宏人と瑞穂
時間は少し前に戻り、瑞穂に呼び出された宏人は待ち合わせの駅に到着していた。
電車に乗っている間も祥太のことばかりが気になった。駅で待っていた瑞穂は、宏人の姿を見かけて嬉しそうに手を上げたが、改札口を出てきた宏人の様子を見て、笑顔からスッと真顔になった。
「宏人っ」
とぼとぼと歩いてくる宏人の背中をバシッと叩く。
「せっかくかわいい彼女の呼び出しなのに、何なのその顔はっ!」
宏人はハッとして、顔をこわばらせた。
「瑞穂……、その彼女って言うのは……」
「あーん? 彼女のふりをしてほしいって言っただけだよって? んな、都合のいい生き物じゃないんですよー。わたしはっ」
「そんな……」
イケメンがしょぼんとしていると、何だかもっといじめてやりたくなったが、そんなガラじゃないので、ふうっと息を吐く。
「ごめんってば、うそうそ。宏人、元気出しなよー」
いつものように調子よく元気付けようとする。
「あああ、わたしってなんでこんなに優しいんだろう。それにしても、祥太、ムカつくわー。宏人をこんな風にしてさっ」
瑞穂は、宏人の腕に自分の腕を絡ませると歩き出した。
「瑞穂、あの、どこ行くの?」
「せっかくだから、どっかいこーよ。デートしよ」
宏人はさっきまでお昼を食べてジュースを飲んでいたので、お腹は空いていない。
宏人の話を聞いた瑞穂は、近くの公園まで散歩するか、とスマホで近くの公園を検索して歩き始める。
「久しぶりにブランコ乗りたいなー」
十分ほど歩いて公園に入ると、春先のせいか子どもたちがたくさん遊んでいた。
「あちゃー、子どもがいるね」
宏人は相槌を打つだけで全然しゃべらない。
瑞穂はぐいぐい引っ張りながら、ベンチに座った。
座った時お互いのひざがくっついているが、宏人は相変わらず元気がない。意識されていないと思った瑞穂は少しがっかりした。
「んで? どうしてそんなややこしいことになったの? どうすんの? 誤解させたまんま、わたしと付き合う気?」
「ごめん……」
「あー、そうだよね。そう言うと思ったよ。ていうかさあ、宏人、自分がサイテーな事してるって自覚あんの?」
「ある」
「ほんとかなー?」
瑞穂が、宏人の手のひらを持ち上げて指を一本ずつ絡ませた。そして、にこっと笑うと、宏人は目を見開いて瑞穂を見た。
「どう? ドキドキする?」
「あ、当たり前だっ」
「えっ?」
瑞穂もびっくりして二人は手を離した。
「やばっ。宏人、顔が真っ赤っか、かわいー」
「い、いきなり、こんなことされたら、誰だって赤くなるに決まってるだろっ」
「へー、じゃあ、案外、宏人ってわたしのこと好きなんだね。よかった」
「どうしてそうなるんだよ」
「だって、意識しちゃってくれたってことでしょ」
瑞穂はまんざらでもないように嬉しそうだ。
結局だらだらと二人で話をしてから、瑞穂は別れ際に宏人にはっきりと言った。
「わたし、諦めないからね。宏人のこと振り向かせてみせるから」
宏人は複雑な心境で、瑞穂に頼んだのは間違いだったのだと今更気づいた。家に向かいながらもやっぱり祥太のことが頭から離れない。
瑞穂のことも何とかしなきゃいけないのに、祥太とこれ以上離れるのは嫌だった。
事を大きくさせていることは分かっていた。
けれど、また拒否されたらどうしよう。
中学のあのことが起きるまで、祥太が自分を拒否するなんて思いもしなかったのだ。
あの時のことを思い出すと、ツキンと胸が痛んだ。
どうして? どうして祥太は自分を突き飛ばしたんだろう。
好きだっていう言葉は毎日伝えていたし、お互い両想いだと思っていた。
なのに、祥太はそうじゃなかったのかな……。
宏人は立ち止まって息を吐いた。
苦しい。
祥太のことがこんなにも大好きなのに。許せなかった。
そうだ。
ごめんって祥太に謝ったけど、本当はまだ祥太を許せないんだ。
自分を突き飛ばした祥太の目を忘れられない。
あんなに仲良くしていたのに、気持ち悪いって言葉に傷ついている。
宏人は、どうしても自分の心に嘘をつくことができず、苦しかった。
諦められるなら、もう、とっくに諦めている。なのに、この気持ちは何なんだろう。
それでも確かめたくて。
宏人は、急ぎ足で祥太の家に向かった。




