仲直り
次の日、祥太は知恵熱が出て学校を休み、ベッドの中で一日を過ごす羽目になった。それでも心はうきうきしていた。泣いたのが良かったのかもしれない。
許してくれるよ、と言う茂樹の言葉を信じたいと思った。
宏人が自分の顔を見るのが辛いのかもしれないけど、あきらめないで待とう。
昼間ぐっすりと眠り、夜になって体を起こした。熱は下がったし、お風呂に入ってさっぱりしたい。そして、明日からまた元気な自分になろう。
替えのパジャマを手に持って階段を下りると玄関に誰かいた。
「誰?」
そっと覗くと、そわそわと中の様子を窺っている宏人がいた。
「嘘…」
祥太は、口を押さえたまま呆然と立ち尽くした。
「あ……祥太」
宏人がハッとしてこちらを見上げた。久しぶりに声を聞いた。自分の名前を呼んでくれた。
「あの…祥太……」
宏人が気まずそうに顔を伏せる。
「どうしたの?」
祥太は思わずそう言っていた。
「兄ちゃんに会いに来たの?」
本当は自分に会いに来てくれたの? と聞きたかった。しかし、そこまで言える勇気はない。
宏人は首を振った。
「違う。祥太に会いたくて…」
「俺に……?」
耳を疑いそうになった。
「本当に? 俺に会いに来てくれたの?」
胸がじんと熱くなった。今すぐ階段を駆け下りて宏人に抱きつきたい。すると、
「祥太、下りて来てよ」
と宏人の声にハッとした。
「あ、うん…」
祥太はゆっくりと階段を下りた。
こんなに身近に宏人がいるなんて。
宏人は、もじもじしながら呟いた。
「昨日と今朝、来なかったから……。何かあったのかと思って、気になって来たんだ」
その言葉にアッと驚く。確かに、宏人からすれば毎日会いに来ていた自分が来なくなれば何かあったと思うかもしれない。
「宏人……」
思わず手が伸びて宏人の洋服をつかんだ。宏人がぎゅっと祥太を抱きしめた。
ほっとした。久しぶりに嗅ぐ宏人の匂いだ。
祥太は言葉に詰まった。
涙が出る。たくましくなった腕がいっそう強く抱き寄せた。
「ごめん。祥太、ごめんね」
必死で謝る声が耳に届いた。
「うん……」
宏人がそばにいる。嬉しくてたまらなかった。
手を伸ばして背中を抱きしめると、びくりと宏人の体が震えた。
「今日、泊まってもいい?」
と控えめながらも、お決まりのセリフを久々に吐いた。
祥太はこくりと頷いた。
「いいよっ。いいに決まってるじゃんか」
「一緒に寝てもいい?」
「うん。でも、狭いから落っこちても知らないけどな」
ちょっと意地悪く言うと、宏人は目を瞠って、言葉に詰まった。
「お、落ちないよ。僕は祥太にしがみついているから」
「勝手にしろよ」
祥太が笑うと宏人も一緒になって笑い合う。
お互いの視線を絡ませて、祥太は宏人を見つめた。
「祥太、ごめんね」
「俺こそ、もう離れたくない」
そう言うと、宏人の目が丸くなり、見る見るうちに白い頬が赤く染まった。
「宏人?」
訝しげに首を傾げると、宏人が首を振った。
「何でもない。じゃあ、支度してまた来るね」
「うん。俺は風呂に入ってくるから部屋で待ってて」
「分かった」
宏人は急いで玄関を飛び出して行った。