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けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第一部 中学生編
24/51

シンデレラ

 カウンターに並べられたのは、オレンジジュース、レモンジュース、パイナップルジュースである。それぞれ計量カップに入っていた。


「これから『シンデレラ』というノンアルコールカクテルを作ってもらうね」

「シンデレラ?」


 宏人が首を傾げた。


「うん。一言で言えばミックスジュースだけど、『シンデレラ』もちゃんとカクテルなんだよ」

「ふうん」


 祥太は三つのジュースを眺めた。

 それぞれ色も味も違う。混ざり合うとどんなカクテルになるのだろう。考えるとわくわくした。


「僕も一緒に作るからそれを真似てみて。まず氷を入れる。次に材料を全部入れて。それからさっき教えたように順番にストレーナーとトップをはめてね。さ、シェークして」


 二人も一生懸命シェークする。止めていいよと言われて二人は手を下ろす。

 冷やしておいたカクテルグラスに中身を移すと、微妙に色合いが違って見えた。


 オレンジとパイナップルの量は同じだからか、濃い黄色に見える。祥太は自分のは薄まっている気がして不安に駆られた。


「乾杯しよう」


 茂樹が言って、軽くグラスを持ち上げて口に含んだ。


「どう? 自分で作ったカクテルは美味しいでしょう?」


 祥太は味を見て目を見開いた。


「美味しい!」


 ちょっとぬるいけど、見た目よりは意外と美味しい。


「宏人は?」


 祥太がそう言って、宏人の方に体を寄せた。宏人は、自分のカクテルジュースを祥太に差し出した。


「祥太、飲んでみて」

「うん」


 宏人が作ったジュースを味わって飲む。祥太は目を見開いた。


「俺のより冷たくて味が濃い」

「どれ?」


 茂樹が、宏人のカクテルを味見する。


「ん。上手に混ざっているね。宏人くんは器用なんだね」

「別に……」


 宏人は少しだけ照れた顔で横を向いた。

 祥太は何だか負けた気がして、少しムッとする。やっぱり手が大きい奴って得だよな、と一人ですねる。


「祥太くんは腕が細いから、振る回数を多くして、時間をかけないようにしなきゃいけないかもね。コツをつかめばすぐに上手になるよ」

「こう?」


 祥太は言われた通り、練習してみる。宏人は飽きてしまったのか、一人でソファに移動した。

 もう、興味を失ったのだろうか。祥太にしてみればむかつく行為にしか思えない。


「ボディを支える指がしっかりしてきたね」

「手が痛くなってきた」

「ちょっと休もうか」


 息をついてカウンターを見ると、水や氷が散乱していた。茂樹は静かにテーブルを綺麗に拭き始める。すると、タイミングを見図るようにして、宏人が立ち上がって、祥太の腕を引いた。


「祥太、帰ろうよ」

「えっ?」


 思わず茂樹を見ると、彼が顔を上げてにっこり笑った。


「嫌だ。もう少し練習したい。宏人、先に帰っていいよ」

「えっ。一人で帰るのは嫌だ。待ってるよ……」


 しぶしぶ言って、宏人がソファに座り直した。その時、スマホが鳴り響いた。宏人のスマホだ。

 祥太はびくっと肩を震わせる。

 宏人が、あ、と言ってポケットからスマホを出す。


「もしもし? 僕だけど……。え? ごめんね、今忙しいんだ。え? うん。分かった……。すぐに行く」


 ぷちっと電話を切って顔を上げた。


「どうしたんだ?」

「瑞穂から電話。今すぐ来てだって」

「あ、そう……」


 何気ない顔をしたつもりだったが、指先が震えた。


「面倒くさいな」


 宏人がぽつりと呟く。祥太はむっとした。


「そんな事言ったらミズホがかわいそうだろ。早く行ってあげろよ」


 つっけどんに言うと、宏人が面食らった顔で立ち上がった。


「だ、だって祥太……。まだ、帰らないんでしょ?」

「帰らない。お前は早く行けよ」


 突き放すように言うと、宏人はがっくりとした顔をする。


「祥太が冷たい」

「違うだろ」

「分かったよ……」


 肩を落として宏人がドアに向かった。


「茂樹さん。あの、ごちそうさまでした……」

「見送るよ」


 茂樹は宏人を玄関まで見送りに行った。



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