不機嫌
祥太は気になって仕方がなかったが、ソファに座っている宏人の隣に座った。
「宏人」
「……何?」
宏人は目だけ動かして祥太を見た。どうも不機嫌そうだ。きっと、瑞穂が茂樹のそばに行きたがるから
虫の居所が悪いのだろう。
「彼女だろ? いいの?」
こそっと耳打ちすると宏人が眉をひそめた。
「いいって何が?」
「だって……、お前以外の男としゃべってばっかでさ、嫌じゃないの?」
「別に」
興味なさそうな言い方に祥太は唖然とした。
「あいつが勝手にやっている事で、僕には関係ない」
「関係ないって……、彼女なんだろ?」
不思議でたまらなかった。好きならきっと嫌なはずなのに。
「そうだけど、僕が干渉する事なんか何一つないんだ」
淡々と語る宏人を見て、そんなものだろうかと首を傾げた。その時、
「祥太くん」
と茂樹に呼ばれた。
「あ、はい」
祥太はすかさず立ち上がると茂樹のそばに寄った。
「これ、飲んでみて」
差し出された筒型のグラスにストローが二本差し込まれ、シャーベット状になった苺の匂いがした。ストローで吸い上げると、しゃきっとした冷たい苺と牛乳の味がする。
「おいしいけど、甘い……」
「どれ?」
グラスを奪われて、ハッとすると隣に宏人が立っていた。
びっくりしていると宏人は同じストローに口をつけて一気に全部吸い上げた。
「冷た…」
頭を押さえて顔をしかめた。
そして、空になったグラスをぐいっと押し付けると、祥太の腕をつかんでソファに座らせた。
「お前なあっ」
祥太は腹が立って宏人の耳を引っ張った。
「何で宏人さんに対して、あんな態度取るんだよ。瑞穂を取られた事、根に持ってんなら奪い返せよ」
「はあ?」
宏人は気が抜けた顔をした。
「瑞穂の事は放っておいて大丈夫なの。それより、祥太はここに座ってて、絶対に動かないでよ」
「何でだよ」
「いいから動かないでっ」
クッションを押し付けられて祥太は宏人を見上げた。
「できたの持って来てあげる」
スタスタと茂樹の所に行くと、トレーに様々なカクテルグラスを並べて、ヨロヨロしながら戻って来た。
「はい、これ飲んで大人しくしてよ」
「あのなあっ」
目を剥くと宏人がまた悲しそうな顔をする。
何でそんな顔すんだよ、とひるんだ祥太は、仕方なくカクテルグラスを持つとちびちびと飲み始めた。
それを見た宏人がほっとする。
二人でちょっとずつ味見を始めた。
これが美味しいだのこれは甘すぎるだのと感想を言い合ううちに、祥太は目の前にあったカクテルグラスを引き寄せた。
オリーブを齧りカリカリ砕きながら、カクテルを飲んでみる。
少しほろ苦いが、さっぱりとした味であった。しかしすぐに、喉の辺りからカッと焼け付くような勢いが襲ってきて、祥太はむせた。
「けほっ。うぇっ」
強烈な味に目を剥くと、なぜか体が燃えるように熱くなって、だんだんと眠くなってきた。
「祥太?」
宏人が気付いて肩を揺さぶる。
「んあ?」
祥太はトロンとした目を開けた。
目の端に、兄が一生懸命茂樹から技を盗もうと教えてもらっている姿が見え、それらを楽しそうにはしゃぎながら、瑞穂が眺めているのが映っている。そして、目の前に宏人がダブルで映った。
「宏人が二人いる」
謎めいた言葉を残してぱたんと顔が落ち込んだ。
「あっ」