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けなげな王子に愛を  作者: 春野セイ
第一部 中学生編
17/51

春希の家



 一方、モデルになってほしいと頼まれた祥太は一度家に帰り、お泊りセットを用意してから、春希の家に来ていた。

 明日は土曜日でサッカーの練習も休みだったため、泊まりに行ってみようと思ったのだ。


 春希は一人っ子だそうで、木造建築の少し古い家に住んでいた。祥太の部屋より広く、ベッドと勉強机と椅子と本棚がある。突然、祥太を誘った割に部屋は綺麗だった。


 てきとーに座ってと言われ、カーペットに座る。春希は、部屋を出て行ってから少しして戻って来た。お盆にオレンジジュースとスナック菓子を持っている。


 食べようよ、と言って床に置き、二人でぺたんと座ってお菓子をつまんだ。

 春希は、祥太の顔をじろじろ見た。


「何?」

「あ、ううん。何でもないよ」


 春希はわざとらしくそっぽを向いてジュースを取った。祥太は、本棚にある漫画本に気づいた。


「読んでいい?」

「いいよ。あ、でも、手を洗ってよ。本が汚れるから」

「ああ」


 手洗い場に連れて行かれ、手を洗う。それから部屋に戻って漫画を読み始めると、春希はそばに座って祥太の顔をスケッチし始めた。漫画本をめくる音と鉛筆のこすれる音がしている。

 ふいに、祥太は、宏人のことを思い出して、本を閉じた。


「どうかした?」

「あ、いや……」


 再び本を開いて読もうとしたが、集中できなくなった。それを春希がじっと見ている。


「お腹空いた? 少し早いけど、お母さんに言って夕ご飯にしてもらおうか」

「うん……」


 春希のお母さんとはさっき挨拶をした。お母さんは、かわいい子が来てくれて嬉しいと言っていた。


 夕飯を頂いて、それから先にお風呂に入らせてもらった。

 夜寝る前も、やっぱり春希は絵を描いていた。


「ねえ」


 祥太は、春希のベッドに横になったまま話しかけた。


「ん?」

「それ見せてよ、描いたやつ」

「……。いいよ。約束したもんね」


 春希がスケッチブックを見せてくれた。たくさんの絵を見ながら、これが俺? と思った。


「なんか、俺ばっかだな」

「そりゃあね、君しか描いてないから」

「飽きないのか?」

「なんでか飽きないね」

「春希は変わってんな」

「……」

「どした?」

「今、僕のこと春希って言った」

「あ、ごめんっ」

「いいよっ。なんか嬉しかったから。僕も、君のこと祥太って呼んでもいい?」

「ああ」


 春希の言葉が祥太も嬉しかった。


「なんか変な感じ。一人っ子だからかな。誰かが部屋にいるのって変な感じがする」

「俺は兄ちゃんがいるんだ」

「へー、そうなんだ」

「兄ちゃん、今頃何してるかな。あ、バイトに行ってるな、たぶん」

「ふうん」


 祥太はスケッチブックを返した。

 うまいか下手かなんて分からない。けど、春希は本当に絵を描くのが好きなんだな、と思った。

 春希はスケッチブックを受け取ると、また、描き始める。その時、布団に放り投げていた祥太のスマホが鳴り出した。


「……しょ、祥太、鳴ってるよ」

「ああ」


 スマホを手に取って確認する。

 相手は宏人からだった。ぎくりとして、思わずスマホを取り落とした。


「どうしたの?」

「え?」

「出ないの?」

「あ、う、うん……」


 動揺を隠しきれず、祥太の手は動かなかった。スマホの音が、プッと消えた。胸がドキドキしている。


「大丈夫?」


 いつの間にか春希がそばに来ていた。


「うん……」

「嫌な人からの電話だった?」

「え?」


 嫌な人。

 宏人が嫌な人のわけない。

 でも、どうして出なかったのかな。

 自分の気持ちが分からなかった。



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