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けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第一部 中学生編
22/51

複雑


 複雑な心境だ。

 茂樹に連絡をすると、突然、遊びに行ってもいいですかと言った祥太に対して、いいよと言ってくれたのである。

 しかも、宏人と仲直りができてよかったね、と優しい言葉をかけてくれた上に、お昼をご馳走するよとまで言ってくれたのだ。


 これを兄ちゃんに知られたら、絶対に怒られる気がする。

 祥太は、もうどうにでもなれとばかりに、茂樹から送られた連絡先を見ながら彼の家に向かった。

 茂樹の家は電車を降りてすぐの場所だった。

 教えられた通りを進むと、目の前に瀟洒なマンションが現れた。オートロック式のエントランスの前でインターフォンを鳴らすと、ロックが解除されてドアが開いた。

 エレベーターで二十八階まで上がる。茂樹の部屋は突き当たりにあった。


「本当にここ?」

「うん……」


 祥太も内心びくびくしながら、本当に茂樹が一人で住んでいるのだろうかと訝しく思った。チャイムを鳴らすとドアがすぐに開いた。


「いらっしゃい」


 白地のTシャツに薄い水色のシャツを羽織り、デニム姿のラフな格好で茂樹が顔を出した。モデルのような顔立ちに宏人が呆気に取られている。それからハッとして口を閉じた。


「こ、こんにちは」


 祥太が頭を下げると、茂樹が、どうぞと二人を促した。

 ふかふかのスリッパを差し出され、二人は言われるままに中に入った。細長い廊下を歩きながら、


「君が宏人くん? 裕一から聞いていたよ。かっこいいね」


 宏人の方が、茂樹よりも背が高い。

 宏人は顔を強ばらせたまま硬い口調で答えた。


「いえ、そんな事ないです……」


 茂樹はくすっと笑うと、突き当たりの手前で立ち止まり、分厚い木のドアを開けた。


「どうぞ。僕の秘密の部屋です」

「わぁ……すごい……」


 中を見て、祥太が驚きの声を上げた。

 窓のない部屋は暗く、小さな証明が点々と灯っている。

 兄の部屋とは格別に違い、どっしりと構えるようなソファとテーブルが置いてあった。作り付けの棚にはびっしりとお酒が並んでいる。

 祥太が目を丸くしている一方、宏人は眉をひそめた。


「ここは?」

「貯蔵庫にもなっている。僕の避難場所。辛い時はシェーカーを振って気を紛らしたりするんだ」


 シェーカーと言う言葉に、宏人が眉をひそめた。


「茂樹さんはバーテンダーって奴?」

「そうだよ。今日は僭越ながら、僕が君たちの仲直りパーティーを開かせてもらいます。料理が得意なんだ。食事がすんだらカクテルを作ろう。もちろん、ノンアルコールだけど」

「別にアルコールが入っていても平気だけど……」


 宏人がぼそりと言う。茂樹は首を振った。


「それはダメだよ」

「ちぇっ」


 口を尖らせる宏人を見て、祥太は驚いていた。年上に対してこんな口のきき方をしているところを見た事がなかった。


「じゃあ、リビングに行こうか。君たちお腹は空かせて来たんでしょ?」

「あ、はい」


 もうお昼近くになっている。朝、春希の家で食べてから時間があっという間に過ぎた。

 三人はリビングに移動した。そこは打って変わって明るく、淡いオレンジ色のカーテンが揺れていた。テーブルに食事が並べられている。

 祥太はまたもや驚きの声を上げた。お店のランチみたいだ。


「おいしそう……」


 宏人を見ると、ムッとした顔をしている。


「ど、どうしたんだ?」


 聞いてみたが、あまり聞こえていないようだった。祥太は肩で息をついて茂樹の方へ近寄った。


「茂樹さん、何か手伝いますか?」

「いいよ。スープを用意するから、座ってて」

「は、はい」


 茂樹が温かいスープを用意すると、後から席に着いた。祥太と宏人は、並んで座り、茂樹の手料理を見て感激した。


「全部作ったんですか?」

「料理は好きなんだ。でも、料理を作るのもバーテンダーの仕事だからね」


 ランチプレートには、ピラフの他にポテトサラダ。チキンのソテーにオムレツと果物にリンゴが乗っている。スープまであるのでほとんどお店にランチを食べに来たみたいだ。


「いただきます」


 手を合わせて食べ始める。どれもお店で出てくるような味だ。


「おいしいね、宏人」

「うん……」


 パクパクと食べていた宏人が突然、祥太の方に向かって言った。


「あ、あのさ、祥太は料理ができる人って好き?」

「え? 好きだろっ、そりゃあ。ね、茂樹さん、こんなにできたらすごいよねっ」


 茂樹に相槌を求めると、宏人が急いで言った。


「じゃあ、僕、料理人になる」

「はあっ?」


 わっけ分からん。祥太が変な顔をすると、茂樹がクスクス笑った。


「ごちそうさまでした」

「足りたかな」

「はいっ」


 満腹だ。宏人もきれいに食べてしまっている。後片づけを手伝おうとすると、茂樹は、後でするから隣の部屋に行こうか、と言った。



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