春希の家
一方、モデルになってほしいと頼まれた祥太は一度家に帰り、お泊りセットを用意してから、春希の家に来ていた。
明日は土曜日でサッカーの練習も休みだったため、泊まりに行ってみようと思ったのだ。
春希は一人っ子だそうで、木造建築の少し古い家に住んでいた。祥太の部屋より広く、ベッドと勉強机と椅子と本棚がある。突然、祥太を誘った割に部屋は綺麗だった。
てきとーに座ってと言われ、カーペットに座る。春希は、部屋を出て行ってから少しして戻って来た。お盆にオレンジジュースとスナック菓子を持っている。
食べようよ、と言って床に置き、二人でぺたんと座ってお菓子をつまんだ。
春希は、祥太の顔をじろじろ見た。
「何?」
「あ、ううん。何でもないよ」
春希はわざとらしくそっぽを向いてジュースを取った。祥太は、本棚にある漫画本に気づいた。
「読んでいい?」
「いいよ。あ、でも、手を洗ってよ。本が汚れるから」
「ああ」
手洗い場に連れて行かれ、手を洗う。それから部屋に戻って漫画を読み始めると、春希はそばに座って祥太の顔をスケッチし始めた。漫画本をめくる音と鉛筆のこすれる音がしている。
ふいに、祥太は、宏人のことを思い出して、本を閉じた。
「どうかした?」
「あ、いや……」
再び本を開いて読もうとしたが、集中できなくなった。それを春希がじっと見ている。
「お腹空いた? 少し早いけど、お母さんに言って夕ご飯にしてもらおうか」
「うん……」
春希のお母さんとはさっき挨拶をした。お母さんは、かわいい子が来てくれて嬉しいと言っていた。
夕飯を頂いて、それから先にお風呂に入らせてもらった。
夜寝る前も、やっぱり春希は絵を描いていた。
「ねえ」
祥太は、春希のベッドに横になったまま話しかけた。
「ん?」
「それ見せてよ、描いたやつ」
「……。いいよ。約束したもんね」
春希がスケッチブックを見せてくれた。たくさんの絵を見ながら、これが俺? と思った。
「なんか、俺ばっかだな」
「そりゃあね、君しか描いてないから」
「飽きないのか?」
「なんでか飽きないね」
「春希は変わってんな」
「……」
「どした?」
「今、僕のこと春希って言った」
「あ、ごめんっ」
「いいよっ。なんか嬉しかったから。僕も、君のこと祥太って呼んでもいい?」
「ああ」
春希の言葉が祥太も嬉しかった。
「なんか変な感じ。一人っ子だからかな。誰かが部屋にいるのって変な感じがする」
「俺は兄ちゃんがいるんだ」
「へー、そうなんだ」
「兄ちゃん、今頃何してるかな。あ、バイトに行ってるな、たぶん」
「ふうん」
祥太はスケッチブックを返した。
うまいか下手かなんて分からない。けど、春希は本当に絵を描くのが好きなんだな、と思った。
春希はスケッチブックを受け取ると、また、描き始める。その時、布団に放り投げていた祥太のスマホが鳴り出した。
「……しょ、祥太、鳴ってるよ」
「ああ」
スマホを手に取って確認する。
相手は宏人からだった。ぎくりとして、思わずスマホを取り落とした。
「どうしたの?」
「え?」
「出ないの?」
「あ、う、うん……」
動揺を隠しきれず、祥太の手は動かなかった。スマホの音が、プッと消えた。胸がドキドキしている。
「大丈夫?」
いつの間にか春希がそばに来ていた。
「うん……」
「嫌な人からの電話だった?」
「え?」
嫌な人。
宏人が嫌な人のわけない。
でも、どうして出なかったのかな。
自分の気持ちが分からなかった。




