ごちそう
モデルのような顔立ちに宏人が呆気に取られている。それからハッとして口を閉じた。
「こんにちは」
祥太が頭を下げると、茂樹が、どうぞと二人を促した。
ふかふかのスリッパを差し出され、二人は言われるままに中に入った。
細長い廊下を歩きながら、
「君が宏人くん? 裕一から聞いていたよ。かっこいいね」
と、ちらりと見てから目を細めた。
宏人の方が、茂樹よりも背が高い。
宏人は顔を強ばらせたまま首を振った。
「そんな事ないです…」
茂樹はくすっと笑うと、突き当たりの手前で立ち止まり、分厚い木のドアを開けた。
「どうぞ。僕の秘密の部屋です」
「わぁ……すごい……」
祥太が驚きの声を上げた。
窓のない部屋は暗く、小さな証明が点々と灯っている。
兄の部屋とは格別に違い、どっしりと構えるようなソファとテーブルが置いてあった。作り付けの棚にはびっしりとお酒が並んでいる。
祥太が目を丸くしている一方、宏人は眉をひそめた。
「ここは?」
「貯蔵庫にもなっている。僕の非難場所。辛い時はシェーカーを振って気を紛らしたりするんだ」
シェーカーと言う言葉に、宏人がまなじりを上げた。
「茂樹さんはバーテンダーって奴?」
「そうだよ。今日は僭越ながら、僕が君たちの仲直りパーティーを開かせてもらいます。料理が得意なんだ。食事が終わったら好きなくだもののカクテルを作るよ。考えておいてね。もちろん、ノンアルコールだけど」
「別にアルコールが入っていても平気だよ」
宏人がぼそりと言う。茂樹は首を振った。
「ダメだよ。未成年にお酒を飲ませようとするほど僕はお人よしではないよ」
「ちぇっ」
口を尖らせる宏人を見て、祥太は驚いていた。
年上に対してこんな口のきき方をしているところは見た事がなかった。
宏人に何か言おうとすると、茂樹に遮られた。
「じゃあ、リビングに行こうか。君たちお腹は空かせて来たんでしょ?」
「あ、はい」
朝から何も食べていない。
宏人に追い立てられて電話をかけて、その足でここに来たのだ。お腹はペコペコだった。
三人はリビングに移動した。そこは打って変わって明るく、淡いオレンジ色のカーテンが揺れていた。テーブルに食事が並べられている。
祥太はまたもや驚きの声を上げた。レストランに出てきてもおかしくないレパートリーである。
「すごいね…」
ため息を漏らして宏人を見ると、彼はムッとした顔をしている。
「ど、どうしたんだ?」
聞いてみたが、あまり聞こえていないようだ。
祥太は肩で息をついて茂樹の方へ近寄った。
「茂樹さん、何か手伝いますか?」
「じゃあ、パエリアを運んでくれる?」
「はい」
IHにかけてあったパエリアを見て、ごくりと喉を鳴らした。