嫉妬
祥太は何だか負けた気がしてムッとする。
さっき、自分のカクテルを飲んではしゃいだりしたりして、バカみたいだと思った。
何だか面白くなくて口を尖らせると、茂樹がぽんと肩を叩いた。
「祥太くんは腕が細いから、僕たちよりは振る回数を多くして、その上時間をかけないようにしなきゃいけないかもしれない」
祥太はぐっと唇を噛むともう一度シェーカーを握った。
「こう?」
練習してみる。
宏人が肩をすくめてソファに座った。
興味を失ったのだろうか。祥太にしてみればむかつく行為にしか思えない。
祥太は半ばやけになって振ってみた。
茂樹は何も言わずにそれを見ていたが、祥太のシェークを飽きずに見てくれた。
「ボディを支える指がしっかりしてきたね」
アドバイスを聞きながら、祥太は額を流れる汗を拭いた。ようは氷を砕き、材料がまんべんなく混ざるようにすればいいのだ。
頭では分かっていても上手くいかない。祥太は意地になってシェーカーを振った。
「手が痛くなってきた」
振りすぎて腕がヒクヒクしている。祥太が手を休めた。
「ちょっと休もうか」
息をついてカウンターを見ると、練習のために用いた水やら氷が散乱していた。茂樹は何も言わずにテーブルを綺麗に拭いた。すると、タイミングを見図るように、ソファに座っていた宏人が立ち上がって、つと祥太の腕を引いた。
「祥太、帰ろうよ」
「えっ?」
祥太は声を上げて、思わず茂樹を見つめた。
茂樹は顔を上げてにっこり笑う。
「嫌だ。俺、もう少し練習したい。宏人、先に帰っていいよ」
名残惜しそうに茂樹を見ながら言うと、
「一人で帰るのは嫌だ。待ってるよ……」
としぶしぶ言って、宏人がソファに座り直した。その時、場違いな音で携帯電話が鳴り響いた。
祥太はびくっと肩を震わせた。
宏人が、あ、と言ってポケットから電話を出すと、祥太から目を反らした。
「もしもし? 僕だけど……。え? ごめんね、今忙しいんだ。え? うん。分かった……。すぐに行く」
ぷちっと電話を切って顔を上げた。
「どうしたんだ?」
祥太が訊ねると、宏人が不機嫌に答えた。
「彼女から電話。今すぐ家に来いだって」
彼女と聞いて、チクンと胸が痛かった。
「あ、そう……」
何気ない顔をしたつもりだったが、指先が震えた。
「面倒くさいな」
宏人がぽつりと呟く。祥太はむっとした。
「そんな事言ったら彼女がかわいそうだろ。早く行ってあげろよ」
つっけどんに言うと、宏人が面食らった顔で立ち上がった。
「だ、だって祥太……。まだ、帰らないんでしょ?」
「帰らない。お前は早く彼女のところに行けよ」
突き放すように言うと、再び宏人の電話が鳴った。
「ほら、早く行けよ」
「祥太が冷たい」
宏人がぼそりと言った。
「違うだろ」
「分かったよ……」
肩を落として宏人がドアに向かった。
「ごちそうさまでした……」
「また遊びにおいで」
茂樹は宏人を玄関まで見送りに行った。