自由とは
授業中、宏人の心は上の空でずっと祥太のことばかり考えていた。
ぼんやり黒板を眺めていると、日直の生徒が号令をかける声に我に返った。
宏人は遅れてすぐに立ち上がった。いつの間にか授業が終わっている。みんなは掃除をするために椅子や机を動かし始めた。
あ、もう掃除の時間か。
宏人も同じように椅子と机を床掃除がしやすいようにと動かした。机を少し浮かせて動かしていると、ふいに、ツンと鼻が痛くなった。やだな、どうしてこんな時に……。
感傷的になっているのは、祥太がいないせいだ。
自分の割り当てられた掃除場所へ急いで移動する。そして、今日も一日が終わっていく。
家に帰る道も一人だ。いや、違った。今、宏人の腕にしがみついているのは瑞穂だ。
ホームルームが終わって、放課後、一緒に帰ろうとやって来て、教室を出て校門を出てもずーっと一緒にいる。
瑞穂は朝から元気いっぱいだ。
「君は元気だね……」
「え? なんか言ったあ?」
瑞穂の底抜けの明るさに、宏人はため息をついた。瑞穂がゲーっという顔をする。
「くっらー、何そのじめじめした顔。かっこいい顔が台無しじゃん」
瑞穂にけらけらと笑われてムッとした。
言ってしまおうか。
祥太のことを知っているのは、瑞穂だけだし、聞いてくれそうな気がした。
「……夕べと今朝、祥太がうちに来なかったんだ」
「へ? あ? ああ、そうなの?」
瑞穂はいきなり語り出した宏人にちょっと驚いた。
「へー、風邪でも引いたのかな。お見舞いに行ったら?」
「え? か、風邪?」
そうか。その考えはなかった。
宏人の心に少し希望の光がさした。よかった。僕を無視しているわけじゃないんだ。
「そうだな、ありがとう、瑞穂」
「んあ?」
「僕、祥太に無視されたのかと思って……」
無視していたのは、宏人の方だったがその点は棚に上がっている。
「はあ、宏人って、本当に子どもっぽいよね。そんなに大きな体してんのにさあ」
「どういう意味だよ」
「もう、高校生なんだよ。もっと自由に考えていこうよ」
「自由にって……」
瑞穂の言っている自由って何だろう。
宏人は家に向かって歩きながら考えてみたが、大雑把すぎてその自由の意味はよく分からなかった。




