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けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第一部 中学生編
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宏人と瑞穂



 時間は少し前に戻り、瑞穂に呼び出された宏人は待ち合わせの駅に到着していた。

 電車に乗っている間も祥太のことばかりが気になった。駅で待っていた瑞穂は、宏人の姿を見かけて嬉しそうに手を上げたが、改札口を出てきた宏人の様子を見て、笑顔からスッと真顔になった。


「宏人っ」


 とぼとぼと歩いてくる宏人の背中をバシッと叩く。


「せっかくかわいい彼女の呼び出しなのに、何なのその顔はっ!」


 宏人はハッとして、顔をこわばらせた。


「瑞穂……、その彼女って言うのは……」

「あーん? 彼女のふりをしてほしいって言っただけだよって? んな、都合のいい生き物じゃないんですよー。わたしはっ」

「そんな……」


 イケメンがしょぼんとしていると、何だかもっといじめてやりたくなったが、そんなガラじゃないので、ふうっと息を吐く。


「ごめんってば、うそうそ。宏人、元気出しなよー」


 いつものように調子よく元気付けようとする。


「あああ、わたしってなんでこんなに優しいんだろう。それにしても、祥太、ムカつくわー。宏人をこんな風にしてさっ」


 瑞穂は、宏人の腕に自分の腕を絡ませると歩き出した。


「瑞穂、あの、どこ行くの?」

「せっかくだから、どっかいこーよ。デートしよ」


 宏人はさっきまでお昼を食べてジュースを飲んでいたので、お腹は空いていない。

 宏人の話を聞いた瑞穂は、近くの公園まで散歩するか、とスマホで近くの公園を検索して歩き始める。


「久しぶりにブランコ乗りたいなー」


 十分ほど歩いて公園に入ると、春先のせいか子どもたちがたくさん遊んでいた。


「あちゃー、子どもがいるね」


 宏人は相槌を打つだけで全然しゃべらない。

 瑞穂はぐいぐい引っ張りながら、ベンチに座った。

 座った時お互いのひざがくっついているが、宏人は相変わらず元気がない。意識されていないと思った瑞穂は少しがっかりした。


「んで? どうしてそんなややこしいことになったの? どうすんの? 誤解させたまんま、わたしと付き合う気?」

「ごめん……」

「あー、そうだよね。そう言うと思ったよ。ていうかさあ、宏人、自分がサイテーな事してるって自覚あんの?」

「ある」

「ほんとかなー?」


 瑞穂が、宏人の手のひらを持ち上げて指を一本ずつ絡ませた。そして、にこっと笑うと、宏人は目を見開いて瑞穂を見た。


「どう? ドキドキする?」

「あ、当たり前だっ」

「えっ?」


 瑞穂もびっくりして二人は手を離した。


「やばっ。宏人、顔が真っ赤っか、かわいー」

「い、いきなり、こんなことされたら、誰だって赤くなるに決まってるだろっ」

「へー、じゃあ、案外、宏人ってわたしのこと好きなんだね。よかった」

「どうしてそうなるんだよ」

「だって、意識しちゃってくれたってことでしょ」


 瑞穂はまんざらでもないように嬉しそうだ。

 結局だらだらと二人で話をしてから、瑞穂は別れ際に宏人にはっきりと言った。


「わたし、諦めないからね。宏人のこと振り向かせてみせるから」


 宏人は複雑な心境で、瑞穂に頼んだのは間違いだったのだと今更気づいた。家に向かいながらもやっぱり祥太のことが頭から離れない。


 瑞穂のことも何とかしなきゃいけないのに、祥太とこれ以上離れるのは嫌だった。


 事を大きくさせていることは分かっていた。

 けれど、また拒否されたらどうしよう。

 中学のあのことが起きるまで、祥太が自分を拒否するなんて思いもしなかったのだ。


 あの時のことを思い出すと、ツキンと胸が痛んだ。

 どうして? どうして祥太は自分を突き飛ばしたんだろう。

 好きだっていう言葉は毎日伝えていたし、お互い両想いだと思っていた。

 なのに、祥太はそうじゃなかったのかな……。


 宏人は立ち止まって息を吐いた。

 苦しい。

 祥太のことがこんなにも大好きなのに。許せなかった。


 そうだ。

 ごめんって祥太に謝ったけど、本当はまだ祥太を許せないんだ。

 自分を突き飛ばした祥太の目を忘れられない。

 あんなに仲良くしていたのに、気持ち悪いって言葉に傷ついている。


 宏人は、どうしても自分の心に嘘をつくことができず、苦しかった。

 諦められるなら、もう、とっくに諦めている。なのに、この気持ちは何なんだろう。


 それでも確かめたくて。

 宏人は、急ぎ足で祥太の家に向かった。



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