シンデレラ
カウンターに並べられたのは、オレンジジュース、レモンジュース、パイナップルジュースである。それぞれ計量カップに入っていた。
「これから『シンデレラ』というノンアルコールカクテルを作ってもらうね」
「シンデレラ?」
宏人が首を傾げた。
「うん。一言で言えばミックスジュースだけど、『シンデレラ』もちゃんとカクテルなんだよ」
「ふうん」
祥太は三つのジュースを眺めた。
それぞれ色も味も違う。混ざり合うとどんなカクテルになるのだろう。考えるとわくわくした。
「僕も一緒に作るからそれを真似てみて。まず氷を入れる。次に材料を全部入れて。それからさっき教えたように順番にストレーナーとトップをはめてね。さ、シェークして」
二人も一生懸命シェークする。止めていいよと言われて二人は手を下ろす。
冷やしておいたカクテルグラスに中身を移すと、微妙に色合いが違って見えた。
オレンジとパイナップルの量は同じだからか、濃い黄色に見える。祥太は自分のは薄まっている気がして不安に駆られた。
「乾杯しよう」
茂樹が言って、軽くグラスを持ち上げて口に含んだ。
「どう? 自分で作ったカクテルは美味しいでしょう?」
祥太は味を見て目を見開いた。
「美味しい!」
ちょっとぬるいけど、見た目よりは意外と美味しい。
「宏人は?」
祥太がそう言って、宏人の方に体を寄せた。宏人は、自分のカクテルジュースを祥太に差し出した。
「祥太、飲んでみて」
「うん」
宏人が作ったジュースを味わって飲む。祥太は目を見開いた。
「俺のより冷たくて味が濃い」
「どれ?」
茂樹が、宏人のカクテルを味見する。
「ん。上手に混ざっているね。宏人くんは器用なんだね」
「別に……」
宏人は少しだけ照れた顔で横を向いた。
祥太は何だか負けた気がして、少しムッとする。やっぱり手が大きい奴って得だよな、と一人ですねる。
「祥太くんは腕が細いから、振る回数を多くして、時間をかけないようにしなきゃいけないかもね。コツをつかめばすぐに上手になるよ」
「こう?」
祥太は言われた通り、練習してみる。宏人は飽きてしまったのか、一人でソファに移動した。
もう、興味を失ったのだろうか。祥太にしてみればむかつく行為にしか思えない。
「ボディを支える指がしっかりしてきたね」
「手が痛くなってきた」
「ちょっと休もうか」
息をついてカウンターを見ると、水や氷が散乱していた。茂樹は静かにテーブルを綺麗に拭き始める。すると、タイミングを見図るようにして、宏人が立ち上がって、祥太の腕を引いた。
「祥太、帰ろうよ」
「えっ?」
思わず茂樹を見ると、彼が顔を上げてにっこり笑った。
「嫌だ。もう少し練習したい。宏人、先に帰っていいよ」
「えっ。一人で帰るのは嫌だ。待ってるよ……」
しぶしぶ言って、宏人がソファに座り直した。その時、スマホが鳴り響いた。宏人のスマホだ。
祥太はびくっと肩を震わせる。
宏人が、あ、と言ってポケットからスマホを出す。
「もしもし? 僕だけど……。え? ごめんね、今忙しいんだ。え? うん。分かった……。すぐに行く」
ぷちっと電話を切って顔を上げた。
「どうしたんだ?」
「瑞穂から電話。今すぐ来てだって」
「あ、そう……」
何気ない顔をしたつもりだったが、指先が震えた。
「面倒くさいな」
宏人がぽつりと呟く。祥太はむっとした。
「そんな事言ったらミズホがかわいそうだろ。早く行ってあげろよ」
つっけどんに言うと、宏人が面食らった顔で立ち上がった。
「だ、だって祥太……。まだ、帰らないんでしょ?」
「帰らない。お前は早く行けよ」
突き放すように言うと、宏人はがっくりとした顔をする。
「祥太が冷たい」
「違うだろ」
「分かったよ……」
肩を落として宏人がドアに向かった。
「茂樹さん。あの、ごちそうさまでした……」
「見送るよ」
茂樹は宏人を玄関まで見送りに行った。




