カクテル
「せっかくだから、自分が作ったカクテルを飲んでみる?」
茂樹の申し出に祥太は感激して立ち上がった。
「いいのっ?」
ずっと触って見たいと思っていたのだ。
「もちろんだよ」
「宏人くんもやるでしょ?」
ちらりと見ると宏人はこくんと頷いた。
「やる」
「よかった」
にっこりと笑って、三つシェーカーを取り出した。
「じゃあ、まずは振り方の練習をしてみようか。材料は水を用意するから、ちょっと待っていてね」
茂樹がいなくなると、祥太はシェーカーのトップを外したり真ん中にある蓋を弄ったり、見よう見まねでシェークしてみた。
「上手いだろ」
カシャカシャと上に下に振り回していると、宏人が憮然とした顔で、
「知らない」
と言った。
「お前、さっきから何怒ってんの? 茂樹さんの料理上手かっただろ?」
「美味しいからむかつく」
「はあ?」
理解できずに肩をすくめると、茂樹が戻って来た。
「まず初めにシェーカーの名称から説明するね。このフタの部分を『トップ』。真ん中が『ストレーナー』。胴体を『ボティ』って言うんだよ。分かった?」
二人は頷いたが、よく理解できていない。
「はい。じゃあ、ボディに氷を四つほど入れてみて。それから、材料は水を使うからね。それから、ストレーナーをはめる。中身が零れないようにしっかりとはめてね」
まごまごした手つきで、祥太はストレーナーをはめた。
満足して顔を上げると、茂樹が笑った。
「最後にトップをはめて。そして、右手は、親指でトップを押さえて、小指と人差し指で挟んで」
言われた通りにボディを持とうとしたが、祥太の手は少し小さい。
「あれ…?」
言いながら首を傾げると、茂樹が背後にまわって手を添えてくれた。
「左手の中指と薬指は底を押さえて、親指はストレーナーが外れないようにしっかり押さえてね。他の指はボディを押さえるんだよ」
「う…ん」
祥太は上手くやろうとして力んだ。
「ほら、肩の力抜いてね」
にっこりと笑いかけられて、祥太は赤くなる。
「は、はい」
力を抜いてから次の指示を待った。
「それから上向きに肘を前に出して戻す」
祥太は肘を前に出したまま止まってしまう。
「あ、あれ?」
「肘を伸縮させて上下に振るんだよ。見ていて」
茂樹が祥太の手にそっと触れるとするりとシェーカーを取った。
目にも止まらぬ速さでシェーカーをリズミカルに振った。
「かっこいい」
「中の氷と材料を混ぜるように十五回から二十回ほど振るんだ」
戻って来たシェーカーの中身を開けると氷は粉々になっている。
要領は得たとばかりに、祥太はシェーカーを振り始めた。