない。久々に茂樹に会える事を思うと興奮して寝られなかった。
「祥太っ」
宏人が驚いて祥太を抱き起こそうとした。
「あ、宏人くんっ」
「な、何?」
「むやみに動かさないで」
「でも、祥太が……」
「大丈夫だよ。たぶんお酒に酔ったんだね」
「こいつ飲んだのか?」
裕一が宏人を見た。宏人は慌てて首を振った。
「ま、まさか」
二人が試飲していたテーブルに、からっぽのカクテルグラスの中に歯形のついたオリーブが残ってい
た。
「もしかしてマティーニを飲んだ?」
茂樹が眉をひそめて顔を近付けた。口からはジンの匂いがする。
「やっぱり…」
「一杯だけで酔ったの? 情けないわね」
瑞穂が寝こけている祥太の額を小突いた。
「触るな」
宏人がムッとして瑞穂の手を払った。
「ケチ」
「裕一、祥太くんを寝かそう」
そう言ってから、茂樹が祥太を軽々と抱き上げた。
「あっ」
宏人が大げさに声を上げたが、祥太は気持ちがよくて茂樹の胸に顔を寄せた。
何だか甘くていい匂いがする。くんくんと鼻で匂いを嗅ぎながら、にたぁっと笑った。
「寝ぼけているの?」
茂樹がくすっと笑った。
「祥太、大丈夫?」
後ろから宏人が不安そうに訊ねた。茂樹はこくりと頷いた。
「宏人くん、少しだけそばにいてあげてくれる?」
「は、はい」
祥太は運ばれながら、ずっとこのままでいたいと思った。
「疲れていたんだね」
茂樹の声がする。祥太は寝かされながら、シーツに顔を擦り付けた。
「茂樹さん……」
祥太が呟くと、宏人がびくりと肩を揺らした。
「何? 祥太くん」
「そばにいて……」
寝ぼけていながら、顔のそばにある手にすがった。
「祥太……」
宏人の声も聞こえた。大きすぎる手のひらは、しっかりと祥太の手を握り返した。
祥太はほっとして目を閉じた。
「茂樹さん……」
すーっと寝息を立て始めた。熱い指先はいつまでも祥太の手を握っていてくれた。